ネオナチだけではない、ドイツの多様な陰謀論者 民主主義への不安に忍び込む極右の影

文=河内秀子
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政府やメインストリームメディア、医療への不信感

 支持者が、QUERDENKENに走る理由は、金銭的な問題ではなさそうだ。政府のコロナ対策措置が、経済的存在を脅かしているか?と言う質問に、「はい」と答えている人は3割ほどしかいない。

 しかし「コロナ対策措置により言論の自由と民主主義が脅かされている」と考えている人たちは、95%を超える。

 同じように明確な傾向が見えるのが、子どもに関する設問だ。

 「マスク着用義務は児童虐待か?」に、同意すると答えた人は88%、「コロナ対策措置により子どもたちは不当な負担にさらされている」にも、95%が同意を示している。

 典型的な「陰謀論」を信じる人達というわけでもなさそうである。

 「政治的決定に大きな影響を及ぼす秘密の団体がいると思うか?」と考えている人は半数ほどだが、「メディアと政治はぐるだ」という人は、76%。しかし「気候変動に関する研究は、大抵偽造されている」という典型的な陰謀論には、11%しか賛同がない。

 「ビル&メリンダ・ゲイツ財団は世界中を強制ワクチン接種するつもりだ」と6割が考えているが、「政府はワクチンとともにマイクロチップを入れて監視するつもりでは」と不安を感じているのは15%ほどだ。

 政府や、メディアへの不信感が大きいのも特徴的だ。

  1. 「政府は市民に対して真実を黙っている」 75%
    「与党は市民をだましている」 79%
    「国はますます我々に干渉している」 92%

 そして7割近くの人が、メインストリームメディアを全く信用していないと答える結果になっている。

 人種差別的な傾向は薄く、また「ナチスの犯罪は、歴史の説明の中で誇張されすぎている」と考える人もわずか2%であるが、反コロナ対策措置のデモにドイツ帝国旗があったことを重視しすぎだと考えている人達は、半数を超えている。

 医療に関しても「教室医学」と呼ばれる、一般的な医学への不信感が強い。

 「私たちの持つ自然治癒力は、ウイルスに勝つだけの力がある」「代替医療は通常医療と同等に扱われるべき」と考える人は6割を超え、ワクチン接種にも慎重な姿勢がうかがえる。

反コロナ対策措置デモと極右をつなぐもの

 「反コロナ対策措置デモは徐々に右傾化していったという報道もあったが、それは違う」とはっきり否定するのは、トビアス・ギンスブルク氏だ。2017年、極右グループ「帝国市民」シーンに身分を隠して潜入した劇監督である。彼は4月から、再びドイツ各地で「帝国市民」を観察してきた。

ネオナチだけではない、ドイツの多様な陰謀論者 民主主義への不安に忍び込む極右の影の画像6

Fotograf:Jean-Marc Turmes

 「4月、初期の段階には確かにいろんな人が反コロナ対策措置デモに参加していました。アンチ・コロナ・デモだから、コロナウイルス自体が嫌だと言う人もいましたし、政府のコロナ対策なのかビル・ゲイツなのか、なんに反対しているのかもわからず集まっている人も多かったし、パーティができないから外で大勢で集まる機会にのっかろうと言う人もいましたね。でもデモの主催者トップの人たちは最初から、明確に極右や帝国市民、陰謀論、反ユダヤ主義などで知られる人たちを選んで呼んでいました」と、ギンスブルク氏は言う。

 以下、彼のコメントは、本人の許可を得てドイツ連邦政治教育センターが主催する専門家会議での講演から引用する。

 8月の時点では、帝国市民シーンではよく知られているようなイデオロギーが広められ、自分が極右と一緒にデモをしていることの危険性を理解していない人達も、どんどん取り込まれていったとギンスブルク氏は警鐘を鳴らす。

「8月29日、ベルリンのデモで「私はワクチンに大きな不安を抱いている」というプラカードを持ったおばあさんと出会って話を聞いていました。世界中で色々わからないことが多くて不安ばかり……という、ナイーブな彼女の気持ちは理解できる気もしました。その時、私たちの前を、ドイツ帝国旗を持ったスキンヘッズが『抵抗するぞ!』と叫びながら連邦議事堂の方に向かって行ったんです。極右陰謀論説を広める雑誌「Compact」の編集長ユルゲン・エルゼッサーや極右政党NPD元党員のリューディガー・ホフマンなどです。おばあさんがそれを見てなんて言ったと思いますか?ニッコリ笑って『ああ、まだちょっと希望があるわねえ』と。これこそが、問題なんです」

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