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●日本人のつくりかた(第4回)
亀井静香「天皇の国だよ」発言が炎上
2月18日に放送されたNHK・ETV特集『夫婦別姓:“結婚”できないふたりの取材日記』に元国民新党代表の亀井静香氏がインタビューで登場、そこで夫婦別姓での結婚を望むカップルに次のように語った模様が放送された。
日本はな、天皇の国だよ、簡単に言うと。まあだから、民が、「夫婦が姓が一緒だ別だ」なんてね言うこともないんだよ。みんな天皇の子だから一緒なんだよ。
この発言には大いに呆れかえった。と同時に、よくもこんなモロな発言を引き出したなと取材者に感服した。当然、この発言を放送から文字におこしたものが一気に拡散・炎上し、とっくに政界を引退した亀井静香がにわかにトレンドワード入りした。
とはいえ、どうして夫婦別姓で「天皇」が飛び出してくるのか、理解できない人もたくさんいたと思う。
番組の中で、家族法の専門家である二宮周平立命館大学法学部教授も説明していたが、敗戦前まであった「家」制度のもとでの「戸主と家族の関係を、天皇と国民の関係になぞらえる」家族国家観が、亀井発言の基礎にある。
前回では、自民党内の保守派や右派系文化人が、選択的夫婦別姓であっても頑なに反対するのはなぜかについて見てきた。そして、彼らが反対する思想的根拠として、1945年の敗戦前まで日本社会を支配していた「家族国家」イデオロギーが基底にあることを指摘した。
自民党保守派にとって「選択的夫婦別姓」は姓氏だけの問題ではない 議論を後退させた背景にある“国家観”
●日本人のつくりかた(第3回)他人の「選択的夫婦別姓」が、どうしてそんなにイヤなのか 2020年12月末、政府の第5次男女共同参画基本計画改定を…
けれども、彼らは単純に復古的な「家」制度への回帰を目指しているのではない。
突然「自助・共助・公助、そして絆」がコンニチワ
「夫婦別姓」問題について、自民党の山谷えり子参院議員は、毎日新聞に寄せた談話の最後で次のように語っていた。
菅内閣は「自助・共助・公助、そして絆」を目指す社会像と言っている。日本の場合は、絆というのが大きなパワーだった。絆というのは縛りにもなるから抑圧だという人もいるが、絆という面をやっぱり大きく豊かに時代に合わせて育てていくという知恵が日本の底力につながっていくと思う。
毎日新聞 2020年11月26日
夫婦別姓について語っていたのに、最後に突然、菅内閣発足時のキャッチフレーズが出てくる。しかもたいへん評判の悪い「自助・共助・公助」には触れずに、おまけでくっつけられた「絆」が強調されている。山谷によれば、日本では「絆というのが大きなパワーだった」「日本の底力につながっていく」なのだそうだが、不思議なことにこの「パワー」は夫婦別姓にすると弱められてしまうのだという。
極右シンクタンク・日本政策研究センターの機関誌で、山谷氏は次のようにも語っていた。
夫婦別姓の問題は選択制とはいえ導入すれば一つの戸籍に二つの姓が存在することとなり、「家族同氏」という「ファミリーネーム」がなくなります。名前は個人を表すものになり、ファミリーを表すものではなくなるという大変化なのです。姓が個人の所有になれば、夫婦や親子に対立構造が持ち込まれたり、家族の崩壊も招きかねません。〔中略〕
家族は和合の共同体です。行き過ぎた個人主義や権利概念を共同体に持ち込むことには慎重であるべきで、「選択的」という聞こえのいい言葉に流されて、家族と社会の弱体化が進んで行くことがないよう、引き続き力を尽くしたいと思います。
(『明日への選択』2021年2月号)
「姓が個人の所有になれば、夫婦や親子に対立構造が持ち込まれたり、家族の崩壊」がもたらされ、そこから「家族と社会の弱体化が進んで行く」ことになる……夫婦別姓でなくても、もうすでに〈夫婦や親子に対立構造〉なんてバリバリに存在していると即座にツッコミを入れたくなるが、不思議なのは「家族」と「社会」が並んで弱体化するとされているところだ。
家族がうまくいかなくなると、社会もグラグラになる?……とするともう手遅れじゃんとしか言いようがないが、どうやらこのあたりに、山谷氏が家族に「絆」パワーを求めてやまない仕組みがありそうだ。