
佐藤幸治さん提供。ファッションカラーで白髪を染めた50代の女性の写真だ
加齢とともに誰でも増えていく「白髪」。最近はあえて染めずにグレーヘアでありのままの姿を見せるのが粋だという風潮もありますが、あれは放っておけば綺麗なグレーヘアになるわけではありません。この連載では30代前半から20年近く白髪と付き合ってきた女性ライターが、白髪の扱いに悩む世代へ向けて発信します。
白髪はどうして抜いてはいけないの? ファッションカラーから白髪染めへ、移行期の悩みと重宝したアイテム
加齢とともに誰でも増えていく「白髪」。最近はあえて染めずにグレーヘアでありのままの姿を見せるのが粋だという風潮もありますが、あれは放っておけば綺麗なグ…
白髪染めの繰り返しで、髪がとうもろこしのヒゲのように。健康な髪と頭皮のため「ヘナ染め」に変えたけれど…
加齢とともに誰でも増えていく「白髪」。最近はあえて染めずにグレーヘアでありのままの姿を見せるのが粋だという風潮もありますが、あれは放っておけば綺麗なグ…
頭に張り付く海苔のような漆黒の髪。脱白髪染めの美容室ジプシーで、頼りにしたもの
加齢とともに誰でも増えていく「白髪」。最近はあえて染めずにグレーヘアでありのままの姿を見せるのが粋だという風潮もありますが、あれは放っておけば綺麗なグ…
30代前半から白髪が気になり始め、40歳頃に白髪染めデビュー。美容院で1ヵ月半から2ヵ月に1度の頻度で白髪染めを行い、合間にも自宅で“髪に優しい”とうたわれる白髪染めの薬剤でカラーしていたが、髪質がスカスカのパサパサに。以降はヘナ染め→ヘナではない植物由来の薬剤でカラーという経路を辿り、1年ほど前までは髪が不自然なほどに真っ黒だった。
「これ、自分には似合ってない。伸びてきた白髪もものすごく目立つ。もうこのままじゃイヤだ!」
そこから一念発起して最新の白髪染め事情を必死に検索したところ、「#脱白髪染め」「#白髪ぼかし」「#育てるハイライト」などのSNS上のハッシュタグの存在に気づいた。昨年1年間はこのハッシュタグを頼りに美容室を放浪し、いま表参道にある「SHEA」という美容室で、ファッションカラーを使って自分の好みの髪色に髪を染めている(もちろん白髪も)。
また、伸びてきた白髪がなるべく目立たず髪に馴染むように、全体的に細いハイライトも入れている。ハイライトといっても、昔々のハイライトのように太い黄色が悪目立ちするというものではない。細いいくつかの筋を入れることで髪に陰影がつき、伸びてきた白髪も目立ちにくくなる、というスタイルだ。新しい白髪染めの方法を求め探したことで、1年かけてようやく不自然なまでの真っ黒な髪からは卒業することができた。
「ファッションカラーで白髪が染まる」と知ったときは、衝撃だった。いったいこれはいつからあった技術なのだろう? 新たな薬剤が開発されたことで可能となったのだろうか? 最新の白髪染め事情を、美容室「SHEA」表参道店の美容師・佐藤幸治さんにうかがった。
ファッションカラーでも、調合次第で白髪は染まる
――ファッションカラーでの白髪染め、「SHEA」ではいつからメニューに入れられたのですか。
「うちの店では9年ほど前から、取り組んでいます」
――9年も前!? ファッションカラーに新しい薬剤が出て、それで白髪も染まるようになった、ということなんでしょうか。
「いいえ、従来あるファッションカラーでも、調合次第で白髪が染まるんです。白髪染めについて20年近く研究されている、<白髪染めのパイオニア>みたいな美容師さんが新潟にいらっしゃって。その方に9年ほど前にうちの店に講習に来てもらったんですね。そこで『ファッションカラーをこんなふうに調合すると、白髪も染まるし、明るい髪色も選べますよ』と教えてもらいました。衝撃的でしたね」
――レシピ次第だったというワケなんですね。そこですぐ「SHEA」でもメニューに取り入れたと。
「はい。ただ、浸透するのには時間がかかりました。真っ黒になる白髪染めで染めないと、白髪は染まらない――。その思い込みはおそらくまだ多くのお客様がお持ちだと思うんですね。ですから、白髪染めというと、やはり黒染めをオーダーされるお客様も多かった。ようやくここ1年ぐらいでしょうか。店のインスタグラムに投稿した、#脱白髪染 #白髪ぼかし #育てるハイライト などのハッシュタグを見て『ファッションカラーで白髪染めをして、ハイライトを入れてみたい』と来店してくださるお客様が増えてきました」
――世代的に、髪色を明るくすることに抵抗を感じる人は多いかもしれませんね。50、60代になってまで明るめの髪色は品がない、黒い髪こそがふさわしい的な。私はそれを世間の呪いと呼んでいますが(笑)。実際、私もファッションカラーで髪を染め始めてどんどん髪色が明るくなってきたときに、コンサバな友人から注意されたことがあります。「どうしちゃったの、その髪色? 明るすぎない? もう少し落ち着いた色にした方がいいよ。恥ずかしいよ」と。
