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主役が金融緩和から財政拡大に
これまでの株式市場には、「コロナバブル」という言葉が流布していました。つまり、コロナの感染拡大が続く間は、世界の中央銀行がとことん金融緩和を続けるので、世界にマネーが次々と供給されて、実体経済とかけ離れた株高が続く、という見方です。これは単なる見方を通り越して、「信仰」のようになっていました。
ところが、このコロナバブルがやや色あせてきました。もちろん、世界の中央銀行は引き続き大規模な金融緩和策を続けているのですが、投資家の目が「大規模金融緩和」から「積極財政」に移ってきたためです。今や主役はバイデン政権のアメリカを中心に、前例のない積極的な財政支出の拡大にとって代わりました。
米国のバイデン政権は、就任早々に1.9兆ドルもの追加コロナ支援策をまとめ、すでに施行されています。個人には議会が昨年末にまとめた1人当たり600ドルの給付金に上乗せする形でさらに1400ドル支給され、短期間に1人2000ドル(21万円)も受け取りました。1.9兆ドルのうち、約1兆ドル(105兆円)は個人向けに支給され、個人所得を高めます。
これを見て、米国の中央銀行FRB(連邦準備制度理事会)は今年の年間成長率を6.5%に大きく引き上げました。中には中国の成長率を上回るとの予想まで出ています。株式市場からすれば、まさに「コロナさまさま」といったところです。
これだけでも今年の米国経済は「目覚ましい回復」が期待されていますが、さらにバイデン政権はインフラ投資・グリーンエネルギー対策、雇用対策を主眼とした3兆ドルから4兆ドル規模の追加支出を打ち出そうとしています。戦時中ならともかく、平和時にこれほどの大規模財政支出をしたことはかつてありません。
今年の米国の財政赤字は、ここまでですでにGDPの18%まで高まっていますが、インフラ投資策がまとまれば、GDPの20%を優に超えてきます。ここに至って市場の目は明らかに金融緩和策から財政拡大策に移りました。最初はこの大盤振る舞いを好感して株高がさらに進み、主要株価指数は最高値を更新しました。しかし、「コロナバブル」の様相が変わってきました。
財政が金融緩和を否定しかねない
コロナバブルの大前提は、世界の中央銀行がお金をどんどん市場に供給し、金融緩和をしてくれることにあります。コロナが世界経済に大きな負担となるからです。ところが、世界最大の経済大国米国が、前例のない大規模な財政支援策をうち、しかもワクチン接種が進んできたことから、前述のように今年の成長率は6%を超え、中国をも上回る「絶好調」と見られるようになりました。
FRB当局者からは景気回復は順調ながら、コロナの影響で「完全からは程遠い」として、引き続き金融緩和を続ける姿勢が示されてはいますが、少なくとも米国経済はすでに大規模緩和による支援が必要なほど、ひ弱な経済ではないと見られるようになりました。現に、10年国債利回りは、昨年夏の0.5%からこの3月には一時1.75%を超える上昇を見せました。
これまでは国債の金利が世界中で低すぎ、投資の対象は株かビットコインくらいしかない状況でした。しかし、米国債の利回りがここまで上昇してくると、リスクの大きい株でなくても、安全な米国債で確実な利回りを得たいという投資家も出てきます。米国金利の上昇が株買いの抑制要因になり始めたことになります。
世界ではコロナは収まっていない
コロナバブルは、新型コロナの感染不安を盾に、大規模な金融緩和を引き出し、株式市場はこの「金融相場」を利用してきたのですが、その金融緩和がほぼ出尽くしたのに対し、コロナの感染は欧州や日本でまた拡大を見せています。欧州では多くの国でまたロックダウン(都市封鎖)を余儀なくされ、経済への打撃が大きくなっています。日本でも緊急事態宣言が解除された後、感染が多くの地域で拡大、不安を広げています。
欧州ではワクチン接種後に死亡する例が見られ、北欧など一部の国でワクチン接種が中断したり、遅延したりしている間に変異株が猛威を振るっています。日本でも菅義偉首相は6月までに1億回分のワクチン接種を確保すると言いますが、そのためにはこれから1日平均100万件以上の集中接種が必要です。ここまでは1日あたり5万件から7万件にとどまっており、非現実的な数字です。
米国やイスラエルのようにワクチン接種が進んでいる地域では不安が軽減されていますが、地球上の多くの地域ではいまだに感染不安が収まっていません。これも株価には冷や水となっています。
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