「死ななくても解決できるかもしれない」——メンタルヘルスの問題にオンラインで取り組む意義

文=みたらし加奈
【この記事のキーワード】
「死ななくても解決できるかもしれない」——メンタルヘルスの問題にオンラインで取り組む意義の画像1

(写真提供:みたらし加奈さん)

——LGBTQ+、フェミニズム、家族・友人・同僚との人間関係etc.…悩める若者たちの心にSNSを通して寄り添う臨床心理士が伝えたい、こころの話。

_____

 各地で桜の開花宣言が出るようになってきた。厳しい冬のあとに見る桜の美しさは多くの人の心に安らぎを与える。しかし私にとって3月は、嬉しい事ばかりではない。あまり知られていないが、3月は月別自殺者数が最も多くなる月だと言われている。そのため厚生労働省は、この月を「自殺対策強化月間」と定めている。

 なぜ3月に自殺が増えるかというと、それには様々な要因がある。会社員などは繁忙期によって、睡眠や身近な人とのコミュニケーションが疎かになりやすい。特に期日が決まっているものがあると「追い立てられている」ような感覚を覚え、それがトリガーになってしまうこともある。また、新生活での引越しなど、環境の変化も要因になりやすいと言われている。しかしながら昇進や進学などの“環境変化”の打撃は、5月ごろに出始めることが多いため、5月も月別自殺者数は多くなっている。

 だからこそ、毎年この時期になると考えるのだ。果たして自分の活動は、本当に意味のあるものかどうか——と。

「生きる意味は後からいくらでもつけられる」と伝え続けてきたが、活動に関してはその意義を何度も問いかけ直してしまう。連載の最初のほうでもお伝えしたが、私の原点は「専門機関に行きたくても行けない、行く必要がないと思っている人たちにSNSを使ってアプローチがしたい」というところだった。wezzyの連載第1回でも、こう綴らせてもらっている。

********************

 現代の日本では、心の病を抱えている人の多くが医療機関を受診できていないという現状がある。家を出て病院に行くまでの道のり、そして待ち時間を含めて、通院にはある程度の体力と気力がいる。医療機関を利用していない理由には精神科やカウンセリングへの抵抗感も挙げられるが、「しんどすぎて、外に出られない」人だって多くいるはずなのだ。

 街ですれ違うだけの相手と簡単に繋がれることはSNSの利点でもあり、携帯を起動してアプリを開くだけなら、そこまで負担になりにくい。私はSNSを使って「外に出られない人」に何かしらのアプローチができないかを考えた。

 私が従事する「臨床心理士」というのは非常に特殊な仕事で、基本的には狭いコミュニティの中で業務を行なっていくことが多い。目の前の相手と信頼関係を築いていくことが主になるため、どうしても社会に精神疾患の現状を訴えていくことは難しい。

 考え抜いた結果が、Instagramでのフィード投稿だった。

 私は女性で、自分の人生に傷付いたり立ち直ったりしながら生きてきた、そんな「普通」の人間だ。あえてカテゴライズするならば、臨床心理士で、女性のパートナーがいるというだけ。でももしかしたら、その「ありのままの姿」で発信することが、時に誰かの心の拠り所になり得るかもしれない。だからこそ、私の知っていることを、学んできたことを、問題として捉えていることを、とにかく伝え続けようと思ったのだ。

*********************

 日本には「専門機関に行くまでのワンストップ」のサービスや情報がまだまだ少なく、また、そのような“サービス”があったとしても一般的に広まりにくい土壌がある。日本の歴史から見ても、メンタルヘルスの専門機関に対するハードルが高いのは周知の事実であるからこそ、そこにたどり着く前にできるライフハックであったり、「怖くないよ、気軽に利用していいよ」と背中を押してくれるような情報は必要なのだ。誰かが「死ねば解決できる」と思ってしまうようなことを、「もしかしたら死ななくても解決できるかもしれない」と提案できるような“正しい”情報源がもっと増えていって欲しいと願っている。

 ありがたいことにこの1年で、さまざまな媒体に取り上げていただく機会も増えた。その度に「本当に広まって欲しい必要な情報を伝えられているか」と振り返る。そしてその「必要な情報」は常にアップデートされていかなければならないと考えていて、そのために専門家としてもっと知見を深めていくことは必要不可欠である。私はまだまだ臨床心理士として歴は浅い。横のつながりもなければ、私の持ちうる情報には限りがある。

 フリーランスの心理士として1番心苦しかったのが、実際に困っている当事者を目の前にして、具体的な支援の提案ができなかったことだ。どこの地域にどんな専門機関があって、どんな支援者がいて、そこと繋がることにどんなメリットがあるのか……うわべの情報ではなく、地域社会に基づいた医療や支援の「実際」を私自身は少ししか持ち合わせていなかった。だからこそ、今後は「中に入る」ことで、それらの情報を増やしていきたいと考えている。

 ここからは私的なご報告になってしまうが、4月から一般社団法人 国際心理支援協会に入職することが決まった。専門職としてのキャリア(臨床や研究、学会発表など)を積みたいという思いから、実はかなり前から「もう一度、専門機関に勤めたい」と感じていた。そんな時にお声がけをいただき、同じ信念をもった方々と働けることを嬉しく思っている。今ももちろん専門家としての責任は感じているが、より一層皆さまに根拠のある情報や、しっかりとした枠組みを届けられるのではないかと感じている。これからは専門職としての横の繋がりをしっかりと持った上で、支援の輪を広げていきたい。

 本連載はここで終了となるが、「みたらし加奈」としての活動は変わらず続けていく。mimosasでの活動や、パートナーとのYouTube、その他で行っている活動を止めるつもりはないし、スタンスや信念が変わることもない。多くの人たちに「メンタルヘルスケアの必要性」を届けていく上で、どういったアプローチの仕方が有効なのか、これからもSNSを駆使しながら考えていきたいと思っている。

 この1年間、wezzyで連載を担当させてもらった。SNSで発信を始めた3年前には、まだまだネット上では信頼できる情報がなく、「どこを頼っていいかわからない」「誰に話せばいいのかわからない」という相談を受けることは多かった。嬉しいことに近年、心の専門家が情報発信をする場面が増えたように感じる。それと同時に、どんなに専門的な情報源が増えたとしても私には私にしかできない発信の仕方を模索していきたい。これからも問題意識を持ちながら、メンタルヘルスに関する課題や社会問題について取り組んでいくので、温かく見守っていただけたら嬉しい。

「「死ななくても解決できるかもしれない」——メンタルヘルスの問題にオンラインで取り組む意義」のページです。などの最新ニュースは現代を思案するWezzy(ウェジー)で。