ハローワークの窓口相談員も非正規労働者。働く私たちのリテラシー

文=原宿なつき

暮らし・美容 2021.03.28 15:00

GettyImagesより

 公共職業安定所(ハローワーク)に勤めている人の多くは今、まったく安定していないポジションで働いていると知った。

 ハローワークに来る求職者の中には、窓口相談員の態度が冷淡だと感じ、「安定した公務員だから自分たちの気持ちはわからないだろう」とばかりに怒りをぶつける人がいるそうだ。しかし、その怒りは的外れなのかもしれない。

 私がそのことを知ったのは、岩波ブックレットの『官製ワーキングプアの女性たち あなたを支える人たちのリアル』(竹信三恵子、戒能民江、瀬山紀子編集)だった。かつては安定職の代名詞だった「公務員」が、今や様変わりしているのだ。

 2000年ごろから、日本では年収200万円前後の短期契約の不安定な非正規公務員が激増。いまやその比率は、自治体公務員で3〜4人にひとりの割合だという。ハローワークという雇用の安定を図る機関でさえも、就職相談に当たる職員の4〜8割が1年単位という不安定な非正規雇用だ。非正規公務員の4人のうち3人は女性であり、住民の生活に不可欠な公共サービスの大部分が多くの女性、そして男性たちの低賃金不安定労働に支えられているという実態がある。

 雇用の安定が当たり前に保証されている時代ではないからこそ、正社員にこだわる人は少なくない。しかし、正社員ならば安心か、というとそうとも言い切れない。

3人に1人は非正規雇用。名ばかり正社員。「正社員消滅」のふたつの意味

 『官製ワーキングプアの女性たち』を編集したジャーナリストの竹信三恵子は、『正社員消滅』(朝日新書)において、現代はふたつの意味で正社員が消滅しかかっていると分析している。

 ひとつは、非正規の社員が増えているという文字通りの意味(民間では非正規社員は4割越え。3人に1人は非正規雇用)。もうひとつは、働き手の正社員になりたいという思いに付け込み、会社側が非正規社員並みの低賃金労働にも関わらず無期雇用というだけで正社員を標榜する「名ばかり正社員」が増えたという意味だ。無期雇用だから正社員だ、としておきながら、ボーナスもなく、残業代も出さない会社や、社会保険、雇用保険に加入していない会社もある。

 また、求人票には正社員募集としながらも、実態は違った(有期雇用だった)というケースもある。ひどいケースだと、正社員募集をしておきながら採用した労働者に開業届を出させ、実質的には会社の指揮命令下にある労働者であるにも関わらず、個人事業主として扱うケースもある。そうすることで労働法の適用外になるため、簡単にクビを切ったり、所定時間以上に働かせたりすることも容易になるのだ。

求人票に嘘が書かれていることもある

 実際、求人票を鵜呑みにするのは危険だ。竹信は『これを知らずに働けますか? 学生と考える、労働問題ソボクな疑問30』(ちくまプリマー新書)で、求人票のいい加減さを指摘している。

 いわく、厚生労働省がおこなった2015年の調査では、ハローワークに寄せられた求人票についての苦情や相談のうち、嘘の求人内容が書かれていたと指摘があったのは、全体の36%で、年間約4000件にも上ったという。

 民間の求人の場合、どれくらい嘘の求人内容が記載されているかは不明だが、ハローワークよりも適切に情報が開示されているという根拠はない。

 ハローワークも民間の求人サイトも、結局のところ、求人票は会社が出したものでしかない。「社長になれる!」と書いてあっても、実際は開業届を出させるだけで労働法逃れの場合もあるし、「裁量労働制で自由に働けます」という文言が、単に残業代は払わないという意味で使われている場合もある。求人票に「契約社員や正社員募集です」と書いてあったのに、面接の場所で「派遣の募集だった」と判明するケースや、総合職の募集で行ったら「女性は事務職」と言われたというケースもある。

