
NHKハートネットTwitterより
福祉情報総合サイト『NHKハートネット』のあるツイートが炎上している。
同アカウントは3月21日に、22日に放送される『ハートネットTV B面談義』(Eテレ)の予告をツイート。
<あの女性差別問題を「生っちょろい」とぶった切る!?
盲目の弁護士・ #大胡田誠 さんが女性差別問題を受け、障害者弁護の現場から見える“えげつない現実”に怒り心頭!そのワケとは!?>
番組では、東京五輪・パラリンピック組織委員会前会長の森喜朗氏による女性蔑視発言が問題視されたことについて、大胡田誠弁護士が「女性差別なんて生っちょろい」と言及していた。
<自分でも歪んでいるなと思いますけどね、女性差別ってこんなに世間が騒いでくれてうらやましいなと思いますね。障害者差別って、もっとすげーえげつないことたくさんあるのに全然騒いでくれないんですよ>
大胡田弁護士は“えげつない障害者差別”の例として、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の人が国会に参考人として呼ばれていたにもかかわらず、「コミュニケーションに時間がかかる」という理由で拒まれたり、視覚障害の女の子が交通事故に遭った事件に対し「将来どうせ健常者と同じだけの仕事ができないんだから損害賠償の額が7割」という判決が出たことを挙げた。
大胡田弁護士は、「女性と男性を区別することは差別だけど、健常者と障害者を分けることはいまだに区別とされ、『事実として違うんだから仕方ないじゃないか』という風潮があるので物申したい」と述べた。
この内容にTwitter上では、「差別を比較して分断を生む必要がありますか?」「障害者女性を狙った性犯罪もあるのに女性差別は生っちょろいのでしょうか」「“世間が騒いでくれて羨ましい”という気持ちが生じるのは理解できなくもないけれども、他の差別を『生っちょろい』とは配慮がないのでは」「放送する前にまずいと気づかなかったのですか」と批判が殺到している。
「どちらの差別が深刻か」ではなく「どちらも人権侵害であり問題」
前提として、女性差別が決して“生っちょろい”ものでないことは言うまでもない。
「女性差別より障害者差別の方が深刻」のように、ある問題提起をすると「Bについてはどう思っているんだ」「Cの方がもっと酷い」などと問題を相殺させようとしたり、問題提起をした人の声を封じ込めようとする動きがあるが、これは「そっちこそどうなんだ主義」や「whataboutism(ホワットアバウティズム)」と呼ばれる。
今回の事例でいえば、「女性差別は障害者差別に比べて生っちょろい」と評価したところで、障害者差別が解消されるわけではない。女性差別も障害者差別もどちらも解消すべき問題だ。
また、障害者差別と女性差別でいえば、Twitter上でも指摘のあったとおり、障害者女性を意図的に狙った性暴力もあり、複合的な差別が存在している。
今回、大胡田弁護士が一番伝えたかったのは「健常者と障害者を分けることが、差別ではなく区別として見過ごされている場面があることについて、(女性差別が議論されているように)もっと議論されるべき」ということだろう。
差別の問題について、AとBどちらが深刻かを比較することは差別解消に繋がらないし、深刻さの度合いをジャッジすることは分断を招いてしまう。どんな理由にせよ「差別によって人権が侵害されている」ことが問題であり、そうした状況を変えていくには、各々の事情・立場を乗り越えて、ひとりでも多くの人が「差別は許されない」「差別を解消していく」と連帯することが重要だ。
Twitter上では、分断を煽るような番組構成や宣伝方法を問題視する声が少なくない。たとえ、大胡田弁護士から「障害者差別に比べ女性差別な生っちょろいと思う」といった意見があっても、番組として何も注釈をつけずに放送してしまえば、分断を助長することになってしまう。今までマイノリティに焦点をあててきた『ハートネットTV』でこのようなことが起きてしまったのは非常に残念だ。
視点や立場、状況が変わればマイノリティがマジョリティに、弱者が強者になることもある。様々な差別を解消していくには、誰もが差別について知ることや学び続けること、自分が無意識に偏見を持ったり差別したりしていないか振り返る必要があるのではないか。
※23日13時46分に「NHKハートネット」のTwitterアカウントに下記のとおり謝罪ツイート(https://twitter.com/nhk_heart/status/1374220976506953728)が投稿されました。
<22日放送の番組やツイートで、女性差別に関わる表現に対して多くの批判やご意見を頂きました。
あらゆる差別は許されるものではなく、比較するような表現は不適切でした。
先のツイートを撤回し、皆様にお詫びいたします>