このように不平等な環境に身を置くチュ・スインだが、本作において目を引くのは、彼女が突破しようと一心に情熱を傾けるのが、プロ野球のピッチャーとして一般的に必要とされる球速150キロの壁であるということだ。「野球は誰にでもできる。女性か男性かは長所でも短所でもない」そう語るチュ・スインは、女子選手としてではなく一人の野球選手として、150キロの球を投げることで自分自身を証明しようとするのである。
そしてこの姿勢により心を動かされた新コーチ、チェ・ジンテはある提案をすることで、彼女の背中を押そうと決意を固める。その提案とは、150キロが出せないという“短所”の克服ではなく、回転数の高いピッチングという“長所”を活かしナックルボールの鍛練に打ち込めというもの。
ピッチャーに必要なのは球速だけではない、打たれないことだ──チェ・ジンテの提案によりチュ・スインが切り開く新たな活路は、実際に日本で、男子選手と共にプレーする国内初の女子プロ野球選手となった吉田えりさんがナックルボールの名手として活躍していたことが想起されるものだ。
ここで重要性を帯びるのは、チュ・スインの野球へ傾ける情熱を目の当たりにしたチェ・ジンテの心の中に、同じ野球選手としての畏敬の念が生まれたこと。そしてそれこそが彼らの間に連帯を築いたということである。本作に描かれる、野球をすることで“ガラスの天井”と対峙するチュ・スインの姿は、私たち観客の心が作り出す“ガラスの天井”を壊し、また目の前に存在する“ガラスの天井”を突破させる勇気を与えるだろう。
(菅原史稀)
『野球少女』
3月5日(金)TOHOシネマズ 日比谷他全国ロードショー
監督・脚本:チェ・ユンテ 出演:イ・ジュヨン「梨泰院クラス」イ・ジュニョク「秘密の森」 ヨム・ヘラン「椿の花咲く頃」
2019年/韓国/韓国語/105分/スコープ/5.1ch/英題:Baseball Girl /日本語字幕:根本理恵 配給:ロングライド
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3月5日(金) TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
公式サイト:longride.jp/baseballgirl/
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