「それはあるかもしれませんね。年齢を重ねたら髪色は黒にしないと、というような思い込みというか……。でもそれも今後変わっていくのではないでしょうか。自分のなりたい髪色を選ぶというスタイルのほうが、いまの大人世代の方のニーズには合ってると思うんです」
――そうですよね。50代、60代でもオシャレな方はほんとうに多いですから。お仕着せのスタイルに疑問を持つ人も増えています。
「白髪染めといえば有無を言わさずに黒染めをする。僕はこのお決まりのスタイルに疑問があったし、なんとかして変えたかったんです。美容師として『白髪染めにもなにか工夫をいれたい。もっとひとりひとりに合わせたデザインをしてあげたい』という思いが強かったんですね。それで、積極的に白髪染めについて情報収集をして、いまの方法を知ったというわけなんです」
――白髪染めの薬剤でも、ある程度の明るい色味は出せますよね?
「出せます。でも、明るい白髪染の薬剤で染めるよりも、ファッションカラーの薬剤のほうが色の選択肢も増えるし、艶が出て綺麗に仕上がります。それから、これはちょっと専門的な話になってしまいますが、髪のダメージの元になるアルカリ成分が、白髪染め薬にはファッションカラーよりも多く入っているんですね。ファッションカラーだとアルカリの濃度もわずかながら調整できる。少しでも頭皮への刺激を和らげたいですから。それもファッションカラーでの白髪染めをおすすめする理由のひとつです」

佐藤幸治さん提供。いずれも40〜50代の女性だという。ファッションカラーで白髪を染めたとは思えない!
ファッションカラーでの白髪染めをやらない美容室側の事情
――私は1年間いままでなかったぐらいに真剣に美容室探しをしてみましたが、ファッションカラーで白髪染めを取り入れている美容室はまだそう多くないように思います。なんなら、それを知らない美容師さんもたくさんいらっしゃるのでは? とも感じます。何年も前から配合があったなら、なぜこうも広まっていないのでしょう?
「ファッションカラーで白髪染めをするためには、薬剤の種類を多く揃えないといけない、というのは理由のひとつかも知れません。また、規模の大きいサロンの場合、そこで働くスタッフ全員が技術を取得しないとメニューに取り入れられないという事情もある。新しい技術を取り入れるのは、大手であるほど大変なんです。
新しい技術を取り入れる場合、社内でカットモデルを使って練習しないといけないのですが、白髪のサロンモデルさんって、なかなかいらっしゃらないのが現状ですから……。そんないくつかの事情があって、取り組む店も少ないのではないかと。さらにいうと、美容師が持つ理想みたいなものも、関係しているかもしれません」
――と言いますと?
「美容師側の勝手な言い分で申し訳ないのですが、<白髪染めをデザインする=ダサイ>というような風潮がなくはないんですね。10、20代のモデルを使って、華やかな青やビビットな緑のカラーをデザインする、そんな美容師でいたいと願う人が多数なので。だから白髪染めに真摯に取り組む美容師さんは、まだ少ないんです」
――なるほど、ダサイと思ってしまう気持ちはわからなくはないので責められないですけど(苦笑)。でも少子高齢化の日本ですから、白髪染めデザインに積極的に取り組むお店のほうが今後美容室の生き残り競争の中で強みを発揮するのではないかなと思いますが……。
「美容師の世界は基本的には上から下への伝承スタイルなんですね。ですから、上に立つ美容師が新しい情報を積極的に取りにいかないと、下の美容師もずっと知らないままになる。さらに、先ほど言ったように白髪のモデルさんが少ないため、情報を得たところで練習を積む機会が多く持てないのも辛いところです。練習が不十分なまま、お客さんに施術して、もし白髪が染まらなかったら? クレームになりますし、お客様から代金をいただけないこともある。そんなことになるぐらいなら、もうずっといままで通り無難に真っ黒に染める黒染めをおすすめしようとなりますよね。それでは進歩がなく、ダメだとは思うのですが……」
――ファッションカラーで白髪を染める場合、黒染めほど白髪は真っ黒にはなりませんよね。真っ黒ではなく、ほかの髪色に合わせたようなブラウン系の染まり具合というか。これまで白髪を真っ黒に染めてきた場合、人によっては「白髪の染まりが甘い」と感じてしまう方もいるかもしれません。染めてもらう方にも「ファッションカラーの場合、いままでの黒染めとは違う染まり方になるんだ」という意識の切り替えが必要ですね。
地肌に薬剤をつけずにカラーリングする、ゼロテクとは?
