「なぜ子どもを産まないの?」「結婚しないの?」という的外れな問いかけ

文=原宿なつき
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レベッカ・ソルニット『わたしたちが沈黙させられるいくつかの問い』(左右社)

 レベッカ・ソルニットの新刊『わたしたちが沈黙させられるいくつかの問い』(原題The Mother of All Questions ハーン小路恭子訳 左右社)を読んだ。本書は、マンスプレイニングという言葉を広めたベストセラーエッセイ集『説教したがる男たち』(原題:Men Explain Things to Me ハーン小路恭子訳/左右社)の続編だ。

 表題作の『The Mother of All Questions』では、女性にぶつけられがちな不躾な質問について取り上げている。

 たとえば、ヴァージニア・ウルフについて著者が講演した際、「ウルフが子どもを持つべきだったかどうか」という質問が挙がったという。また作家で歴史家であるソルニットが政治に関する書籍を書いた際、あるインタビュアーから、執拗に「なぜ子どもを産まなかったのか」という質問が投げかけられた。

 どんなに偉大な業績がある女性でも、そういった問いをぶつけられがちだ。「なぜ子どもを持たなかったの?」と。「なんで結婚しないの?」というバージョンもある。

 ソルニットは言う。<「煎じ詰めれば、こうした問いは問いですらなく、自分たちを個人とみなし、一人ひとりの生き方を探る私たち女性は間違っているという主張なのだ」>(P.11)と。

 ウルフやソルニットのような偉大な作家や歴史家に対する問いが、「あなたの生殖状態は?」といったものに終始してしまうことは、彼女たちの作品が提示する稀有な問いから目をそらすことであり、彼女たちの業績を矮小化することだ。

 ときに、「矮小化してやろう」という悪意や敵意を持って、そういった問いは女性に投げかけられる。「なんだか偉そうだけど、でも、女性としては幸せじゃなかったんじゃない?」と。

 敵意を含んだ問いには、「で、なんでそんなこと聞くんですか?」という切り返しが効く。「男性にも同じことを聞きますか?」でもいいだろう。

自らに問いかける、的外れな問い

 問題は、敵意をまったく含まない問いもあるということだ。純粋に、「普通は結婚するだろう。普通は子どもを持つだろう」「それが幸せの道である」と信じている人はいる。とてもたくさんいる。

 実際には、不幸な結婚生活も、幸せな離婚もあるし、子どもを持たずに後悔した人と、子どもを産んで後悔した人、どちらの数が多いのかもわからない。現実を見ると、結婚して子どもを産むことを幸せへの既定路線だと定めるのは無理がある。しかし、「結婚や子どもが幸せへの道であるのに、なぜその道を選ぼうとしないのか」という価値観に沿った問いは未だに繰り返されている。

 あまりに頻繁に問われるため、問われる側も自問しがちだ。「私はなぜ、結婚しないのか、するべきか、子どもを産まないのか、産むべきか」というように。

 花田菜々子『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまっくた1年間のこと』(河出書房新社)では、「社会から問われてきた問いを、自分の問いとして繰り返し自問してきた。でも、その問い、自分にとってはまったく重要ではなかった」と気づく瞬間が描かれている。

 「独身と結婚しているのとどちらがいいのか?」「仕事と家庭のどちらを優先すべきか?」「子どもを持つべきか持たないべきか」。こういった問いは、ともすれば普遍的にすべての人にとって重要なことのように迫ってくる。しかし花田さんは、ある出来事をきっかけに、これらすべての問いが、自分の人生の重要な議題とずれていたのだと気づく。問いに答えられず、ふがいない気分になるのは自分が悪いのだと考えていた花田さんが、そもそも問いが間違っていたと気づいた瞬間は、とても清々しい。

すべての問いに答えを出す価値があるわけではない

 何かを成した人に、「なぜ子どもを持たないの? 結婚しないの?」と問うことは、シンプルに無礼だ。業績を矮小化することになるから。

 何も成していない人に「なぜ子どもを持たないの? 結婚しないの?」と問うことも、シンプルに無礼だ。なぜなら、その人が重視していない価値観を押し付けることになる可能性があるから。

 問いの立て方が間違っていれば、正しい答えにたどり着くことは永遠にない。「なぜ子どもを持たないの? 結婚しないの?」という問いに居心地の悪さを感じる人は、その問いがあなたにとっては重要ではないのかもしれない。であれば、その問いに答えを出す必要はない。あなたが自らに問うべき、もっと重要な質問が、きっとどこかにあるはずだから。

(原宿なつき)

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