具ナシ『一蘭』カップ麺が即完売したワケ カップラーメン化で有名店になる逆転現象も?

文=A4studio
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一蘭の公式通販サイトより

 天然とんこつラーメン専門店の『一蘭』が2月15日にカップラーメンを発売し、なんとその4日後の2月19日には、早くも売り切れになってしまったことを一蘭公式Twitterで発表した。

 遡ると20年以上前から商品開発は始まっていたそうで、満を持して発売された『一蘭カップラーメン』は、「具材一切ナシ」、「税込490円」と色んな意味で思い切った内容だった。

 にも関わらず、SNSでは『一蘭カップラーメン』の即完売を受け、“一蘭難民”といった言葉が飛び交うほど話題と人気を集めている。

 『一蘭』だけでなく、今や有名ラーメン店の味を再現したコラボカップラーメンの存在は当たり前のものとなっており、コンビニに足を運べば定番商品として並んでいることも珍しくない。『一蘭カップラーメン』も将来的には、そうした定番商品に仲間入りしてもおかしくないだろう。

 さて、有名ラーメン店とのコラボカップラーメンが増え続ける今、ラーメン店と食品メーカーはどういった契約をしているのだろうか。裏事情について、ラーメン業界に詳しいフードアナリストの風間典之氏に伺った。

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風間 典之(かざま・のりゆき)
フードアナリスト。日々ラーメンを食べ歩き、主に雑誌などのメディアで執筆。ラーメンをお得に楽しめるスマホアプリ『ラ~ポン』にて連載を持つ。

有名ラーメン店とのコラボカップラーメンにまつわる裏事情

 いきなり下世話な話だが、有名ラーメン店とのコラボカップラーメンがヒットすることで、ラーメン店にもかなりの売り上げが懐に入ってくるのだろうか。

「いえ、ラーメン店と食品メーカーが取り交わしている契約は、必ずしもラーメン店にとって多くの儲けが出るような内容ではありません。一般的には、例えば200円の商品の場合、ラーメン店に入ってくるのは1円だとかそういうレベルです。

 もちろんコンビニに並びロングセラー商品となっているようなものであれば、安定した売り上げを得られるとは思いますが、カップラーメンによる売り上げで利益を期待しているラーメン店はそこまで多くないと思います」(風間氏)

 となると、ラーメン店にとってカップラーメン化はどういったメリットがあるのだろう。

「やはり宣伝効果が一番のメリットでしょうね。実際のラーメンの味に近づけた商品を多くの人に食べてもらえれば、当然お店に足を運んでもらえる機会は増えますから。

 例えば『鳴龍』(なきりゅう)というミシュラン一つ星を取ったラーメン店だと、『セブンプレミアム 鳴龍 汁なし担担麺』というカップラーメンを発売するのと同時に、お店でも『汁なし担担麺』という新商品を出すという珍しい売り方をしたことがありました。やっぱり首都圏のお店だと、“カップラーメン化”の宣伝効果でお店の集客にかなり影響するということでしょう。

 あとは、そのお店のカップラーメンが出たら、“美味しくて有名だからカップラーメン化されたんだ”と思う消費者は多いでしょうから、ネームバリューを得られる利点も大きいですね」(風間氏)

 一方、カップラーメン化によるデメリットもあるという。

「お店のラーメンを食べたことない人が先にカップラーメンを食べて、“食べてみたら期待した味じゃなかった”、“なんだこの程度の味か”と見限ってしまうケースもあるでしょう。実際のラーメンの味を再現できないと、お店としてはネガティブな露出になってしまうわけです。

 ただ、『一蘭』や『一風堂』といったとんこつ系は、麺自体の水分が少なく、カップラーメンに向いています。逆に、とんこつラーメンが“インスタントに近い”などとネットでは言われているくらいなので、『一蘭』や『一風堂』はそれを逆手に取ったとも言えるかもしれませんね」(風間氏)

 とんこつ系はカップラーメンにしやすいという裏事情があったとは意外だ。その『一蘭』は「具材一切ナシ」、「税込490円」といった強気な売り方をしているが、これにはどういった意図が?

「『一蘭』は、『一風堂』と同じく海外にも展開しているラーメン店なので、“うちは有名店なんだよ”というブランディングの狙いが強いのでしょう。

 具材を一切入れなかったのは、消費者にとって“期待ハズレ”になってしまうのを避けるための策だったのではないでしょうか。チャーシューや味玉といった具材はインスタントでは再現しにくいため、中途半端なクオリティの具材を入れて“期待ハズレ”と思われないようにしたのだと思います。

 また、とんこつのスープはインスタントだと臭みが感じにくく、前述したように麺はもともと再現しやすい。そういった利点を活かし、490円という価格に足る再現度の高いカップラーメンを作ることができたという、自信の表れなのではないでしょうか」(風間氏)

 それで発売から4日で売り切れたのだから、その自信は確かだったと言えそうだ。

コラボカップラーメンは食品メーカーにとってオイシイ企画?

 食品メーカーにとっても、有名ラーメン店とのコラボは企画しやすい商品なのだろうか。

「一定の売り上げは見込めるので、食品メーカーからすると有名店コラボのカップラーメンは手堅いのでしょう。『一風堂』、『すみれ』、『山頭火』といった10年以上愛され続けるロングセラーになっているような成功例もありますからね。

 しかし、実は必ずしも一般的な知名度の高い有名店がコラボされるとは限らないんです。例えば、東京ラーメン・オブ・ザ・イヤーを決める『TRYラーメン大賞』で大賞を取ったラーメン店も、カップラーメン化しています。そういった“一般的知名度は低いが雑誌やメディアのランキングで賞を取ったお店”も最近では商品開発されていますね」(風間氏)

 それがウケれば、今後、そういったパターンの商品化が浸透していくのかもしれない。

「今後は、密かに人気を集めている“知られざるご当地ラーメン”とのコラボが一般化していく可能性もあります。そして、知名度があまりないラーメン店が、有名食品メーカーとコラボしてカップラーメン化することで、有名になっていくというような逆転現象もあり得るかもしれません。

 消費者からすれば、カップラーメン化される時点である程度味が保証されていると受け取りますし、コンビニに並んでいたらどんなラーメンか気になる方も多いでしょう。カップラーメンから火がついて、お店自体が人気になり、ゆくゆくは有名店になっていく――なんてことも十分考えられますね。

 有名ラーメン店の味が全国どこでも手軽に楽しめるのは、今は特に外出自粛もあってラーメンファンにとってはうれしいことでしょう。今後は知られざる名店とのコラボ企画もどんどん進めていただければ、ラーメンフリークとしては嬉しいですし、メーカーさんにはクオリティにこだわった商品を出していってもらいたいです」(風間氏)

 地方の“知る人ぞ知る”ラーメン店の味がコンビニのカップラーメンで食べられるようになれば、ラーメン好きにはたまらないだろう。今後もラーメン店とのコラボカップラーメンが続々登場することを期待したい。

(文=二階堂銀河/A4studio)

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