――「SHEA」ではカラーリングの際に頭皮のことを考えて<ゼロテク>という方法を取り入れていらっしゃいます。これがまた地肌が弱ってくる白髪世代にはすごく嬉しいテクニックなわけですが、詳しく教えていただけますか。
「ゼロテクとは、地肌に薬剤をつけずに染める、美容師のカラーリングテクニックのことです。これまでの白髪染めは頭皮にべったりと薬剤をつけて染めてきました。この場合、ヘアーカラーの薬剤の中のアルカリが頭皮につき、頭皮の水分が一瞬にして10~15%失われてしまいます。極度の乾燥状態とアルカリの刺激によるストレスで、白髪が増えてしまうことも。そんな状態にならないために、当店ではスタッフ全員がゼロテクでカラーリングできるように技術を取得しています。とにかくお客様の髪と地肌にかかる負担をなるべく少なくしたいという思いから、取り入れました」
――こちらは最近できた技ですか?
「いいえ。ゼロテクももう20年ほど前からあるようです。新しい技術って、せっかく開発されても広まっていくのが遅いんですよね……。でもゼロテクもファッションカラーでの白髪染めも、今後どんどん広まっていくのではと感じています」
――白髪染めについて日々新たな可能性を追求し続ける佐藤さんのような美容師さんは、白髪に悩める世代にとっては心強い味方だと思います。ありがとうございました。
機嫌よくいたいから、自分の好きな色で染めたい
最後に。私は独身のフリーライターという仕事柄、しがらみや制約がないため明るい茶色でカラーリングしていてもなんの問題もない。とはいえ、上に書いたように「あの歳で、あんな色で染めて」という<中年=黒染め信仰>を持つ人からは、「みっともない」と思われることはあるだろう。それでも私は自分自身が心地いいと思えるような、髪色でいたい。少なくとも鏡を見るたびに「似合ってないな」と落ち込んでしまうような髪色でいたくはないという強い思いがあるので(そうでなくとも、シワやたるみ、シミができてしょんぼりすることも多いのに、髪色ぐらいは好きな色でいたい)、人からなんて言われようとへっちゃらである。
ただ、髪色にいろんな制約がある方もいらっしゃるであろうことはよくわかる。暗めのカラーが好き、もしくは暗めの方が似合うという方も多いだろう。もちろん、ファッションカラーでの白髪染めは明るい色しかできないわけではない。ダークトーンに仕上げることも可能だ。それは誤解なきようにお伝えしておきたい。
私がこの連載で最も言いたかったことは「お仕着せではなく、自分の好きな色で白髪染めができるという選択肢がある」ということ。今後技術を取得して、ファッションカラーでの白髪染めやゼロテクを取り入れる美容室がもっともっと増えますように――。切に願っている。
私は現在53歳である。いまはなにごともなく健康に日々をすごしているが、この先はなにが起きるかわからない。病魔に襲われ「体がしんどくって髪色どころじゃないわ!」と思う日がくることもあるだろう。
あと何年こんな風に髪の色にこだわったりすることができるだろうか。髪だけではなくファッションもそう。いくつまでオシャレを楽しむ余裕があるかどうか――(もちろん気持ちだけは死ぬまでその辺にこだわって生きていたいとは思うけど)。近頃はそんなことを時折考えるようになった。
でも、だからこそ、なのだ。だからこそ、私はいまこのときの自分の気持ちを大事にしたい。自分が好きと思えることやものを大事にしながら、叶えられる範囲なら叶えながら、自分で自分の機嫌をとる。これからもそうやって、できるだけ気分よく生きていきたいと思うのである。