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山梨県甲府市の幹部の発言が、ネット上で波紋を広げている。
4月2日のUTYの記事によると、甲府市内で行われた中小企業の合同入社式の中で、来賓として出席した甲府市産業部長が“仕事だけでなくプライベートも充実させてほしい”という趣旨の挨拶の中で、以下のように発言したという。
<なるべく遊んでいただきたい。遊ぶのも男性同士、女性同士じゃなくて、楽なんですけどね、気持ちとしてはなるべく異性と遊んでいただければと思います。そうすることで少子化が少しでも解消されると思いますので>
<男性のほうにはお願いなんですけど、ジェンダーフリーとか、男女共同参画とか言われていますけど、遊びに行くときには男性のほうから誘っていただければと思いますので>
この発言にネット上では、「余計なお世話」「結婚や出産は個人の自由」「異性と遊ぶ=少子化解消の発想が気持ち悪い」「LGBTの存在が見えていない」など批判が集まっている。
さらに、式の後のUTYの取材に対し、産業部長は<結婚を意識してほしいという趣旨だったが、不適切だった。不快に思われた方にはお詫びし、発言については撤回したい>とし、謝罪・撤回を行っているものの、「またご不快構文」「“結婚を意識してほしい”って弁明するなんて何もわかってないんですね」など、「謝罪が謝罪になっていない」という指摘も見られる。
結婚・出産に立ちふさがる経済的な障壁
ネット上でも指摘のあったように、個人の交遊関係は他人が口出しするものではなく、結婚したとしても子どもを持つか持たないかは自由だ。さらに言うならば、パートナーになったからといって性行為をするかしないかも、パートナー間で話し合って決めることである。
「異性と遊ぶことで少子化が解消される」——つまり“若者の恋愛離れ”であり、“肉食化”を訴えているのだろう。しかし、生涯未婚率が上昇しているのは、本当に若者が恋愛をしなくなったからなのだろうか。現在の日本では、結婚や子どもを持つことにあたって経済的な障壁が見られる。
2015年に行われた国立社会保障・人口問題研究所の「第15回出生動向基本調査」において、結婚意思のある未婚者に、一年以内に結婚するとしたら何か障害となることがあるかを尋ねたところ、男女ともに「結婚資金」を挙げた人が最も多かった(男性43.3%、女性41.9%)。
また、夫婦が理想の子ども数を持たない理由としては、「子育てや教育にお金がかかりすぎる」が最も多く、特に妻の年齢が35歳未満の若い層では、8割前後が選択している回答である。
「男らしさの抑圧」は男性の生きづらさでもある
<遊びに行くときには男性のほうから誘っていただければ>というメッセージも、「恋愛において男性が女性をリードすべき」というジェンダーバイアスを行政が強化しているようなものだ。
「男性は女性をリードすべき」という従来の男らしさは、男性の生きづらさの要因でもある。
2019年に行われた『Lean In Tokyo』の調査によると、男性ならではの生きづらさについて、20代・30代では「デートで男性がお金を多く負担したり女性をリードすべきという風潮」の回答が最も多く、全年代の得票数から見ても2番目に多い。
ちなみに甲府市は、2003年に「甲府市男女共同参画推進条例」を制定、2013年に「甲府市男女共同参画都市宣言」をし、2017年に「第3次こうふ男女共同参画プラン」を発行している。
そして男女共同参画プランの中では<社会的性別(ジェンダー)に基づく因習・慣習の見直し>において、市民の取り組みとして<従来の「男は仕事、女は家庭」、「女(男)だから」、「男(女)のくせに」などという考え方を改めましょう>と投げかけている。
<ジェンダーフリーとか、男女共同参画とか言われていますけど>といった前置きをし、ジェンダーフリーや男女共同参画に反すると理解しながら、<遊びに行くときには男性のほうから誘っていただければ>と発信するのは、市として示している方針と異なるものではないか。
なお、男女共同参画プランの中では、<全庁を対象にして、管理職及びその他の職員に対する男女共同参画に関する研修を実施します>とも書かれている。
「ご不快にさせたから問題」ではなく、発言内容や「結婚を意識してほしい」という弁明の問題点、再発防止に向き合い、報道により注目が集まったことを“アップデートの機会”と前向きに捉えてほしい。