
『報道ステーション』公式サイトより
●ダースレイダーの「小学生からやり直せ」(第3回)
『報道ステーション』(テレビ朝日系)が新たなウェブCMを発表し……すぐに取り下げた。発表と同時にツッコミが入りまくり、動画には低評価が並んだからだ。
早々に取り下げられたのでわざわざ動画の内容を詳らかにする必要もないと思うが、その後に発表された番組からの謝罪文に本質的な言葉があったので、動画の内容も少し紹介しよう。
若い女性が画面越しの生活上のパートナーに話しかける構成の映像で、「これは報道ステーションのCMです」というテロップからスタートする。この後見せる映像が報道番組のCMっぽくないぞ、ということを伝えたいのだろう。
CMには15秒版と30秒版がある。15秒版では「いい化粧水買っちゃった! 消費税は高くなったけど、今のうちにお肌に手をかけておけば裏切らないじゃんって思って」といったセリフがあり、その女性像の描き方に批判が集まっている。
だが30秒版はもっとひどい。それは「架空の世界」だからだ。登場人物はこう言うのだ。
会社の先輩、産休あけて赤ちゃん連れてきてたんだけど、もうすっごいかわいくって。どっかの政治家が“ジェンダー平等”とかっていまスローガン的に掲げている時点で、『何それ? 時代遅れ』って感じ
この歪な世界はどこなのだろうか? まさか世界153カ国中121位のジェンダーギャップ指数を誇る日本ではないだろう。
そもそも、ジェンダー平等というスローガンを出す必要のない状況とはジェンダーギャップ指数が世界で横並びになって順位がなくなっている世界だ。それは、どの時代の、どこの世界?
彼女の会社では、育休も取れず、職場に赤ちゃんを連れてきている先輩がいるようだが……。この「架空の世界」の設定が30秒という短い時間の中ですでに破綻している。
そもそも報道番組はこんな「架空の世界」を描くのが仕事ではない。「現実にどんな課題が存在し、それについてどう向き合うべきか?」「その選択肢をどうやって視聴者と共有し、議論の素材を提供していくか?」「CMで揶揄される“どっかの政治家”がどんな声を代弁し、どのような政策を提案し、それがどのように達成されるか?」「その政治家以外の選択肢は何があるのか?」こういったことを報じるのが仕事だ。
番組が描いた「架空の世界」を説明する役を、現実でジェンダーギャップの弊害を受けている若い女性に担わせていることは、報道番組がなすべき仕事と真逆の目線と言える。
『報道ステーション』の番組スタッフは、CM製作にあたりちゃんと議論をしたのだろうか?
動画撤回後に出された謝罪文には「ジェンダー問題については、世界的に見ても立ち遅れが指摘される中、議論を超えて実践していく時代にあるという考えをお伝えしようとしたものでした」と書かれている。
好意的に捉えるなら、「議論を重ねる段階はすでに終わっており、いまは実践に繋げる課題設定が求められている」と読んであげられないこともない。だが上記で指摘したような問題が山積する前提で読めば「めんどくさい議論はすっ飛ばして決めていこう」という決意の表明と思える。
スタッフ間で議論していれば、このCMの表現に違和感を覚える人もいたはずだ。そうした声に耳を傾けなかったのだろうか。
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