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政策の壁を崩した新型コロナ危機
今回のコロナ危機は、経済の各面に「後遺症」をもたらしています。リーマンショックを超える経済危機に直面し、人的にも経済的にも大きな損失を出しただけに、各国とも通常の景気支援策を超えた臨戦態勢をとり、「非常事態」型の財政金融政策をとらざるを得ませんでした。
日本ではすでに金融緩和策が究極のレベルに達しているため、20年度に都合3回の補正予算で総事業規模300兆円(GDPの5割以上に相当)にのぼる経済支援策がとられました。その結果20年度の国債発行額は112兆円を超えました。米国でも昨年春に金利を一気にゼロに下げた上に、3兆ドルのコロナ支援策を実施、バイデン政権になってからもさらに1.9兆ドルの支援策を提示しました。
戦時体制下のような何でもありの政策対応で、金融政策も財政もこれまでの「壁」を取り払い、すでに後戻りできないところまで来てしまいました。そしてこの大規模経済対策を見て株式市場がバブルの様相を呈すほど高騰。持てる者と持たざる者との格差が一段と拡大しました。
米株式市場で「99%」の抗議行動
実際、2月上旬のニューヨーク株式市場では株式市場版「99%」「ウォール街デモ」ともいえる抗議行動が市場を揺るがしました。
SNS上で広まった「株式市場の利益をむさぼる一部の金融機関を懲らしめよう」とのメッセージがきっかけとなり、ロビンフッドという投資アプリを通じて、個人投資家が団結しました。
ターゲットとなったのが一部のヘッジファンドで、彼らはすでに株価が実態以上に吊り上がっていたゲームストップ社の株を空売りしていました。ところがこれを察知した一部のグループがSNS上で呼びかけ、ヘッジファンドの空売りに対して、小口の個人投資家が大挙してこのゲームストップ社の株を買い進め、むしろ当社の株価は上昇を続けました。
その結果、1株数10ドルだった株価は一気に480ドルを超えて急騰、空売りしていたヘッジファンドの含み損は100億ドル(1兆円強)を超えました。そして個人投資家が値上がり益を得てファンドに勝利しました。
コロナが新たな資産格差を
コロナ・パンデミックで多くの人が苦しむなか、株価は「コロナバブル」とでもいうべき上昇を続けています。米国株は、ダウにしろナスダックにしろ、史上最高値を更新するまでになりました。このため、一部の資産家、金融機関はますます富み、その埒外にあって職も住処も失ったコロナ難民との格差はますます拡大しています。
先のゲームストップ株を舞台にした個人投資家の反乱は、こうした資産格差に不満を持つ人々の抗議行動の一環と言えます。これは米国だけの現象ではありません。ヨーロッパでも日本でも起きていることです。
日本株も、コロナショックで日経平均は昨年3月に一時1万6000円台まで下げましたが、その後金融緩和に加え3次にわたる財政面からのコロナ支援策により、日本の株価も急騰。日経平均は2月中旬にはついに3万円を超えました。年率2倍の急上昇です。5Gブームに乗った半導体関連や、水素電池、巣ごもり消費者向けのゲームソフトなどが株価の大幅上昇をリードしました。
株など資産を持つものはますます豊かになる一方で、コロナの影響を強く受けた人々は米国よりもさらに悲惨な状況に置かれています。米国はコロナ支援が個人向けの給付金、失業保険上乗せ、給付期間延長などに向けられ、ミールクーポンによる食事支援もあります。一方で日本は企業向け支援が中心で、失業、休業者支援が遅れています。食べ物はNPOの炊き出しに頼り、住む家を失った人も少なくありません。
大規模金融緩和がもたらしたもの
こうした株高の裏には大規模な金融緩和策があります。日銀の総資産は昨年1年間に129兆円も拡大して702兆円となり、FRB資産は77%の大幅増となって7.3兆ドルに、ECB(欧州中央銀行)の資産も49%増の7兆ユーロに急膨張しました。この世界中での大規模緩和で流動性があふれ、その資金が株以外に行きようがなかったためです。何しろ世界の国債利回りの多くがゼロやマイナスでした。
おまけに、日本では日銀やGPIF(年金積立金管理運用特別行政法人)が大量に株を買い上げ、株価を押し上げました。日銀は年間12兆円を限度に株のETF(上場投資信託)を買い上げ、GPIFとともに買い一方の巨大投資家になっています。両者合わせると100兆円近い株を保有しています。
そしてコロナ禍が長期化すればさらなる経済支援が必要との思惑が市場にあふれています。まさにコロナが財政金融政策に歯止めのない支援策を求めるようになり、その結果が株価の異常な上昇と、コロナ難民の同居という歪んだ形をもたらしました。
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