自分の身体をコントロールできるようにならない限り、女性は自由とは言えない

文=原宿なつき
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GettyImagesより

「自分の身体をコントロールできるようにならないかぎり、女性は自由とは言えない」

 20世紀のはじめごろ、ニューヨークに暮らしていたアメリカ人看護師で活動家のマーガレット・サンガーの言葉だ。

 マーガレット・サンガーの母親は18回の妊娠の末、若くして亡くなった。無事に生まれた子どもは11人だった。当時は、避妊する術も、安全に中絶する術もなかったのだ。避妊について啓蒙するのは不道徳だと禁止されていた当時、マーガレットは避妊具であるペッサリーを診療所において広めた罪で妹と共に逮捕、投獄されてしまう。

 30日の獄中生活を経たマーガレット・サンガーは、研究者のグレゴリー・ピンカスを仲間に誘った。のちにピンカスはピル(経口避妊薬)を開発。ピルにより女性主導で避妊を行えるようになると、女性は教育を受ける期間が長くなり、低年齢出産によるリスクは下がり、学力・経済力は向上した。

マーガレット・サンガーを始め、女性の自由のために戦った女性たち

 ところで、日本の若い人たちのなかに、マーガレット・サンガーの功績を知っている人はどれくらいいるだろう。ピルを薬局などで手軽に入手できない現状において、ピルに馴染みがない人も多いのではないか。避妊はコンドームがメインで、ピルを利用することはイレギュラーかもしれない。ピルで避妊したほうがいいという基礎的なことさえ義務教育で教えられるないのが現状だ。

 しかしノルウェーの少女たちは、マーガレット・サンガーを始めとする、女性の人権や自由のために戦ってきた女性たちのことを幼いころから学んでいる。たとえば、ノルウェー初の児童書で国際文学賞を受賞している『ウーマン・イン・バトル 自由・平等・シスターフッド!』(マルタ・ブレーン文 イエニー・ヨルダル絵 枇谷玲子訳 合同出版)には、女性たちが行動し、戦って、自由と平等の道を拓いてきたことがユーモアたっぷりのイラストと共に紹介されている。

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『ウーマン・イン・バトル 自由・平等・シスターフッド!』(マルタ・ブレーン文 イエニー・ヨルダル絵 枇谷玲子訳 合同出版)

 本書では、19世紀には女性は成人しても成人とみなされず、子どもや奴隷と同じ扱いだったこと、女性は父親や夫の所有物であり従わなければならなかったこと、参政権も避妊や中絶の権利もなかったこと、しかし女性たちのシスターフッドと行動により、一歩一歩、自由と平等に近づいていったことが平易な言葉で記されている。

 本書を手に取った少女たちは、不平等や人権侵害に怒り、行動するかっこいい女性たちの奮闘により、「教育を受け、職を持ち、自分でお金を稼ぐ機会を得る権利、参政権、身体の自己決定権」を勝ち得てきたことを知る。マーガレット・サンガーを知ることで、身体の自己決定権が女性の自由にとって欠かせないことを知り、サフラジェットを知ることで行動することの大切さを知る。

 ノルウェーではピルを薬局で買うことができ、ピルの普及率は高い。女性の身体について決めるのはその女性本人である、という意識が根付いている。

女性の身体をコントロールするのは誰?

 女性の身体について女性に決定権があることは、北欧では自明のことだという。ゆえに避妊も中絶も権利として確立している。

 しかし、女性主導の避妊方法にアクセスが難しい国、女性の身体は男性が自由にしてよいという認識の国は未だにある。世界的に見ると、10代の女性の死亡原因のナンバーワンは、低年齢時の出産なのだ。避妊方法が普及しておらず、一生涯に10人程度の子どもを望まずに出産することが珍しくない国や児童婚が横行している国もある。そういった国は、当然女性に経済力がなく、女性の社会的地位は低い。とうてい自由とは言えない状態だ。では、日本はどうだろう?

 日本では児童婚は禁止されている。しかし、残念ながら女性の身体をコントロールする権利を女性が十分に持っているとは言えない。日本産科婦人科学会のトップである木村正理事長がアフターピルの処方箋なしの薬局での販売に「いろんな条件が成熟していない」とコメントを出したことも記憶に新しい。妊娠のリスクのない男性が、女性の身体にまつわる権利を制限していいと、なぜ思えるか。成熟していないのは、日本社会に根強く残るミソジニックな倫理観だろう。

 中絶に関しても、日本は遅れている。コロナ禍を経て、遠隔医療による薬の処方と女性の自己管理中絶が世界的流れになっている。妊娠初期に中絶薬を服用することで95%の確率で中絶が成功できる。中絶薬は、妊娠していない状態で服用しても、問題はない。しかし日本では、中絶薬は未承認なばかりではなく、先進国の多くでは、「野蛮な方法」と言われ、避けられている掻爬による中絶手術が未だに平然と行われている。

 日本ではまだ、「女性の身体の自己決定権は女性自身にある」「安全な避妊と中絶を行える環境を整えるべきだ」とは考えられていないようだ。

 願わくば、日本の少女たちにも『ウーマン・イン・バトル 自由・平等・シスターフッド!』のような本が広く届いてほしい。女性たちが行動し、確実に変化を起こしてきた軌跡を知ることで、女性の自己決定権軽視、人権軽視の今を変えていく力になるはずだ。

(原宿なつき)

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