「サイゼリヤ」がようやくキャッシュレス決済を本格導入した意外なワケ なぜ「いま」なのか

文=A4studio
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サイゼリヤ公式サイトより

 最近SNSなどで「イタリアンワイン&カフェレストラン サイゼリヤ」に関するある話題を多く見かけるようになった。それは“サイゼリヤがキャッシュレス決済を導入した”というものだ。

 サイゼリヤは競合が多いファミリーレストランチェーンのなかでも、低価格なメニューで高い人気を博しているチェーン店。安さと同時に、クレジットカードや電子マネーなどのキャッシュレス決済に原則対応せず、現金決済にこだわっていたことでも知られていた。

 だが、2020年8月からついにキャッシュレス決済の導入を開始。それからしばらく注目されていなかったが、2021年2月11日時点ではクレジット対応店舗が665店、電子マネー対応店舗が654店だったのに対し、3月3日時点ではクレジット対応店舗が775店舗、電子マネー対応店舗が761店舗に増加と、ここ最近で急速に対応店舗が拡大しているのだ。

 サイゼリヤはなぜ今になって、キャッシュレス決済の導入を積極的に進め始めたのだろうか。飲食店のコンサルティングを専門に行う株式会社スリーウェルマネジメントの代表取締役である三ツ井創太郎氏に、サイゼリヤの経営戦略について解説していただいた。

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三ツ井 創太郎(みつい・そうたろう)/飲食コンサルタント
株式会社スリーウェルマネジメント代表取締役。東京の飲食企業やコンサルティング会社の株式会社船井総研で飲食勤務やコンサルティングの経験を積み、2016年4月に株式会社スリーウェルマネジメントを設立。日本全国の飲食企業に業績アップや人材採用、メニュー開発、業態開発支援などの経営支援を行っている。「株式会社スリーウェルマネジメント」ホームページ:https://www.threewell.co/

キャッシュレス決済導入のきっかけはコロナ禍での消費者の変化

 そもそも、サイゼリヤがこれまでキャッシュレス決済を導入してこなかったことにはどのような理由があったのだろうか。

「一番大きいのはコストの問題でしょうね。決済用の機材の設置に関してはベンダーからの提供などで無料になるケースもあるので、最大のネックとなるのは決済のたびに発生する事業者への決済手数料の支払いです。

 実はサイゼリヤは2019年の秋ごろ、一部の店舗でキャッシュレス決済の実証実験を行っていました。そこで消費者の何割がキャッシュレスを使用するかを調査し、全店に導入したときの決済手数料の総額をシミュレーションしていたと思われます。

 その過程でコロナ禍に入り、ほかの取り組みに注力しなければならなくなったことで、実験から実際に導入するまで約1年の時間がかかったと思われます」(三ツ井氏)

 2020年は新型コロナウイルス感染症によってファミレス業界、ひいては外食業界全体が大打撃を受けた年。サイゼリヤも例外ではないなかで、コストの問題がつきまとうキャッシュレス決済の導入に踏み切ったのは、コロナ禍の影響によるところが大きいのだという。

「コロナ禍でサイゼリヤに限らずファミレスチェーン各社は、とにかく利用客を集めなければどうにもならないという状況に追い込まれました。同時に消費者の間では、金銭授受による会計への抵抗感が芽生えて非接触の会計を求めるようになる、こうした背景も世の中のキャッシュレス化を後押ししています。

 中長期的にコロナの影響が出てくるとわかったからこそ、非接触で会計できるキャッシュレス決済が落ちた客数を取り戻すための戦略のひとつとして必要だと判断され、ふたたび推し進められたのではないでしょうか」(三ツ井氏)

 また、キャッシュレス決済導入に向けての動きには、当初、別の思惑もあったのではないかと三ツ井氏は語る。

「もともとはオリンピックで外国人観光客が増加することを見越して、キャッシュレス決済導入の取り組みを進めていたという側面もあったと思います。

 外国からいらした方は現金をあまり使わないので、インバウンド戦略のなかでキャッシュレス決済への対応は非常に重要になります。キャッシュレス決済非対応が原因でインバウンドの客数を落としたくなかったというのも、2019年に実証実験を行ったひとつの要因として考えられると思います」(三ツ井氏)

5000円のテイクアウトメニューも? コロナ禍でのサイゼリヤの新戦略

 コロナ禍での非接触決済需要の急増に伴って、キャッシュレス決済を本格的に取り入れ始めたサイゼリヤ。なぜ全店舗一斉に導入するのではなく、2021年以降に急増したのだろうか。

「もともとサイゼリヤがどういったプランニングをしていたかはわかりませんが、コロナ禍で非接触の会計に対する消費者の意識が高まっていくなかで、急いでキャッシュレス決済導入のアクセルを踏んだ側面はあると思います。

 コロナ禍においては、稼げるときに稼ぐということが非常に重要になってきています。キャッシュレス決済による業績への影響はまだ目に見える形で表れてはいませんが、会計時間を短縮させて回転率を上げたことは、とりわけ都心の店舗にとってピークタイムの客数を増やす一定の効果があったと思われます」(三ツ井氏)

 これまではキャッシュレス決済導入による恩恵が大きい地域を優先し、今になってそれ以外の地域への導入が進んできたということだろうか。いずれにせよ、全店舗に導入されるのは時間の問題だろう。

 三ツ井氏によれば、サイゼリヤは既に新たなコロナ禍での戦略に乗り出し始めているのだという。

「2020年8月期の決算説明会資料ではキャッシュレス決済の導入のほかに、SNSの活用や既存店改装、新事業開発などを2021年8月期の取り組みとして掲げています。特にアフターコロナのビジネスモデルの新業態に関しては、テイクアウト専門店をオープンしたスシローなどさまざまな飲食店が取り組んでいるので、サイゼリヤも新しいビジネスモデルについて考えているかもしれません。

 また、コロナ禍でも業績が好調な店を見ると、付加価値の高いフェアメニューなどによって客単価を上げるような工夫をしています。サイゼリヤでも昨年12月に一部の店舗限定で、テイクアウト専用メニューとしてラムシャンクとワインのセットを5000円で販売していました。今後も高単価・高付加価値なキャンペーンメニューは展開していくかもしれませんね」(三ツ井氏)

 コロナ禍で外食業界自体に逆風が吹くなかでサイゼリヤが打った手のひとつが、満を持してのキャッシュレス決済対応だった。しかしながら、決済手数料のコストを考えると、サイゼリヤが消費者を獲得するための戦いは、むしろこれから本格化していくのだろう。

(文=佐久間翔大/A4studio)

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