増加するアジア人へのヘイトクライム なぜここまで放置され続けてきたのか

文=竹田ダニエル
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写真:AFP/アフロ

 米国南部ジョージア州アトランタ近郊で3月16日、3つのスパで連続銃撃事件が発生した。8人が死亡し、1人の容疑者ロバート・ロング(21歳の白人男性)が同日夜に州内で逮捕された。被害者のうち、6人がスパで勤務していたアジア系の女性だった。

 アメリカでは今年だけでも500件以上のアジア人を狙ったヘイトクライムが発生している。この事件がたいへんな注目を集めているのは、アメリカで長年軽視され続けたアジア人に対する人種差別、そしてアジア女性への性的搾取に目を向けなければいけないと広く認知される必要性がようやく理解されつつある証拠だと言えるかもしれない。

 具体的にどのようなことが議論の中心になっているのか、問題の背景に何があるのかを、数回に分けてまとめたい。

アジア人に対するヘイトクライムの増加

 カリフォルニア州立大学サンバーナーディーノ校のヘイト・過激主義研究センターが今月発表した分析結果によると、2020年のアメリカの主要16都市におけるヘイトクライムは全体で7%減少したものの、アジア人を対象としたものは150%近く増加している。

 最近起こった事件の例をいくつか挙げよう。

・84歳のタイ人男性が路上で襲われた数日後に死亡
・89歳の中国人女性が2人の人間に平手打ちされた上に火をつけられる
・ニューヨークの地下鉄で61歳のフィリピン系アメリカ人の乗客が顔をカッターナイフで切りつけられる
・サンノゼのスーパーにて64歳のベトナム人女性が昼間に車に乗り込んだところを襲われ、強盗に遭う

 報告されない事件を含めると、このようなアジア人を標的としたヘイトクライムが数え切れないほど日々発生しているのだ。

 そして、このような事件が「突然」メディアの注目を集められるようになった矢先に、16日の悲しい事件が起きてしまった。誰もが「いつか起きるだろう」とわかっていながらも、その可能性さえ口にしなかったような、あまりにも無惨な事件だ。

 アジア人に対するヘイトクライムが増加していることを受けて、より多くの人たちにこの問題を知ってもらうために、様々なアクティビストや有名人が発信し始めた。アジア人に対する暴力事件の大きな問題は、「人種差別的な事件として報道されない」ことにある。

 その問題を乗り越えるためにも、そして注意喚起を行うためにも、俳優のダニエル・デ・キムがカリフォルニア州オークランドで起きた91歳の男性への襲撃事件の詳細情報についてインスタグラムに投稿したり、俳優のダニエル・ウーと共に、容疑者の逮捕につながるような情報を求めて個人的に2万5,000ドルを提供した。アジア系のコミュニティ全体として声を上げる必要について、キム氏は以下のように発言している。

「そして、声を上げることが大切なのです。目撃者であれ、被害者であれ、黙っていてはいけない。アジア系アメリカ人のコミュニティには事件を報告しない傾向があり、結果として現在引用されている数字は正確ではない。実際には、報告されているよりもずっと多くの事件が起きているのです。」

 2月9日には、中国系のミックスであり、東京で幼少期を過ごした女優のオリヴィア・マンはインスタグラムでこのように投稿している。

「人種差別的な言葉や身体的な暴行により、私のコミュニティの人々は外に出るのを恐れています。これらのヘイトクライムはコロナ以降に急増し、助けを求めても増え続けています。この国で少数派として存在しているだけで、一部の人には抗議とみなされてしまいます。私たちの怒りを増幅させるための手助けが必要です。 私たちがこの国で安心して暮らすための手助けが必要です。」

 先月末、バイデン大統領はコロナウィルスの影響で行われている外国人(主にアジア人)を対象とした差別的な言動を非難する大統領令を発表し、より広範な変革を行う予定だと発言している。大統領令は、アジア系アメリカ人や太平洋諸島の人々に対するヘイトクライムやハラスメントのデータを収集するよう、司法省に要請するという内容だ。

 アジア系アメリカ人のコミュニティにとっては、まず「問題の存在を認めさせる」という意味では今回の措置は重要な第一歩だとされており、持続的な変化がバイデン政権から推進されることが期待されている

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