
Getty Imagesより
●いま、“ここ”が分水嶺…豊かな地球を残すために知っておくべきこと(第1回)
新型コロナウイルス感染症はパンデミック(感染症の世界的な流行)の恐ろしさを見せつけています。本稿執筆時点(2021年3月)で累計の感染者数は1億2000万人近く、約265万人が亡くなりました。コロナ禍の収束は未だ見えていませんが、世界の専門家達は今後、新たな感染症によるパンデミックも起きうると懸念しています。
こうしたなかで、今、注目されているのが、人間の公衆衛生だけでなく、自然環境の保全や動物福祉から、パンデミックを未然に防いでいこうという「ワンヘルス」という考え方です。
新たな感染症の7割以上が人獣共通感染症!
新型コロナウイルスのパンデミックはいかにして、発生したのか。最初の発生国と見られる中国の非協力的な姿勢もあり、未だその全容が解明されていませんが、有力な説と見られているのが、コウモリから何らかのかたちで、人間に感染したというものです。
コウモリから、ウロコを持つ哺乳類センザンコウが新型コロナウイルスに感染、さらにセンザンコウを売っていた中国の野生動物市場から人への感染が拡大したことが疑われています。
中国では、野生動物を珍味として食用にしたり、漢方薬として利用するといったことが盛んに行われてきましたが、そうした取引には違法なものも多く、センザンコウも「世界で最も密猟されている動物」と言われるほど違法取引されており、2019年には15万頭がアフリカからアジアに違法取引されたと見られています。
こうした、野生動物の違法取引は大変リスキーです。もともと野生動物は未知のウイルスや病原菌を保有している可能性があるうえ、違法取引の場合、検疫を通さないので、流通や消費の過程で感染症の流行を引き起こすリスクがあるのです。

Getty Imagesより
2020年3月に発表された香港大や広西医科大の研究チームの論文によれば、2017年から2019年にかけて中国に密輸され、押収された「マレーセンザンコウ」の肺や腸、血液等を調べたところ、新型コロナウイルスに遺伝子の配列が85~92%の割合で同じというウイルスが発見されたとのこと。
実は、新型コロナだけではなく、エイズウイルスはアフリカのチンパンジーから、2002年から2003年にかけ世界的な流行を引き起こした新型肺炎SARSもハクビシンから人間に感染したと見られています。人々の脅威となっている新たな感染症の7割以上が人獣共通感染症、つまり人と動物両方に感染する感染症なのです。
人獣共通感染症のパンデミックは、世界的に自然破壊が進んでいる中、ますますその発生リスクが高まっています。
開発や道路の建設などにより、これまで人間が足を踏み入れることのなかった原生林の奥深くまで人々が出入りするようになり、未知のウイルスや病原菌に感染、広めてしまうことが懸念されているのです。
特にアフリカでは近年、「ブッシュミート」、つまり野生動物の食用としての利用が増加しており、「新たなパンデミックが発生するのは時間の問題」と評する研究者もいるほど。
また森林破壊などによって生態系のバランスが崩れることで、蚊やダニなどの病原体を媒介する生物が増加し、感染症を拡大させるといったことも深刻です。地球温暖化による気温上昇なども、熱帯性の病原体がその分布を拡大させる要因となっています。
1 2