【シリーズ黒人史5】Black Lives Matterへと続くアメリカ黒人の歴史~投票権法

文=堂本かおる
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2021年:ジョージア州~ジム・クロウ法の復活

 3月25日、ジョージア州の知事ブライアン・ケンプ(共和党)が同州の新たな投票法「SB 202」に署名した。明らかにアフリカン・アメリカンの投票を妨げる目的の内容であり、同州に本社を置くデルタ航空とコカ・コーラ社が抗議表明を行っている。MLB(メジャーリーグベースボール)もジョージア州でのオールスター・ゲームのキャンセルを発表済みだ。バイデン大統領も「21世紀のジム・クロウ法である」と激しく批判している。

 実のところ、SB 202に真っ先に抗議の声をあげたのはツイッターを利用する社会活動家たちと、全米に散らばる各企業の黒人CEOたちだった。 ツイッターに「デルタをボイコット #BoycottDelta」「コカ・コーラをボイコット #BoycottCocaCola」のハッシュタグが出回り、CEOたちは連名でニューヨークタイムスに抗議の一面広告を出した。その結果、両社ともに声明を出さざるを得ない状況に追い込まれたのだった。  

 これに対し、他州の共和党上院議員たちは両社を「目覚めた左翼」などと揶揄し、ジョージア州議会議員は自身の事務所からのコカ・カーラ製品撤去を進めている。

 SB 202は98ページにもわたり、多様な内容を含んでいるが、郵便投票の厳格化(有権者は投票用紙を役所まで取りに行かねばならない、ID番号が必要など)が強い批判の対象となっている。昨年の大統領選はコロナ禍により郵便投票が活用されて投票率が上がった。郵便投票の厳格化は投票率の低下を確実に招くとされている。

 何より批判されているのが、投票のために投票所前に並ぶ有権者に第三者が「水や食品」を手渡してはならないとする条項だ。同州は投票所の数が少なく、選挙日に長蛇の列ができる。昨年6月の予備選では30度近い気温の中、2時間以上並場なければならない投票所が多数あった。この傾向は低所得地区に顕著だ。こうした状態にありながら、支援団体などが有権者に水を配ることすら不可能となった。

 唯一、同法制定の前に猛烈に批判されて削除されたのが、日曜の期日前投票を禁止する条項だった。これは黒人有権者の「ソウル・トゥ・ポール(魂から投票所へ)」を妨げるものだった。米国の投票日は火曜日だが、事前の日曜日に黒人教会の信者が教会に集い、礼拝の後にバスで投票所に向かう仕組みを “Souls to the Polls” と呼ぶ。単独での長距離移動が難しい高齢者や車を持たない人などが集団で投票所に向かえる仕組みであり、そもそもは路上や投票所前での他者からの嫌がらせ(投票妨害)を防ぐ目的もあった。

 南部は「バイブル・ベルト」と呼ばれるように、非常に熱心なキリスト教の風土を持つ。黒人有権者は民主党支持者でありながらも、選挙を二分する同性婚や中絶問題については信仰に由来する保守的な考えを持つことが多く、かつては共和党にとって有用な票になり得た。ところが黒人大統領(オバマ)、続く反マイノリティ大統領(トランプ)の出現により、黒人有権者が共和党に投票する可能性は減った。共和党は利用価値のなくなった黒人票を可能な限り押さえ込もうとしたのである。

ステイシー・エイブラムス~投票率アップの原動力

 昨年の大統領選においてジョージア州の投票率アップの原動力となったのが、カマラ・ハリスと共に副大統領候補として名の挙がっていたステイシー・エイブラムスだ。

 エイブラムスはジョージア州議会議員を10年務めた後、2018年の同州知事選に民主党から立候補。現知事で、今回の投票法案に署名したケンプと激戦の末、僅差で敗れた。選挙戦時、ケンプは同州の選挙を監視する「選挙管理長」の立場にあり、州民のみならず全米から選挙管理長辞任要請の声が出たが最後まで辞任せず、投票に臨んだ。

 敗戦後、エイブラムスは2年後の2020大統領選に向けて同州での有権者登録運動を進めた。最終的に同州の有権者登録数は前回の大統領選時に比べて180万人増となった。

 また、大統領選と同時に行われた同州の上院議員2議席の選挙は僅差により、どちらも今年1月の決選投票に持ち越された。こちらも激戦の上、2議席とも民主党候補が勝ち、うち一人はアフリカン・アメリカンの牧師ラファエル・ワーノックであった。これにより現在、上院には3人の黒人議員が存在する。この上院選の背景にもエイブラムスの活躍があった。

 ジョージア州の共和党とケンプ知事にとってエイブラムスの存在と黒人票の動向は非常に厄介なものであり、それが今回の投票法改悪の理由だ 。バイデン大統領やエイブラムスが言うように、まさに「ジム・クロウ2021」なのである。(次回に続く)
(堂本かおる)

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