 こんな話も載っている。大手人材会社パソナの営業担当者から「いったん辞めて、うちの再就職支援サービスを受ければ、一年以内に新天地が見つかりますよ」と営業をかけられ、正社員を辞めた男性がいる。彼が紹介されたのは、元の会社の子会社の派遣会社だった。この男性は、退職した会社で、以前と同じような仕事を不安定な雇用かつ低賃金の働き手として担うことになった。

 正社員は狭き門であり、名ばかり正社員も横行。事前に示された雇用形態や雇用条件があとから嘘だったと判明するケースも珍しくなく、雇用を流動化させることで利益を得ている企業の話を鵜呑みにすると痛い目を見ることもある……というのが私たちの現在地なのだ。

 そんな時代をサバイブするための自衛策とはなんだろうか?

正社員消滅時代のリテラシー

 『正社員消滅』では、7つの自衛策が提案されている。以下にその7つを要約して紹介したい。

1:正社員の身分を守るという発想から抜け出す

正社員だから「社畜」的働きをすべきであり、それこそが非正規と賃金や安定に差がある理由である……という発想から、自分自身が抜け出す必要がある。

2:自分の法律顧問を持つ

労働組合、NPO、弁護士など相談できる場所を確保する。法テラスを利用するという手もある。

3:働き手のネットワークをつくる

会社と離れた場所で相談に乗ってくれる人とのつながりを作る。会社でしかつながりがない場合、それが「普通」と考えて、搾取に気づかないケースも多々ある。

4:情報を収集する

新聞、雑誌、シンポジウム、集会などを活用し、多角的な情報収集を行う。

5:辞める権利と辞めない権利を生かす

現在は転職をあおる風潮が強いが、正当な理由がなければクビにできないルールはある。法律を知り、自分にはどのような辞める権利と辞めない権利を確認し、権利を行使する。

6:ライフスタイルを点検する

雇用や経済が変動する以上、定年まで定期昇給があることを前提に住宅ローンなどを組むのは危うい場合もある。また、会社との交渉力をつけ、変動に対応するためにも、夫婦のどちらかが働く大黒柱家計から、二馬力に家計に転換することも選択肢のひとつだ。

7:企業や政府からの働き方改革に振り回されるのではなく、働き手目線の改革を提唱する

現在は、企業の成長=労働者の待遇改善、に直結する仕組みになっていない。企業の利益追求のために労働者が搾取される法案にはNOと言う姿勢も必要だ。

 この中でもとくに大切なのは、自分の権利を知ること、だろう。労働法を知らなければ、労働法違反に対抗することはできない。バイトでも有給休暇をもらえることを知らなければ有給取得はできないし、残業代未払いの職場でそれが違法だと知らなければ残業代は支払われない。残業代の未払い請求には時効もある。ひとりで請求が難しいと感じるならば、労働組合や弁護士に相談することで解決する場合もある。

 このごろ「AI時代に需要がある仕事はなにか」「消える仕事とは」という書籍が頻繁に発売されている。Webでもそうした見出しの記事は多く、人気があるようだ。不安な時代をどうやってサバイブすればいいか、わからないなりにどうにかしたいと考える人が多い証だろう。スキルを磨くことも重要だが、それと同時に、今現在の労働法について学ぶ必要があるのではないだろうか。

 自らの雇用や労働環境を守るために戦う方法はある。しかし、他人は、ましてや雇用主は、労働者に武器があることを教えてくれない。知恵をつけられては困るのかもしれないが、搾取されないためには自分で学ぶしか道はないのだ。

(原宿なつき)

原宿なつき

2021.3.28 15:00

関西出身の文化系ライター。Wezzyでは、フェミニズムやジェンダー関連の書籍を紹介するコラムを書いていきます。空気のように存在している女性蔑視の思想・言動・社会の構造に気がつき、「NO」と言える人を増やしたい。
harajyukunatuki@gmail.com

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