コロナ感染が蔓延する精神科病院は「健康で文化的」と言えるのか? 「メシ・フロ・ネル」と健康との関係

文=みわよしこ
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 精神科病院には、日本社会全体の4倍に相当する新型コロナ感染リスクがある。精神科病院は「病院」でありながら医療密度が低い。患者数あたりの医師数は一般病院の3分の1であり、そのほとんどは精神科医である。「おちおち病気になれない」と住民がぼやく医療過疎地域のようなものだ。

 そして、生活環境には「3密」が揃っている。そこに、多数の高齢者を含む入院患者がいる。病院である以上、せめて衛生的であることは期待したい。生活の基本である「メシ・フロ・ネル」の実情は、どのようになっているだろうか。

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コロナ感染が蔓延する精神科病院は「健康で文化的」と言えるのか? 「メシ・フロ・ネル」と健康との関係の画像2 ウェジー 2021.03.06

食事は入院生活の喜びでありうるか?

 食べることに問題がない場合、入院生活の最大の楽しみは、1日3回の食事であろう。食事の意義は、空腹を満たし栄養を摂取することにはとどまらない。特に、変化の少ない入院生活の中では、時間の感覚をもたらし、味覚嗅覚への刺激と喜びを与えてくれるのが食事である。たとえ、夕食が午後5時に開始され、長い夜を空腹を抱えて過ごすのだとしても。

 一般病院では、食事は患者各自のベッドサイドに運ばれる。しかし精神科病院では、患者がホールに集まって食事するスタイルが多い。このことには、多様な背景がある。

 まず、精神科特有の「スタッフが一般病院より少ない」という事情がある。病室でベッドの上に食事をこぼされると、ベッドリネン交換や洗濯が必要になるかもしれない。拒食症の患者が、過食症の患者に自分の食事を譲ってしまうかもしれない。「そっちのトンカツが一切れ多い」といったことで口論や乱闘が起き、仲裁や鎮静が必要になるかもしれない。ホールに患者が来て食事を受け取り、テーブルで食事し、食器を洗い場に運ぶというスタイルは、そういった手間暇の節約に役立つだろう。

 何よりも予防しなくてはならないのは、生命にかかわる事故である。入院患者の中には、食事を猛スピードでかきこむ人もいる。時には、食物を喉に詰まらせて窒息する場合もある。スタッフの目の前で起これば、詰まった食べ物をすぐに吐き出させて気道を確保することができる。

 入院患者の中には、個別の食事介助が必要な人もいる。そのような個別のニーズに対応するためにも、全員がホールに集まって食事するスタイルは都合がよい。スタッフの1人がホール全体の様子を見て、1人が下膳のチェックをして、残る数名が食事介助をすれば、最小の人員で、患者数十名の食事に対応できることになる。

 精神科病院の入院患者の高齢化は、極めて著しい。最新の2019年のデータによれば、精神科入院患者数(大学病院等を含む)は約27万2000人であった。このうち、65歳以上75歳未満の患者は約6万9000人、75歳以上の後期高齢者である患者は約9万5000人であった。高齢者である患者の合計は約16万4000人、高齢化率は約60%である。同年、65歳以上の入院患者のうち10万3000人が認知症を患っていた。日本全体の高齢化に伴い、入院精神医療の主力は、若年者の統合失調症から高齢者の認知症へと移っている。

 食事介助の都合からも、食堂で食事するスタイルは都合がよい。ベッドサイドで食事介助を行う場合、1人の患者の食事開始から終了まで、1人のスタッフが付きっきりになる。しかし大テーブルで食事する場合、1人のスタッフが同時に複数の患者の食事介助を行うことができる。

 政策の都合と病院経営の都合により、人員配置は手薄にならざるを得ない。精神科病院の報酬体系は、そのように組み立てられてしまっている。すると、入院生活の何もかもが「効率のよい集団管理」のスタイルに近づけられてしまう。

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