
DHCオフィシャルサイトより
※具体的なヘイトスピーチに関する記述を含みます。
株式会社DHC(本社:東京都)のホームページ上に掲載された、代表取締役会長の在日コリアンへの差別的な文章がネット上で批判を集めている。
注目されたきっかけは、2021年4月9日放送『おはよう日本』(NHK総合)での、企業の人権意識についての特集だ。
昨年、DHCのホームページにて、会長名義で書かれた「ヤケクソくじについて」という文章が問題となった。内容は、ライバル企業であるサントリーに対して差別表現を用いながら攻撃するもの。昨年12月頃にTwitterで拡散され、多くの批判を集めた。
<サントリーのCMに起用されているタレントはどういうわけかほぼ全員がコリアン系の日本人です。そのためネットではチョントリーと揶揄されているようです。DHCは起用タレントをはじめ、すべてが純粋な日本企業です。まもなく創業50周年を迎えようとしている老舗の会社です。今、雨後の筍のように出てきた幾多数多の同業者とも一線を画しています>
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『おはよう日本』でも「ヤケクソくじ」に触れ、DHCに抗議する署名活動を行っている団体や、国会でも言及されていることを紹介した。
今月2日、武井俊輔衆議院議員が<ヘイト企業のあり方も非常に残念>と問題提起し、上川陽子法務大臣は<企業にはむしろ率先してヘイトスピーチを含め、あらゆる差別または偏見をなくして人権に配慮した行動をとるということについて考えて深く行動していくことが大事ではないかというふうに思っております>と述べている。
問題となってから数カ月経つが、DHCはいまだに「ヤケクソくじ」の文章を掲載し続けている。NHKがその理由を質問したところ、DHCからは以下のような返答が返ってきたという。
<小生のことをマスコミ(これもコリアン系ばかり)は人種差別主義者だと言うが、人種差別というのは本来マジョリティがマイノリティに対して行う言動を指すのであって、今や日本におけるコリアン系はマイノリティどころか日本の中枢をほとんど牛耳っている大マジョリティである>
<NHKに対してひと言感想をと言われれば、「NHKは日本の敵です。不要です。つぶしましょう。」>
※全文はDHCのホームページで閲覧できる。「ヤケクソくじについて」と同じページの下の方に掲載されている。
Twitter上では『おはよう日本』の放送内容が拡散され、同時にDHCサイトに掲載されている全文にも再び注目が集まった。現在、「#BoycottDHC」「#差別をするDHCの商品は買いません」のハッシュタグとともに抗議の声があがっている。
制度面では課題が残されている
法務省が2016年に行った「外国人住民調査報告書」では、外国籍住民のうち8割がインターネットを日常的に利用していて、そのうち外国人を排除する差別的な書き込みを見たことがある人が4割であった。そして、そういった書き込みを避け、インターネットの利用を控えた人が2割いる。
現在、インターネットは我々の生活と切り離せないものになっている。ヘイトスピーチの問題があがると一部では「差別をする側の表現の自由」ばかりを主張する声があがるが、差別的な書き込みによって、差別のターゲットとなっている人々が「知る権利」や「表現の自由」を奪われている実態があるのだ。
番組の取材を受けた在日コリアン4世の女性も「ヤケクソくじ」の記事を見て、<開き直ったかのようにずっと載せているのはただの失言という域を超えて、私たちが直接攻撃されているようなそんな気持ちにもなってしまいます>と心情を吐露していた。
なお、2016年に施行された「ヘイトスピーチ解消法」は、<本邦外出身者に対する不当な差別的言動のない社会の実現に寄与するよう努めなければならない>としているが、この法律は“理念法”であり、禁止条項や罰則規定がない点で課題は残されている。
一方、川崎市では全国初の刑事罰の規定を含んだ「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」を2019年12月に制定している。
昨年11月に筆者が取材したヘイトスピーチの実態や、ヘイトスピーチの被害者救済のために必要な対策について学ぶ院内集会では、人権救済のために必要なのは迅速な削除だが、<何が削除対象となるのか定義規定がなく、特に「朝鮮人」「部落」などの属性にもとづく不特定の集団に対する差別書き込みは現行法では対象外となっている>との問題提起があった。
また、今後の取り組みとして、以下のような指摘があった。
<国が、ネット上の人権侵害に対し包括的に対応するための基本法を制定し、何が削除対象となる違法な投稿なのかを明確にする定義規定を法律で定めることが必要>
<削除や発信者情報を迅速に行い、かつ、濫用にならないよう、専門的な第三者機関を設置することも重要>
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差別発言を繰り返すDHC
DHCの子会社・DHCテレビジョンが製作している『真相深入り!虎ノ門ニュース』や『ニュース女子』では、差別的表現が繰り返されてきた。
TOKYO MXなどでも放送されていた『ニュース女子』は、2017年に沖縄米軍基地建設工事反対デモを特集した際、「反対派は日当をもらっている」「反対派の中に中国人や韓国人がいる」といった内容を放送し、BPO(放送倫理・番組向上機構)から「重大な放送倫理違反があった」と判断されている。
昨年注目を集めた「ヤケクソくじ」の記事を含め、差別的な発信が繰り返されてきたこともあり、Twitter上ではDHC商品を取り扱うコンビニ、ドラッグストア、ビジネスホテルや、DHCとのコラボ商品を展開する企業に対する厳しい声が見られる。
DHCの発する差別的なメッセージは決して許容・容認してはならないものだが、こうした問題を抱えているのはDHCだけではない。今後、さまざまな企業が人権問題への姿勢について問われていくことになるだろう。
※おはよう日本の特集は「NHK+」で見逃し配信がされている