東京都民は本当に貧乏なのか? それでも東京一極集中が加速する理由

文=加谷珪一
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GettyImagesより

 東京の賃金が高いことは誰もが知る事実だが、一方で東京は生活費も高い。国土交通省の調査によると、世帯収入から各種費用を差し引いた「生活余力」では東京は最下位になるという。

 つまり東京に住む人は日本でもっとも生活に余裕がないという解釈だが、それでも多くの人が東京に住みたがるのはなぜだろうか。

東京都に住む人の余裕は全国最下位?

 国土交通省が総務省の全国消費実態調査を元に行った分析によると、東京に住む中間層の世帯は、生活余力の面で47都道府県中最下位となっており、他地域と比較して豊かではないと結論付けている。

 東京における勤労世帯の平均可処分所得(2人以上の世帯)は全国3位と高い順位になっている。ただ全世帯の平均値は高額所得者が数字を引き上げている可能性があるので、必ずしも中間層の生活実態を示しているとは限らない。そこで可処分所得の上位4〜6割の世帯(中央世帯)を対象に、再度、順位付けを行ったところ、東京の平均所得は12位と大きく後退した。

 この平均所得を基準に、家賃や食費、光熱費などの支出を差し引くと、世帯が実際に使える金額が算出できる。この金額で都道府県を比較すると東京は一気に42位に転落してしまう。ここからさらに通勤時間を費用換算した金額を控除すると東京は見事、最下位になる。

 この調査は、東京の一極集中を是正する施策の一環として実施されているので、この結果をもって東京一極集中の是正が必要という流れになっているのだが、東京の生活コストが高いというのは紛れもない事実であり、多くの国民がそれを実感しているはずだ。だが、それにもかかわらず、なぜ多くの人が今でも東京に住み続けるのだろうか。この部分を明らかにせず、ただ地方への分散が必要と繰り返すだけでは、問題は解決しないと筆者は考える。

地方は親との同居が多い

 地方に行くと著しく給料が下がるというのは、誰もが知る常識である。2019年における東京における平均月額給与(5人以上の事業所)は41万4600円だったが、もっとも低い県は24万6900円と東京の6割しかなかった。地方では正社員として勤務しても年収が200万円台という話はザラなので、これではいくら生活費が安いといっても暮らすの容易ではない。

 それにもかかわらず、世帯収入で東京を上回る府県が出てくる理由は、おそらく世帯人員数にあると思われる。この統計では2人以上の世帯が調査対象となっているので、世帯人員に上限はない。地方の場合、親との同居が多く世帯人員が多い。1人の収入が年200万円以下であっても、全員が働き、親がわずかな年金をもらっていれば、世帯全体としては収入が増える。

 一方で、地方は家賃も安く、同居していれば1人あたりの負担はさらに少なくて済む。そして極めつけは通勤の機会コストだろう。これは通勤している時間を労働に充てることができた場合、いくら稼げるのかという機会費用をベースに算出されているので、賃金が高い東京は圧倒的に不利になる。こうした条件が重なって東京は最下位となっているのだが、1人あたりの金額に換算した場合、順位はかなり違ったものとなるだろう。

 もうひとつの要因は家賃である。この統計では実際に賃貸にかかる家賃に加えて、持ち家の帰属家賃が含まれている。これは実際に家賃が発生していなくても、家賃が発生したと見なして統計処理するというものであり、あくまでも見かけ上の金額である。ローンを抱えていない世帯の場合、この金額はそのまま可処分所得となるので東京の実質的な可処分初頭はもっと多いはずだ。

デメリットを上回るメリットの提示が必要

 一連の状況を俯瞰すると、リアルな現状が浮かび上がってくる。計算上、地方の生活は豊かに見えるが、それは大家族が前提となっており、しかも不動産の効果が除外されたものである。つまり東京は、物価は高いが、自力で稼いで生活を成り立たせることが可能であり、人生設計の自由度が高い。一方、地方は生活に余裕があるが、1人が稼げる絶対値は低く、結果として人生設計の自由度も低い。

 何よりも大きいのはやはり賃金だろう。いくら生活費が安くても、自活できない水準の給与しか稼げない状況では多くの人が地方での生活について躊躇するはずだ。こうした現実を無視して、いくら地方が豊かであると喧伝しても、なかなか国民は決断しない。

 しかも困った事に、今後、日本は急速に人口が減っていく未曾有の人口減少社会に突入する。人口減少が進む経済圏では都市部への人口集約が発生するのは自明の理であり、このまま何もしなければ、さらに一極集中が進んでしまう。地方で人口が減れば、商圏が縮小し、さらに賃金が下がるという悪循環に陥るだろう。

 本気で東京の一極集中を是正したいのであれば、こうした事実をすべて前提にした上で、地方移住に対して、デメリットをはるかに上回るメリットを提供する必要がある。だが現状の一極是正策にそこまでの覚悟があるとは到底思えない。

 そもそも、こうした調査や施策を行っている中央官庁はすべて東京にあり、一極集中の是正が必要であると主張している論者のほとんどが東京に住んでいる。製造業など、東京に本社を構える必要がないと思われる業種であっても、ほとんどが東京に本社がある状況では、地方移住を促しても効果は薄いだろう。

教育環境の分散も必須

 教育環境も同様である。東京圏への転入者の中で29歳以下が占める割合は90%を超えており、東京にやってくるのは圧倒的に若い世代が多い。近年は多くの若者が大学に進学するので、東京への転居理由のうち進学が占める割合は高い。

 日本の場合、諸外国とは異なり教育機関も東京に一極集中しており、これも地方への分散を妨げる要因のひとつとなっている。東京都に存在する大学の入学定員総数は15万人を超えているが、これは他県と比較すると突出して高い水準である。2位の大阪でも約5万人で、1万人以下の県がほとんどという現実を考えると、教育分野の東京一極集中は他の分野よりも著しい。

 本気で地域分散社会を構築したいのであれば、地方に高度な教育機関を誘致し、その教育機関への進学者に対しては学費を無料にするなど、思い切った施策が必要だろう。

 結局のところ、日本における東京一極集中是正を妨げている最大の原因は国民の「本気度」であると考えざるを得ない。官庁がすべて東京を拠点として、多くの企業が本社を東京に置き、そして教育機関の大半が東京にあり、さらに圧倒的に賃金が高いという状況では、地方への移住を決断するのは現実的に困難である。

 こうした状況を前に、物質面ではない生活の豊かさなどをアピールしても、多くのビジネスパーソンの心には響かない。地方にいても十分な教育を受けることができ、高い賃金を得られる職場があれば、多くの人が促されなくても地方に移住するはずだ。

 国民全体が本気で望めば、首都圏一極集中の是正は難しいことではない。一方で、本気度が低ければ、この政策が効果を発揮する可能性は極めて低いだろう。

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