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大手外食チェーンのリンガーハットが、2021年3月から価格の端数をゼロにする価格改定を行うことを発表した。名物とも言える「長崎ちゃんぽん」は、旧価格649円から、新価格650円(東日本エリアの場合)になる。
同様の価格改定は、サイゼリヤが2020年7月に一足早く実施しており、「ミラノ風ドリア」は旧価格299円→新価格300円となっている。リンガーハットはそのあとを追った形だ。
リンガーハットは今回の価格改定の理由を「お客さまへの値段のわかりやすさと、お釣りの受け渡しの簡素化を目指して変更した」と述べているが、こうした外食チェーンで相次ぐ価格改定の流れは、実際にどういった背景や意図があるのだろうか。
中小企業診断士としても活動し、新聞や雑誌などへの寄稿やコメント提供などを行う流通アナリストの中井彰人氏に解説してもらった。

中井 彰人(なかい・あきひと)
食品/流通アナリスト。みずほ銀行の中小企業融資担当を経て、同行産業調査部にてアナリストとして産業動向分析に長年従事。中小企業診断士としても活動し、新聞や雑誌などへの寄稿やコメント提供などを行う。
端数をキリよく“ゼロ”にした価格改定の真の意図
ズバリ、端数を切る価格改定の真意は何なのだろうか。
「目的はリンガーハットが発表した通り、『値段のわかりやすさ』と『お釣りの受け渡しの簡素化』にあると思いますが、その先にある真の意図は『業務効率化によるコストカット』でしょう。
外食チェーンでは1円の値上げでも売上高に大きく影響すると言われていますが、サイゼリヤの場合は、それ以上に“業務効率化を図るほうが収益につながる”という考え方だったのだと思います。“従業員がいかに効率よくオペレーションできるか”にコストを割いたということでしょう。
また、これまで現金精算のみだったサイゼリヤは、価格改定と同時にクレジットカード支払いなどにも対応し、キャッシュレス決済を導入していく方向にもシフトしました。
サイゼリヤとしては今までキャッシュレスの必要性をあまり感じなかったうえに、キャッシュレス化におけるコストさえ払いたくなかったのだと思うのですが、価格改定とほぼ同時にキャッシュレスを導入することで辻褄を合わせたのでしょう。
他には、コロナが終息して離れた客が戻ってきた際に、自然にその価格に馴染んでいるように、今のうちに価格改定を済ましておこうという感覚もあったかもしれません」(中井氏)
なるほど。ではリンガーハットの場合はどうなのだろうか。
「リンガーハットも同様にオペレーション速度の向上が目的でしょう。
特に、リンガーハットは他の外食チェーンと違って、実は半分以上の店舗がフードコートへの出店なんです。フードコートの場合、客はたくさん選択肢がある中でどこかひとつのお店を選びますよね。そうなるとよほどの人気店でない限り、列ができていて回転が遅いお店よりも、あまり並ばずにすぐ注文できるカウンターに向かう客は多いでしょう。
ですから、“多くの人に選ばれるお店”になるために大切なのは、やはりお店のオペレーションスピードとなるわけです。リンガーハットも、サイゼリヤが価格改定した一部始終を見ていますから、自分たちにとってもプラスになると見込んで、価格改定する決断をしたのではないでしょうか」(中井氏)
サイゼリヤと同じ理由ではあるものの、リンガーハットにはまた違った背景があったようだ。
「リンガーハットがサイゼリヤと決定的に違うところは、リンガーハットが比べものにならないほど業績悪化していた点。
というのも、コロナ禍においてフードコードの営業時間はショッピングモールの意向に影響されてきました。リンガーハット本部の意向うんぬんの前に、ショッピングモールが決定した営業時間の時短や休業に左右されてしまい、大幅な赤字を余儀なくされてもなお営業時間を調整できないまま、不安定な状況が続くようになってしまっていたのです。平時には人が集まるショッピングモールの利点が、こんな形で裏目に出てしまい、結果的に他チェーンよりも厳しい経営状態に陥ってしまいました。
そのうえ、リンガーハットは汁ものがメインの商品ということもあって、他チェーンのようにテイクアウトに舵を切れなかった。コロナ禍で客足が遠のいたことに加えて、そうした三重苦に苦しめられました。
サイゼリヤがまだまだ盤石な経営であるのに対して、リンガーハットは新たに借金をしてなんとか経営維持を謀りましたから、サイゼリヤに比べるとリンガーハットのこの価格改定は、かなり大きな賭けに出ているように感じましたね」(中井氏)
それぞれの背景を紐解いていくと、背負っているリスクの重みは全く異なるようである。
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