コロナ感染が蔓延する精神科病院は「健康で文化的」と言えるのか? 「メシ・フロ・ネル」と健康との関係

文=みわよしこ
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「寝るほど楽はなかりけり」は精神科病院の中でも真実か?

 「世の中に寝るほど楽はなかりけり浮世の馬鹿は起きて働く」という、作者不詳の狂歌がある。起きて働くことが「馬鹿」かどうかはともかくとして、安眠は幸福感と深くつながっている。

 「メシ・フロ・ネル」の「ネル」、眠ることについては、「一般病院なら環境が良好」というわけではない。病院は、夜間も消灯後も、あまり静かにならないものである。あちこちから照明が漏れたり、医師や看護師が手にしたライトの揺らぎが見えたりすることも、入眠を妨げる要素となる。

 精神科病院では、どうだろうか。前出のBさんは、直近の「悪くなかった」入院について、次のように語る。

「大部屋の病室に入院することになったのですが、病室にあったベッドは4つだけ。それぞれの周囲にカーテンがあって、隣のベッドから丸見えにならないようになっていました。まるでホテルみたいだと思いました。カーテンがあれば、着替える時に周囲の目を気にしなくていいし」(Bさん)

 それぞれのベッドのまわりにカーテンがあっても、開けておくのが当たり前になっている病院もある。「同室の患者さんのオムツ交換を見たくないし自分のプライバシーを守りたいから、カーテンは閉めておこうとしたけれど、看護師や清掃スタッフが通りすがるたびに開けてしまうので諦めた」と語る経験者もいる。ベッドとカーテンがあるからといって、それだけで充分というわけではなさそうだ。

 病棟によっては、畳敷きの病室が残っているかもしれない。

 前出のCさんは、はじめて精神科に入院して病室に案内された時、「まるで刑務所みたい」と感じたという。

「テレビドラマに出てくる刑務所では、部屋に布団を隙間なく敷いて、すぐ隣に他の人が寝てる感じですよね。その風景にそっくりでした」(Cさん)

 2000年代に入ってから数年後のことだったが、その病院には現在も畳の病室が残っているという。

 和室の病室は、江戸時代を舞台とするドラマの療養所の風景として出現する。しかし、明治維新後、近代病院が現れるとともに、ベッドに駆逐されたようだ。現在、産科や緩和病棟の一部に存在する和室の病室は、寛ぎやリラックス感が演出された特別な場所であることが多い。

 精神科病院には、現在もわずかながら、和室の病室が残っている。それは、世の中から取り残された存在であることの象徴のようなものである。

「8畳くらいの病室に、最大で7人がいました。布団を敷いたら、もう部屋に隙間は残らないような狭さです。そんな中で寝起きしていました」(Cさん)

 起床時刻になると、起こされた患者が布団をたたみ、押入れに入れた。押入れには看護師がカギをかけた。体調が悪い時、昼間は畳の上で横になるしかなかった。医師が「布団を敷いて寝ていたら?」と言っても、看護師に「聞いてません」と言われれば、それまでだったという。それにしても、8畳間に7人は「密」すぎるのではないだろうか。

 さらに、定員超過の可能性もある。病院の設備に関しては、古くから残っている精神科病棟に対する基準が最も緩やかなものとなっている。それでも、Cさんが入院していた時期、病室の広さは1病床あたり4.3平方メートル以上である必要があった。8畳間は13.2平方メートルに該当し、3病床しか設置できないはずである。ベッドなら、3台運び込むこと自体が無理かもしれない。しかし和室なら、容易に定員超過できる。

 「畳に布団」には、衛生面の問題もある。床面近くには、塵埃が溜まりやすい。人や布団の動きによって巻き上げられた小さめの塵埃は、床面からの高さ20~30センチメートル程度よりも下に留まりやすい。布団を敷いて寝ている場合、鼻や口はその範囲にある。そしてウイルスや最近は、しばしば塵埃と一体化して空中を漂う。

 もちろん、「畳に布団」の利点はある。ベッドから転落して負傷する可能性がある患者でも、畳に敷かれた布団から転落することはできない。しかし、総合的な生活環境や清潔の維持しやすさという面では、洋室とベッドの方が圧倒的に有利だ。

新型コロナが問う、日常の健康と衛生のレベル

 新型コロナウイルス感染症は多くの人々に、日常的に身体の健康を維持することや衛生的であることの重要さを思い知らせた。しかし、自分の生活環境を自分がコントロールできない場面では、出来ることが限られている。

 精神科病院内部の環境は、病棟が建設された時期や経営陣の姿勢によって、大きく異なる。しかし2021年現在も、一般病院に遠く及ばない状況にある精神科病院は残っており、実態は不明なままである。劣悪な病院が視察を受け入れない傾向にある一方で、視察者が閉鎖病棟の奥や保護室の中まで見られる優良な病院もある。

 コロナ禍は、面会や視察などで第三者の視線が入り込む機会、そして入院患者が退院する可能性を激減させた。このことは、精神科病院内の環境が改善される可能性も減少させた。この間、新型コロナへの感染リスクは、世の中全体と同様に増大している。そこで何が起こるのか。シミュレーションしてみる必要さえないだろう。

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