圧倒的に低い賃金、弱肉強食社会になった日本の「幸福度」

文=加谷珪一
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GettyImagesより

 日本は拝金主義を嫌う社会であるとイメージしている人が多いかもしれないが、国際比較調査では正反対の結果が出ている。日本人がお金の話を極度に嫌うのは、お金に対して強い執着を持っていることの裏返しである可能性が高い。逆説的だが、お金に対して自由になるためには、お金についてオープンに語れる社会にする必要があるだろう。

日本人はもっともお金を重視している

 投資信託などのファンドを運用するフィデリティ投信は、英国、ドイツ、カナダ、中国、日本などを対象にお金と幸福感に関する調査を行った。それによると、「経済的に安定していないと幸せではない」と回答した日本人の割合は、73%と主要国では断トツのトップだった。英国は4%、ドイツは45%、カナダは44%、中国は38%だったので、日本の数字は突出していることが分かる。

 日本はお金についてオープンに語ることを嫌う風潮があるが、ホンネではお金がないと幸せになれないと感じていることになる。実はこうした結果は特段、珍しいものではない。その理由は他の国際比較調査でも似たような結果が得られているからである。

 所得水準と幸福感について調査を行うと、所得が低い層では所得が上昇するにつれて幸福感が増し、ある一定水準以上に所得が上がってくると、幸福感が増加しなくなるという傾向が見られる。これは当たり前といえば当たり前の結果といってよい。

 世の中にはお金で解決できる問題もあるので、年収が低い段階では所得が増えた分、幸福感が増してくる。だが、800万円や1000万円といった水準になってくると、日常生活で極度に嫌な思いをすることは少なくなってくる。それ以上、所得が増えたところで幸福感は増えていかない。

 この結果は万国共通であり、どの国でも同じような傾向が見て取れる。だが日本の場合、所得が高い人と低い人の幸福感のギャップが他国よりも著しく大きいという特徴が見られる。日本人の場合、高収入な方が幸福感を感じやすいということなので、やはり今回の調査と同じ結果と考えてよいだろう。

 米国はお金がモノを言う国の典型であり、お金さえ出せば、それこそ至れり尽くせりのサービスを受けることができる。こうしたお金についての格差は健康にまで及んでおり、米国ではお金をたくさん出さないと十分な医療も受けられない。欧米社会と比較すると、明らかに日本の方が、お金と関係なく平等に暮らせるはずだが、なぜ日本人はお金を持っていないと幸福感を感じられないのだろうか。

雇用制度の影響が大きい

 先ほどの調査には、「自分の人生がお金にコントロールされているのか」について問う項目があるのだが、日本人の中で「自分がお金をコントロールしている」と回答した人の比率は64%しかなかった。この質問に対しては、英国が69%、ドイツが79%、カナダが72%、中国が75%という数字だったので、日本人は諸外国の中でもっとも「お金に振り回されている」と感じていることになる。

 同様に、自分の経済状況とストレスについても、日本人の27%が「極度」もしくは「かなり」のストレスを感じている。この質問項目については、英国は17%、ドイツは17%、カナダは14%、中国は15%だったので、日本人の比率は高い。

 こうした結果になった理由は主に2つあると考えられる。ひとつは日本の賃金が低く、貧困率も高いという経済全体の問題。もう1つはキャリアの選択肢が狭く、将来に対して楽観視できない雇用環境である。

 中国は新興国なので除外するとして、日本、英国、ドイツ、カナダの4カ国における賃金を比較すると日本は圧倒的に低い。ドイツ人の平均年収は5万3600ドル、カナダ人は5万3200ドルだが、日本人は3万8600ドルしかない。先進国の場合、物価にそれほど大きな差はないので、平均賃金が低いことはそのまま貧しさにつながってしまう。

 実際、日本の貧困率は極めて高く、弱肉強食を絵に描いたような米国とほぼ同水準である。欧州の貧困率は日本よりかなり低いので、所得が低いことで直接的な打撃を受ける人の比率は低い。全体の15%が貧困状態では、経済状態に関してストレスを感じる人が多いのは当たり前のことだろう。

 実は貧困の問題と雇用については互いにリンクしている。日本では大企業に正社員として勤務できれば、とりあえず終身雇用が保障されるので、それほど賃金は高くないにしても、経済的な安定は得られる。だが中小企業に勤務している人や、非正規社員の人はいつ解雇されるか分からない状態であり、経済的な安定性が極端に低い。

 欧米にも非正規社員は存在しているが、雇用が不安定な分、同じ仕事であれば賃金が高いといったメリットがあることに加え、正社員であっても企業の経営状態が変化すれば、すぐに解雇されてしまうので、過剰に雇用が保護されているわけではない。だが欧州の場合、手厚い失業保険があり、失業しても当面、生活に困ることはなく、転職市場も発達しているので、いずれは次の仕事を見つけることができる。

 ところが日本の場合、一旦、会社から放り出されてしまうと、その後のキャリアを構築するのが極めて難しくなる。雇用が常に脅かされている非正規社員はもちろんのこと、正社員の人でも将来の生活に不安を抱える人が多い。近年、転職は珍しくなくなったが、それでも、一定年齢以上になってからキャリアを再構築するのはそう簡単なことではない。

 先ほどの調査では、老後の資産形成について「まったく進んでいない」と回答した日本人は29%だったが、英国は22%、ドイツに至っては8%とかなりの違いが生じている。賃金の安さと硬直的な雇用制度が将来不安を大きくしていると考えられる。

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