弱者が追い込まれる社会で必要なのは、自己犠牲ではなくセルフケア「シングルマザーズシスターフッド」吉岡マコさんインタビュー

文=玉居子泰子
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吉岡マコさん(写真:金原真璃子)

 新型コロナウィルス流行長期化の影響下で誰もが生活に不便を強いられ、多くが経済的な苦境に立たされている。社会全体が苦境にある時、最も影響を受けやすいのはもともと社会的に”弱い立場”に置かれている人だ。

 2020年の11月末の調査で、ひとり親世帯で暮らしが「苦しい」とした人は6割だった(労働政策研究・研究機構調べ)。OECD(経済協力開発機構)によれば、日本のひとり親家庭の「子どもの貧困率」は48.1%で、主要諸国でワースト1とも言われている。

 厚生労働省全国ひとり親世帯等の調査(2018年)によれば、母子世帯数は約123万2000世帯、父子世帯は18万7000世帯。つまり87%が母子世帯だ。また2020年の自殺者数は2万919人。男性は前年比135人減なのに対し、女性の自殺率が前年比885人増えている。

 経済不況になればパートやアルバイトなど非正規雇用を中心に失業率は上がる。家庭内や子供の学校など感染防止策に伴う周囲との関係性に悩む心理負担も高いだろう。

 ひとり親や女性が、”弱い”とは一言ではもちろん言えないが、特にシングルマザーなど仕事や育児を一人で精一杯担う立場にある場合、今のような人との繋がりが途絶え、経済的にも厳しい状況にある社会背景が、大きな打撃になることは想像できる。

 そこで今回は、新型コロナウィルスという世界中が苦しむ「病い」に対し、シングルマザーが置かれた状況、また彼女たちの苦境を支えようとする支援団体にフォーカスを当てた。

「この状況を放っておけなかった」ひとり親に支援が必要な理由

 2020年4月、シングルマザーを対象にした、オンライン講座が開設された。

 「シングルマザーのセルフケア」という名の講座で、画面上でインストラクターのストレッチ指導と、その後、参加者同士の対話の時間、一人でできるセルフケアの方法を伝えるものだ。参加費は無料。 

 この講座を開催したのは、吉岡マコさん。バランスボールを使って赤ちゃんと一緒に運動をするという「産後エクササイズ」を日本に広めたNPO法人マドレボニータの創設者でもある。

 1998年に活動を始めたマドレボニータは、当時の日本にはまだあまり広まっていなかった「産前・産後のケア」の重要性を広く訴えてきた。

 新型コロナのパンデミックを受け、急遽、シングルマザーに特化したプログラムを新設した理由を吉岡さんはこう語る。

「以前から、マドレボニータでもひとり親支援はしていました。『産後ケアバトン制度』といって、ひとり親や、障害がある子を持つ親、小さく生まれた子の親、双子や三つ子など多胎児の親など、よりサポートが必要な人に受講料を全額補助する制度を設けていたんです。でも実際は、ひとり親への支援は、”産後ケア”という括りの中だけで行うには限界があると感じていました。

 例えば運動をした後、「人生・仕事・パートナーシップ」という三つのテーマから選んでお話をするというのが、マドレボニータのプログラムの特徴なのですが、やはりパートナーがいる人たちの間にいると、ひとり親ならではのつらさは共有できないんですよね。「産後」という似たような境遇の人と繋がりを持とうと思って参加してくれても、シングルであることで自分がさらに”マイノリティ”だということを再認識してしまいます。

 だから、このパンデミックの状況下で困っているシングルマザーは多いだろうと、思い切って、シングルマザーに特化した支援プログラムを作り直そうと決めたんです。ちょうどひとり親支援に限定した寄付金を受けていたので、今回の感染拡大でリアルな教室を開けなくなったことで、この寄付金を生かしてオンラインでシングルマザーに特化した教室を開催しようと急遽、プログラムを開発しクラスを始めました」

 吉岡さん自身も、20代で非婚のシングルマザーになった。幸い、身近にひとり親の友人が複数いたことで、たくさんの仲間と協力し合って、楽しく子育てや仕事を続けることができた。その経験からも、シングルマザー同士が繋がり、連帯して支え合うことの大切さを身をもって感じているという。

