「男・女・LGBT?」多様な人々が答えやすい“性別欄”とは

文=松岡宗嗣
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Getty Imagesより

●“すべての人”にとって働きやすい職場をつくるために(第2回)

 男性・女性・LGBT──。数年前、ある病院の問診票でこの選択肢が記載されていたことがTwitterに投稿され、批判を集めた。

 つい先日も、企業の採用フォームで「男性」「女性」「LGBT」というの選択肢が出てきたことに対して、「久々に履歴書を書いているけど これは何かの解決になっているのか?感がすごい」と疑問を投げかけるツイートが多数リツイートされていた。

 「LGBT」は性的マイノリティを表す言葉のひとつだが、この選択肢を設けた企業はLGBTを、男性・女性ではない「第三の性別」と認識しているのだろうか?

 性別欄の記入の際に困りやすいのは、自分の性別をどのように認識しているかという「性自認」に関するマイノリティであるトランスジェンダーなどの当事者だ。LGB(同性愛や両性愛者)などは、自分の恋愛や性的な関心がどの性別に向くか・向かないかという「性的指向」におけるマイノリティであり、性別を記入する際にこの点は関係しない。ここを押さえると、性別欄の「男性・女性・LGBT」という選択肢がいかに間違っているかがわかる。

 他方で、近年は「男性・女性」に加えて「その他」という選択肢が用いられることが増えてきた。この回答を設けることで、男/女という二つの枠には当てはまらないXジェンダーやノンバイナリーなどの人たちを想定していることは伝わる。

 しかしその一方、当事者の中には「あくまで男/女が前提で、“その他”という言葉に疎外感を感じる」と指摘する人もいる。企業担当者からも「この選択肢でいいのか不安だ」との不安がしばしば寄せられる。

 性別欄をどう考えるか?

 筆者は①そもそも性別は機微な個人情報だということを前提に、②何のために性別情報を集めるのかを改めて考え、③どんな選択肢であれば、より多様な人々が回答しやすいか、という3点について押さえるべきではないかと考える。

①性別は機微な個人情報

 アプリのユーザー登録から、宿泊先のチェックインカード、イベントのアンケート、公的書類まで、日々私たちはさまざまな場面で性別欄への記入を求められる。

 大多数の人にとっては、性別の記入で困ることはないだろう。しかし前述したように、例えばトランスジェンダー男性で、本当は性自認に基づいて男性と記入したくても、法律上の性別を記入しなければならないことに苦痛を感じるという人がいる。レストランなどの受付で性別欄と見た目の性別の不一致を指摘されたり、本人ではないと疑われるなどの経験をする当事者も少なくない。

 Xジェンダーなどの当事者にとっては、性別欄が男性と女性しか想定されていないことで答えられない場合もある。そもそも性自認を持たないAジェンダーの人たちもいる。

 これまでシスジェンダーの男性/女性しか想定されてこなかったことで、おそらく多くの人にとって、性別は「見た目でわかるもの」だと思われてきただろう。

 しかし、いま目の前にいる人が「男性」か「女性」かという判断は、実は自分の勝手な臆測でしかなく、社会のシステムの中で割り当てられたものだという認識が広がってきている。本人の性のあり方に関するアイデンティティは、必ずしも他者が決め付けられるものではない。

 さらに、トランスジェンダーやXジェンダーなどの当事者は、例えば「あの人ってもともと男性なんだって」などと暴露され、差別やハラスメントの被害を受けてしまうこともある。

 トランスジェンダーに限らず、そもそもシスジェンダーの女性であっても、就職や入試などで「女性」と記入することで差別や不利益を受けてしまう場合もある。東京医大をはじめとした入試における女性差別が発覚したのは2018年、まだまだ差別はなくなっていない。

 このように「性別」という情報は“見ればわかるもの”とも、“知られてもたいしたことではないもの”とも、言い切れない。場合によっては不利益を被る可能性もある「機微な個人情報」といえるだろう。

②何のために性別情報を収集するのか

 普段何気なく設けられている性別欄は、なぜ必要なのだろうか? そもそも性別は「機微な個人情報」だからこそ、何のために収集するのかを改めて考える必要があるのではないだろうか。

 近年、書類の性別欄の見直しが進められている自治体もある。例えば、印鑑登録証明書や地元の公民館の利用登録をする際など、性別欄が必ずしも必要ではない書類に関しては削除などが検討されているようだ。

 見直しの基準は自治体によって異なるが、多くの場合は「法律で性別記載が必要とされているか」「ジェンダー平等の観点で、調査のために収集する必要があるか」「医療的な理由で必要か」「性別によって配慮の仕方が変わってくるか」などの点で、削除や見直しが判断されている。

 確かに、医療的な場面では性別情報が必要になることもあるだろう。ジェンダー統計の観点からも、性別情報を収集しないことで、むしろ現状の不平等や格差が見えなくなってしまう可能性もある。そもそも、ジェンダー統計自体がまだまだ未整備な中で、その動きと性別欄削除の動きが反するのではないだろうかという懸念の声もある。

 ただ、統計調査という意味では、個人に紐づかない形で、あくまでデータとして収集するという視点も忘れてはならないだろう。その際は、性自認で回答できるようにしたり、回答の選択肢を工夫すると同時に、「何のために性別情報が必要なのか」という点を回答者に明示しておくことも望ましいだろう。

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