選択的夫婦別姓どころか、名前も苗字もネットでいつでも好きなように変更できるイギリスの改名制度がスゴすぎる

文=中村木春
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GettyImagesより

 Amazonでオーダーするみたいな感覚で、ネットで簡単に自分の名前も苗字も変えられるとしたら、あなたならどうするだろうか?

 「それなら名前の漢字をちょっと変えたい」「じゃあ旧姓に戻したい」「いや親からいただいたものなんだから簡単に変えちゃダメでしょ」

 「いやでも――そもそも、そんなことできるわけないし……」

と、昨今の選択的夫婦別姓問題の議論を歯痒い思いで見ている方たちはイヤでもそう思ってしまうかもしれない。

 2月17日に放送され話題を呼んだドキュメンタリー番組『夫婦別姓“結婚”できないふたりの取材日記』(NHK Eテレ)の中で、元衆議院議員亀井静香氏が「夫婦同姓が嫌なら結婚しなきゃいい」「国家の恩恵を受けたいならルールに妥協しろ」などと発言し、さらには丸川珠代男女共同参画担当相が夫婦別姓反対の文書に署名していたことが報じられた。

 ただ自分の苗字を、自分の意思で“選択”できるようになるまでの道のりの険しさに遠い目をしている人、声をあげ続ける人、はたまた「同姓でも別姓でもどっちでもよくない? なんでこんなに騒ぐの?」とクエスチョンマークを飛ばしている人もいるだろう。

 今日はそんな混沌の日本の夫婦別姓問題から一歩離れてリラックス、遠く海の向こうイギリスの名前・苗字変更事情をご紹介したいと思う。 

ネットで簡単手続き、理由もいらないしいつでも好きな時に改名

 イギリスでは名前も苗字もミドルネームも自分の好きな時に好きなように変更することができる。

 改名手続きはこのDeed Pollというサービスを通じて行うのが主流なのだが、この会社のCM動画がもはや通販サイトの宣伝のようである。

「はやい! シンプル! ハッピーカスタマー!」

「数分で手続き完了!」

「いただいたオーダーは24時間以内に処理します!」

 動画の最後は、「Change your name today!(さあ、いますぐ改名しよう!)」と締めくくられる。

 もちろん改名した後にはパスポートや銀行の名義を変更したりと諸々の面倒な事務手続きはあれど、日本の中で「名は体を表す」「結婚しない限り苗字は一生変えられない」という価値観で生まれ育った私は、「こんなに簡単に名前を変えられる国もあるんだ……」と衝撃を受けた。

 こんな国なので、もちろん夫婦の別姓は当たり前の選択肢である。同姓でも別姓でも、なんなら夫婦で一緒に新しい苗字を作ることも可能だ。

(※追記――イギリスでは、犯罪歴のある人や性犯罪者でも改名自由だが(これまた驚き)警察等に改名の旨を報告しなければならない)

酔っ払ってセリーヌ・ディオンに改名した男

 新年早々、イギリス全土を笑いに包んだこの男のことをみなさんご存知だろうか。

 これは、イギリスのテレビ番組『This Morning』の動画だ。

 イギリス・スタッフォードシャー州在住のトーマス・ドッドさんは、クリスマス・イブに酔っ払ってテレビでセリーヌ・ディオンのコンサート映像をみていた。

 年が明けると、ポストに何やら“重要そうな”書類が届いているのを見つける。開けてみると、そこには「あなたは正式にセリーヌ・ディオンに改名しました」という旨の証明書が入っていた。

 クリスマスの夜、彼は酔った勢いで“セリーヌ・ディオン”へと改名手続きをしてしまっていたのだ。

 「全然覚えていない」と語るセリーヌ・ディオンさん。司会者たち終始爆笑。

 彼の母親は最初は快く思っていなかったようだが、今は笑っているという。

 その後セリーヌさんは世界各国数々のメディアに登場し(なんとあの米有名番組『エレンの部屋』にも)、明るい笑いを世界中に届けていた。彼はすっかりセリーヌ・ディオンでいることを気に入っており、今のところ名前をもとに戻す予定はないそう。

名前も苗字もミドルネームも全部変更したトランスジェンダーの友達

 私のイギリス人の友人たちの中には、名前や苗字を変更した人が少なくない。

 自分のあだ名を気に入っているからそっちに変えた人、
 いつも聞き返される名前を誰にでもわかりすいものに変えた人、
 カッコイイ名前にしたいと意味不明な名前に変えて後悔している人、
 家族と不仲だから苗字を変えて気分を一新した人、

など変更した理由は様々である。

 「男性としての新たな人生をスタートしたい」と、名前・ミドルネーム・苗字まで全て一新したトランスジェンダーの友人もいる。

 毎日「どの名前がいいと思う?」と何個も候補の名前を考えてくる彼と一緒に、友人皆でああでもないこうでもないと議論し、やっと本人が納得して全ての改名手続きを終えた日には、勝手に新たな人間の誕生を見守った親のような気分になり、感慨深かった。

多様な選択“も”できるという道を開くこと

 日本では、自分の意思だけで名前・苗字を変更することは至難の技である。

 「やむを得ない事由」や「正当な事由」があると家庭裁判所から認められなければならず、そのために用意する書類も多く、決して酔った勢いでサクッとできるようなことではない。

 日本人は、名前・苗字というものを非常に大切にする民族なのかもしれない。それはそれで、文化として素晴らしいことだと思うし、別に他の国ではこんなに自由なんだから日本もこうすべきだ、とは思わない。

 しかし現在この文化によって実際に困っている人がいるのだから、ここに関してもう少しだけ柔軟に、多様な選択“も”できるという道を作ってもいいのではないかと私は思う。

 なんとなく自分の名前に違和感を感じながら日々生きている人や、診断はされていないけど自分の性自認に合った名前にしたい人など様々な理由で“名前を変えただけで生きるのが少し楽になる人”というのは少なからずいるのではないかと思う。

 だれかが名前を変更することが、何か社会の不利益になるだろうか。私にはその理由が見当たらない。

 これは学校や職場での「茶髪禁止」のルールと同じくらい、よくわからないもののような気がする。

自分の苗字を変えたくないと思うのは“ワガママ”じゃない

 名前を変えたい人もいれば、変えたくない人もいる――そのどちらも、尊重されるべきだと私は思う。

 「結婚する際はどちらかの苗字を選択しなければならない」という、全世界どこを見回しても日本にしかない“強制的夫婦同姓制度”が、一体なぜこんなに強く推進されているのか、もはやミステリーである。

 ただ「自分の苗字を変えるかどうか“選択”できるようにしたいんです」ということが、そんなにけしからんことなのだろうか。何か私たちの知らないところに夫婦同姓を崇拝している地下の秘密結社があり政治家たちはそれに逆らえないのでは、との妄想が膨らんでしまうレベルの謎である。

 「別姓が選べるようになれば、家族の絆が壊れてしまう」とのことだが、ということは日本以外全ての別姓を選べる国では家族の絆が壊れているのだろうか。私にはそんな風には思えない。

 セリーヌ・ディオンの彼は「今はパンデミックでみんな笑いが必要な時だろうから、僕がセリーヌでいることで笑ってくれたら嬉しいよ」と英デイリー・メール紙に語っていた。

 こんな気楽さに学べるところがあるのではないかなぁ、とテレビに映る難しい顔の人々をみていて思う今日この頃である。

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