 吉岡さんは、マドレボニータの運営を離れ、2020年11月に新たな団体を設立。名前を「シングルマザーズシスターフッド」と名付けた。

シングルマザーであることを隠して暮らしている人も

「シングルマザーズシスターフッドのプログラムも、マドレボニータのクラス同様、運動と対話がメイン。重なる部分も多いです。でも、一口にシングルマザーといっても、パートナーと死別した人もいれば、非婚・未婚、離婚など、背景は一人ひとり違う。中にはDV被害から逃れ、身を隠している人も。だから、参加に際しても本名をうち開けなくてもいい、希望であればカメラをオフにしてもらっていい、対話の時間も自分が話したくないことは話さなくてもいい、といったようにプライバシーへの配慮には気をつけています」

 シングルマザーであることを、周囲に話していない人も多いという。ひとり親を支援する団体はいくつもあるが、日常生活の中で苦労を分かち合える誰かを探すのは難しい。どこに、自分たちのプログラムを必要とする人がいるのか、吉岡さんは悩んだ。 

「マドレボニータの産後ケア講座は、口コミで全国に広がっていったんです。でも、シングルマザーは横のつながりが少なくて、口コミがなかなか発生しないということもわかって。SNSを日常的に使っている人も少ない印象がありました。

 そこで開催にあたり、NPO法人『しんぐるまざあず・ふぉーらむ』理事長の赤石千衣子さんの協力を受けて、メルマガ会員の3000人(現在約7000人)に宛ててプログラムの立ち上げを告知してもらいました。すると一気に100件以上の申し込みがあったんです。

 ひとり親交流サークル『エスクル』にも情報の共有をお願いしました。今も参加者の7割は支援団体からの紹介です。改めて、やっぱりシングルマザーは社会的に孤立・分断しているんだと、そしてそれがコロナ禍で強まっているんだと感じました」

ひとり親が胸を張って生きられる社会を目指して

 2カ月限定のプログラムだったが、参加者からの高い反響とニーズを受け、吉岡さんは継続を決意。長年代表を務めたNPO法人マドレボニータを離れ、シングルマザーズシスターフッドの活動に本腰を入れることにした。

 2020年4月から21年3月現在までの参加者数は31都道府県、海外在住者を合わせてのべ1500人以上。仕事を持つ人がほとんどのため、クラスは平日早朝、金曜の夜、土曜日の朝に限定している。リピーターも多く、講座の外でもLINEを通して繋がりを持っている参加者もでてきている。

「非婚で出産し、生後1カ月の赤ちゃんを養子に出すか自分で育てるか迷っている女性、赤ちゃんを抱えて別居しながら現在も離婚調停中だという人など、マドレボニータで産前産後ケアをしている中では出会えなかった人たちに出会うようになりました。子どもの年齢も、生後すぐから成人している子がいる人まで様々。

 クラスでは軽めのストレッチとセルフケアの方法をお伝えし、対話の時間では毎回テーマを設けてペアになって5分程度お話ししてもらうだけ。深刻になりすぎず、できるだけ楽しくポジティブな気持ちになってもらえたらと、プログラムを組んでいます。

 それでも、ふとした時に人生の先輩からアドバイスをもらったり、同じ境遇の人同士励ましあえることもある。中には『初めてシングルマザーの知り合いができた』という人も。やはりこういう場が求められていたんだなと思っています」

 度重なる緊急事態宣言の下、子どもを抱え、転職や休職を余儀無くされる人もいた。生活や将来の不安を誰にも打ち明けられず、憔悴しきって扉をたたく人も少なからずいたという。そうした人たちが、自分自身の身体に向き合う時間を持ち、同じ境遇の人と言葉を交わす。たったそれだけのことだが、表情が明るくなっていくのがわかった、と吉岡さんはいう。シングルマザーにの支援はニーズに合わせて色々あるが、そういった様々な支援を活かすためにも、その土台となるのはまず「身体的・精神的なケア」なのだと。

「ひとり親、特に多くの割合を占めるシングルマザーは、正社員雇用の割合が少なく、父子世帯の平均年収よりも177万円少ないという調査もあります。コロナ禍で、ひとり親に対して食品や物資のサポートや資金の貸付制度などもできていますが、そうした情報を調べて自分から手を伸ばせる人がどれくらいいるか……。

 シングルマザーであることへの”わがまま”だとか”半人前”だとかいう視線も根強く、堂々と胸を張れない人も多い。その中で、自信を失ったり自己否定を繰り返したりして自尊心が低くなると、支援にも手を伸ばせないのが現実なんだと思います。

 まずは、自分の体や心に目を向けて、自分をケアする大切さを知ってほしい。それを、仲間、シスターフッドの中で育んでいってもらえたら、と思っています」

 続く中編・後編では、実際にシングルマザーズシスターフッドのプログラムに参加した体験者に、シングルマザーが置かれた状況や子どもとの関係、コロナ禍で困ったことを聞いていきたい。 

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