アジア系移民に光を当てた映画『ミナリ』が、アメリカ映画界に突きつけたもの

文=菅原史稀

カルチャー 2021.03.20 06:00

©2020 A24 DISTRIBUTION, LLC All Rights Reserved.

 『ミナリ』は、アメリカのプロダクションスタジオによって製作され、撮影も全編アメリカで行われた。監督も韓国系アメリカ人である。れっきとしたアメリカ映画であるにも関わらず、この『ミナリ』は、第78回ゴールデングローブ賞において外国語映画賞の候補とされたことが大きな波紋を呼んだ。

 「台詞の半分以上が英語であること」が選考基準に掲げられるゴールデングローブの本賞(ドラマ部門作品賞)では、主に韓国語の会話で進行される本作のノミネーションが実現し得なかったのである。

 アメリカに暮らす韓国系移民一家のルーツにフォーカスを当てることで、過去のアメリカ映画で描かれてこなかった家族の光景を映し出すことに成功している『ミナリ』がアメリカ映画として見なされない現状は、現在のアメリカ社会に暮らすアジア系移民の人々へ向けられる視線を表しているように思えてならない。

 そもそも言語によって与えられる賞が限られる、現行の映画賞における評価基準にも懐疑的な目が向けられている。

 非英語作品として初のアカデミー作品賞に輝いた『パラサイト』のポン・ジュノ監督は、ゴールデングローブの壇上で「字幕という1インチの壁を乗り越えれば、更に多くの素晴らしい映画との出会いがあります」という印象的なスピーチを残していた。

 非英語作品であり、韓国文化に深く根差した表現が多用される『パラサイト』が世界中の観客の心を捉え、また、音楽の分野においても韓国語で歌われているBTS「Life Goes On」が米ビルボード総合シングルチャートで首位を達成するなど、昨今は言語の障壁を打ち破る文化作品の例が次々に生まれている。

 映画の中へまだ見ぬ素晴らしい光景が拓かれるためには、作品の評価基準に象徴されるような、受け手側によるスタンスの改革が今後さらに要されるだろう。

(菅原史稀)

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映画『ミナリ』
3月19日(金) TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー
原題:MINARI
全米公開日:2021年2月12日
脚本&監督:リー・アイザック・チョン
出演:スティーヴン・ユァン、ハン・イェリ、アラン・キム、ネイル・ケイト・チョー、ユン・ヨジョン、ウィル・パットン ほか
上映時間:116分
公式サイト:gaga.ne.jp/minari

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菅原史稀

2021.3.20 06:00

編集者、ライター。1990年生まれ。webメディア等で執筆。映画、ポップカルチャーを文化人類学的観点から考察する。

@podima_hattaya3

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