
『ワイドナショー』公式サイトより
4月4日放送の『ワイドナショー』(フジテレビ系)で、ダウンタウンの松本人志や中居正広が“容姿いじり”の是非について言及する場面があった。
番組冒頭、司会の東野幸治は今日の出演者を紹介。タレント・菊地亜美の番になると、松本は<前出られた時よりも、さらに顔がお丸くなられて>と彼女の容姿をいじった。それを聞いた中居正広は<松本さん、そういうの本当に気をつけた方がいいよ>と即時に反応。松本の明かしたところによると、松本は以前菊地と共演した際も、「オープニングよりエンディングでだいぶ太りましたよね」とコメントしたことがあったというが、オンエア時にはすべてカットされていたのだという。
松本の発言を注意した中居だが、中居も収録現場では菊地の体型いじりをしているようだ。実際、2020年11月放送『ザ! 世界仰天ニュース』(日本テレビ系)にて、産休が明けた菊地と久々に共演した際、中居は<やっぱ(体型)戻んないんですね><戻してからテレビ出るんじゃないの?>とイジり、菊地が<私、今日(出演が)久しぶりですけど、(中居は)久しぶりじゃなくても感じ悪いから>とやり返すくだりが放送されていた。
しかし、これは特別なケースなのだろう。オンエアでは前述した松本の発言のようにカットになっているとのこと。番組スタッフが出演者による容姿いじりを不適切だと判断しカットすることは、珍しくないのだろう。中居もカットされるとの安心感があるから、菊地の体型をいじったのかもしれない。松本も<(いじりの)塩梅は変わってきた。言わせてもらってる方だけど>と、テレビ番組において、いじりの扱いが変わってきていると話していた。
一方で、菊地は体型いじりに傷ついていないといい、<言ってほしい! 松本さん大好き><ありがたいですし、初めましての人に言われているわけでもないので>と言及。これに対して松本は<『菊地はそう言うしかないだろ』とか(視聴者に)言われるよね。『本当は傷ついてる』と>と、社会的な立場の差から菊地は平気なふりをしていると視聴者に認識されることを危惧していた。
その他、乙武洋匡は<最近の風潮は、菊地さんみたいな方が女性たちから批判される文脈もあって。『あなたみたいな人がいるからわたしたちがいくら声を上げても、菊地みたいに振る舞えばと言われるんだ』と>と、女性同士の対立構造があるとコメントした。
このやり取りにネット上では、「いじられた本人が傷ついてないなら問題ない」などといった声も出ているが、テレビ番組は居酒屋での会話ではない。社会への影響を考えれば、容姿いじりは淘汰されていくのが自然ではなかろうか。また、視聴者が容姿いじりを面白いと思わなくなってきているのであれば、単純に芸人にとってもマイナスな行為だ。
「めんどくさい」と思考停止する松本人志
時代と共に、テレビ番組での“笑い”は「人を傷つけない」方向へとシフトしている。しかし、それを「めんどくさい」「生きづらくなった」「テレビがつまらなくなった」と思考停止している視聴者も少なくない数いるのではなかろうか。
芸人の間でもこのような考えを持つ者は珍しくなく、松本人志もそのひとりのようだ。2018年に放送された『ワイドナショー』で“黒塗り”問題を取り上げた際、それが露わになった。
当時、問題視されたのは2017年大晦日放送『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで! 大晦日年越しスペシャル! 絶対に笑ってはいけないアメリカンポリス24時!』(日本テレビ)における演出。浜田雅功が『ビバリーヒルズ・コップ』のエディ・マーフィーのコスプレという設定で顔を黒塗りにしたくだりが差別的表現であるとして大炎上。日本のみならず、イギリス・BBCやアメリカ・ニューヨークタイムズも報じるなど、国際的な問題となった。
東野幸治から話を振られた松本は、この問題を「めんどくさい」ということから、浜田の責任にしようと言い出す。
<これに関しては言いたいこと色々あるんですけど、面倒くさいので、『浜田が悪い』でいいですよ。アイツを干しましょう。国外追放。断らなかったアイツが悪い>
さらに、ことの本質を議論するわけではなく、<じゃあ、今後どうすんのかなって。僕らはモノマネタレントではないので、別にもういいんですけど、この後、モノマネとかいろいろバラエティ(番組)で、じゃあ、今後黒塗りはなしでいくんですね。はっきりルールブックを設けてほしい>と、誰かが決まりを作って欲しいとまで言い放ったのであった。
「笑いとは何なのか」「面白いとはどういうことなのか」、世の中の全員の答えが一致することはまずないだろう。
どんな言葉が相手を傷つけたり、差別的な表現と捉えられるかというのも、状況によって違う。相手との関係性やシチュエーションによって、ある時は大丈夫だった言葉も、違う状況ではまったく通用しないこともあり得る。それを「世の中の塩梅が変わってきた」で思考停止してしまうから、どんどん息苦しくなってしまうのだ。
世の中の価値観は急速に変わりつつあるいまの時代は、逆を言えば、新しい表現が生まれる可能性を秘めた時代とも言える。「どういった表現であれば人々が気持ちよく笑えるのか」、言葉や振る舞いをひとつひとつ検討し、試行錯誤していけば、マンネリ化に陥っていた笑いの表現が新しく生まれ変わる可能性もある。
かつて日本のお笑いを根底から変えてしまった松本はその力をもっているはずだ。考え続け、新しい表現を視聴者に届けてほしい。