女人禁制の聖火リレー区間が物議 思い出される「女性の方は土俵から降りてください」

文=雪代すみれ
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Getty Imagesより

 東京オリンピックの聖火リレーに「男性限定」のコースがあると明らかになり、物議を醸している。

 毎日新聞によると、今月6日に愛知県で行われる聖火リレーで、同県の半田市内を舟で通る区間が男性限定となっているという。

 江戸時代から続く上半田の祭礼である「ちんとろ祭り」のPRのため、祭礼で使用されている舟にランナーを乗せて聖火を運ぶ案を市が提案し、愛知県の実行委員会が決定した。祭りの際、舟は女人禁制となっているため、聖火リレーでも同様の対応にしたという。

 聖火リレー本番では、ランナーのほか、約30名の地元住民が舟に同乗しておはやしを奏で、祭りを再現する。なお、同乗する住民、警察官、報道関係者、全て男性とのこと。

 毎日新聞の取材に、半田市の担当者は<五輪精神にそぐわないところもあるかもしれないが、祭りはそういうもの。歴史と伝統文化か、最新の常識かの問題だ>と説明。愛知県の実行委員の担当者は<地元の魅力を発信したいという市の意見を尊重した。相撲などと同じ伝統なので、特段問題にはならず承認した>と回答している。

 この報道にTwitter上では、「聖火リレーなのにジェンダー平等を掲げるオリンピック憲章に反してる」「文化は尊重すべきだけど、なぜわざわざ聖火リレーのコースに選んだのか」など疑問・批判の声が集まっている。

「女人禁制」で思い出される「女性の方は土俵から降りてください」

 「女人禁制」で思い出されるのは、2018年に注目を集めた“相撲における女人禁制”だろう。

 2018年4月4日、京都府舞鶴市で行われていた大相撲の春巡業にて、土俵上で挨拶をしていた同市の多々見良三市長が突然倒れた。土俵に上がり救命活動を行っていた複数人の中に女性が含まれていたため、「女性の方は土俵から降りてください」と場内アナウンスが流れたのだ。

 当然だがこの件は多くの批判を呼び、同日、日本相撲協会の八角信芳理事長は<行司が動転して呼びかけたものでしたが、人命にかかわる状況には不適切な対応でした。深くお詫び申し上げます>とコメントを出した。

 当時、この件を機に、相撲の「女人禁制」の伝統に注目が集まった。こういった問題が起きたのは初めてではなかったからだ。

 2000~2008年に大阪府知事だった太田房江氏は、歴代の知事と同様に、土俵上で優勝力士に府知事賞を授与することを望んだが、叶わなかった。

 また、2018年4月6日に兵庫県宝塚市で行われた大相撲の巡業で、同市中川智子市長も挨拶の中で、「女性という理由で土俵上で挨拶できないことは悔しい」と言及している。

 相撲における女人禁制の伝統は根強いものであり、人命より伝統を重視するかのようなアナウンスが問題視されたときにも、「伝統は尊重されるべきで、緊急事態を除き女人禁制を遵守すべき」といった意見も見られた。

 一方、「伝統」そのものに疑いを向けた視点も出た。そもそも相撲における女人禁制の伝統は、明治時代から始まったものといわれており、研究者の中には、女性と相撲の密接な関係を指摘し、女人禁制が“伝統”とされることに疑義の念を抱く声もある。

その伝統にある背景とは

 今回物議を醸している理由は、伝統そのものへの疑問というより、「オリンピックの聖火リレーで、なぜ男性限定のコースを選んだか」という点だ。

 市のPRを優先し、ジェンダー平等が掲げられている催しの中で、女人禁制のコースを選ぶ。オリンピック関連の行事であるにもかかわらず、オリンピックで掲げている理念に反する選択をとるのは、オリンピックの理念の軽視と捉えられてもやむを得ない。「市の文化のPRができるならば女性蔑視なんて大したことがない」という本音が無意識下にあるのではないか。

 一方でそもそも舟が女人禁制とされている伝統自体への疑問の声も見られる。

 「地域に根付く伝統や文化が、現代の価値観にそぐわないならばすぐさまになくすべき」とは言えないものの、伝統や文化を尊重するならば、なぜその伝統や文化が女人禁制であるのか、十分な説明がされてもいいのではないか。

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