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リアルな場でのコミュニケーションが難しいコロナ禍で、「オンラインサロン」に加入する人が増加しているという。
オンラインサロンとは、著名人のファンや共通の趣味、ビジネスで同じ目的を持った人などが集まる有料会員制のオンラインコミュニティだ。多くはオンラインサロン内の情報の流出が禁じられているため、クローズドな場で安心して話せるという特徴がある。また、ものによっては、オフラインでの交流の機会があったり、カリスマ的存在である主宰者と直接コミュニケーションを交わすことも可能だ。
3月31日の『クローズアップ現代+』(NHK総合)では、オンラインサロンについて特集。人々がオンラインサロンにハマる理由を探った。
堀江貴文氏に感化され学校を中退した女性も
オンラインサロンの魅力とはどこにあるのだろうか。番組では実際にディレクターが女性限定の婚活オンラインサロンを体験取材。体験したディレクターは「悩みを否定せずに背中を押してくれるサロンの空間に居心地の良さを感じた」と話す。
サロンには「どんな相談でもまずは肯定して受け止める」というルールがあった。このようなルールは、他のオンラインサロンでも暗黙のルールになっているという。
また番組では、オンラインサロンに入り人生が変わったという18歳の女性にも取材。オンラインサロン入会前は、人間関係に問題はなかったものの、学校に通うことに虚しさを感じており、学んでいる内容が役に立つと思えず、学校を辞めることばかり考えていたそうだ。
そんな中、堀江貴文氏の動画を視聴。「学校に行く意味がない」という趣旨の発信に共感し、退学を決意。そして、堀江氏のオンラインサロンに入会した。堀江氏のサロンのイベントに参加し、そこで出会った大人に学校を辞めたことを話すと肯定され、衝撃を受けたそうだ。
現在は、そこで出会った人が主宰するスノーボードのオンラインサロンに入会しているという。また、父親が営む料理店を手伝いながら、オンラインサロンの魅力を知ってもらうためのブログを毎日更新し、充実した日々を送っているとのこと。オンラインサロンについては、自分を肯定してくれる居場所であること、地元の大人からは聞けないアドバイスが毎回刺激になることなどに魅力を感じているようだ。
ただ、この女性の母親は心配しているようで、<自分を肯定してくれる人の中に居ても居心地はいいかもしれないけれど、やっぱり世の中っていろいろな人がいるからもっといろいろなものを見てほしいと思います>と話す。
スタジオでは、井上裕貴キャスターが「まだ大人としての情報を受け止める度量や人生経験がないなかで、情報の渦に飛び込むことはリスクがあるのではないか」と母親の気持ちに共感を示した。
一方で、オンラインサロンを体験したディレクターは、この女性が笑顔になれる居場所を得たことや自信をつけたことに価値があるとしつつも、自身は「入会して10日ほどで違和感を覚えるようになった」と話す。
<サロンのルールだから肯定してくれているのであって、私個人の評価とは関係ないんじゃないかと思いまして、このまま居心地の良さだけにどっぷり浸かってしまうと自分を見失ってしまうのではないかと逆に不安を感じたりもしたわけなんです>
このディレクターは、オンラインサロンは日常で少し疲れたときに自分を前向きにしてくれる、避難所的な場所であると解釈したようだ。
この点、ディレクターが体験したオンラインサロンの主宰者は<サロンに入って行動変容して実生活に生かせて価値観が違う人にも自己主張ができるようにならないと><閉じた世界でしか存在価値を得られないようにはなって欲しくない>と注意喚起していた。
また、番組ではオンラインサロンによりトラブルに巻き込まれてしまった例も紹介。番組の取材を受けた女性は、ビジネス系のサロンに入会したものの、入会から3カ月後、高額な化粧品等を購入するよう言われ、違和感を覚えたため退会したという。
このように「おかしいな?」と思ったときには、最寄りの消費生活センター(消費者ホットライン「188」)に相談したり、事前に運営者情報を調べるなどの対応が必要だ。
また、「マインドコントロール」など心理学の専門家である立正大学の西田公昭教授は、オンラインサロンの肯定し合うルールから批判的なことを言えない雰囲気が生じ、誰も不満やおかしいと思っていないと錯覚を起こす現象があると言及。「慎重に近づく、相談しながら進めるのが大事」と助言した。
「なんでも肯定すること」の運営側のメリットとは
社会に浸透しつつあるオンラインサロンだが、「オンラインサロンは怪しい」と、抵抗感を持っている人は少なくないようだ。
今年1月には、アニメ映画『えんとつ町のプペル』の原作者かつ製作総指揮・脚本担当でもあるキングコング・西野亮廣氏のオンラインサロンでの手法が物議を醸した。
『えんとつ町のプペル』は今年2月15日時点で興行収入20億円・観客動員数150万人の大ヒットを記録しているが、西野氏が主宰するオンラインサロン会員男性が「note」にて、サロン会員が『えんとつ町のプペル』のシナリオ台本&前売りチケットを原価で仕入れて販売できる権利を利用し、失業保険を使って約24万円分の80セットを購入したものの、販売を断念したと公開。サロン会員も同意して購入しているものの、ネット上では「マルチ商法のようだ」「エグい」「禁断ビジネス」などと批判的な声が飛び交った。
非公開: 西野亮廣のオンラインサロン“信者”は7万人、大悟の「詐欺師」呼ばわりは妥当か?
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筆者自身もオンラインサロンに入会していた経験があり、怪しいオンラインサロンばかりではない。ただ、トラブル防止のため、警戒心を抱きながらどのようなサロンであるかきちんと調べることは有効だろう。
また、なぜオンラインサロンには「人を否定しない」というルールが設けられているのか。もちろん、優しさから肯定し合う空間が生じてもいるのだろうが、冷たい見方をするならば、オンラインサロンに居心地の良さを感じ続ければ会費を払い続けてもらえる。「言ってほしい言葉を言ってあげる」ことは運営側としてもメリットがあるのだ。
現実とのバランスと向き合う必要もある。「○○さんはこうした方がいい」と言っていても、あくまでそれは、○○さんの人生から言えることであり、自分にピッタリ当てはまるかはわからない。その人の言うとおりにして失敗したとしても、責任をとってくれるわけでもない。
オンラインサロンは上手な付き合い方をすれば、心の支えや安心できる居場所にもなるが、自分を見失ったり、トラブルに巻き込まれたりしないためにも「自分の行動は自分の意志で選択する」という意識を根幹に持っていたほうがいいのかもしれない。