
Getty Imagesより
昨年5月、プロレスラーの木村花さんが『テラスハウス』(「TOKYO 2019-2020」Netflix、フジテレビ系)への出演をきっかけに誹謗中傷を受け、その後自殺した問題。花さんが亡くなった後も中傷の投稿を繰り返していた長野県の男性を、母親の響子さんが約294万円の損害賠償を求め、1月22日付で東京地裁に提訴した。
読売新聞によると、昨年5月23日に花さんが亡くなった後、男性はTwitterに<あんたの死でみんな幸せになったよ、ありがとう><最後まで迷惑かけて何様?地獄に落ちなよ>といった書き込みを行い、響子さんの心情を深く傷つけた。
なお、響子さん側は他にも数件の開示請求手続きを進めているという。
花さんへの誹謗中傷問題では、昨年12月に大阪府の男が侮辱容疑で書類送検されている。
木村花さん誹謗中傷事件の後も変わらなかったTwitter、『バチェロレッテ』出演女性にもバッシング
17日、今年5月に急死したプロレスラーの木村花さんにネット上で誹謗中傷を行っていた大阪府の20代男性が、侮辱容疑で書類送検された。容疑者の男性は5月中…
最近では、誹謗中傷への対応を明言する例も見られるようになった。
3月1日には、宝塚歌劇団が公式サイトで<SNSやインターネット上における誹謗中傷等への対応について>という文章にて、下記のような行為に対して対応する旨を公表した。
<・特定の出演者やスタッフを名指しのうえ、事実ではない情報をもとに、非難、攻撃をすること。
・特定の出演者やスタッフの技量、成果物その他に対し、本人を傷付ける意図を持って、批評や個人的感想を超えた言葉で攻撃すること。
・特定の出演者の人事情報について、あたかも事実であるかのような表現を使い、事実ではない情報を拡散すること>
3月11日には、叶姉妹がブログで、あるユーザーのツイートでの誹謗中傷について<私達の長年の顧問弁護士の先生にご報告を法的処置を含めた警告についてもご相談しております>と言及。
自分たちへの誹謗中傷は日常的にあるため<適度にスルーして顧問弁護士の先生におまかせ>していたものの、当該ツイートについてはファンへ向けたものだったため、お知らせをしたとのことだ。
“正義感”は正しいとは限らない
木村花さんが亡くなった直後は、ネット上の誹謗中傷への関心は高まり、「木村花さんの件を忘れてはいけない」と注意喚起するユーザーも多く見られた。
しかし、そういった空気は早くもなくなりつつある。昨年10月にリアル婚活サバイバル番組『バチェロレッテ・ジャパン』(Amazonプライム・ビデオ)の最終話が配信された際には、納得のいかない視聴者が出演者の女性に対し、「何様だ」「番組に出るべきではない」といった暴言を送り付ける事態が発生したことも記憶に新しい。
今年2月26日には「プロバイダー責任制限法」の改正案が閣議決定され、国会で成立し施行されれば、投稿者の情報開示の手続きが簡素化される見込みだ。ただ、制度面での改善は見られるものの、ネット上の誹謗中傷そのものが改善されたとは到底言えない状況である。
今回、花さんが亡くなった後も誹謗中傷を行っていた男性が提訴されたことを受けて、ネット上では「加害者の名前を公表すべき」「同じようにネットからの攻撃を受けたほうがいい」といった投稿も見られ、制裁的なコメントへの賛同数は2万件を超えるものもある。
しかし、それでは問題の根本的な解決にはならない。昨年12月に花さんを侮辱した容疑で大阪府の男が書類送検された際、響子さんは<加害者が次の被害者になる悲しい連鎖は、花も望んでいない>とコメントしている。
「酷いことをした人間は罰を受けるべきだ」——人間にはそのような“正義感”が備わっているのだろう。しかし、自分にとって許せないことや、社会的に悪いことをしていても、個人が罰を与えていい理由にはならない。罰を与える役目は法律が担っており、もし法律で定められた内容に納得がいかないのであれば、法律を変えるようアクションを起こすべきだ。
インターネットは、個人が気軽に制裁できる機能を持っている。「気軽に発した言葉で相手を傷つけるかもしれない」「匿名だからといってバレないわけではない」といった啓発のほか、「個人に裁く権利はない」ことを強調し続ける必要があるのかもしれない。