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新型コロナウイルスの影響で営業時間短縮要請などが出された飲食店は、閉店や倒産の危機に陥ることもしばしば。特に、居酒屋などの夜営業が中心であった業態は大きなダメージを受けている。
この苦境をなんとか持ちこたえようと、居酒屋チェーン大手のワタミは、直営店の居酒屋の一部を休業し、約120店を「焼肉の和民」に切り替えた。その後、ワタミ株式会社は、焼肉店「焼肉の和民」店舗が居酒屋業態と比較して、前年売上比283%を達成したと発表したのだ。
居酒屋から焼き肉屋への転向といったケースは飲食業界で以前からあったが、このように“業態転換”を行い、業績を持ち直している店がここ数カ月で徐々に増えている。はたして“業界転換”にはどんなメリット・デメリットがあるのだろうか。また、今後の飲食業界にどんな影響を及ぼしていくのだろうか。
そこで今回は、フードサービス業界記者を三十数年にわたり務める、フードサービス・ジャーナリストの千葉哲幸氏に解説していただいた。
千葉哲幸(ちば・てつゆき)/フードサービス・ジャーナリスト
早稲田大学教育学部卒業後、経営専門誌の『月刊食堂』(柴田書店)、『飲食店経営』(商業界、当時)とライバル誌両方の編集長を歴任。2014年7月に独立し、フードサービス業界記者歴三十数年。『フードフォーラム』という屋号で、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動などを行う。著書に『外食入門』(2017年)などがある。
今必要な“業態転換”、しかしメリットだけでなくデメリットも…
まず“業態転換”という営業戦略について改めて解説していただこう。
「“業態転換”とは、簡単にいうとこれまで行っていた商売を切り替えるということです。新しい商売は、これまでとは異なるので、居酒屋から焼き肉店のように、なるべく近い商売に転換します。
2020年には新型コロナウイルスの影響で、特に“業態転換”をする事例が多かったように思います。一方、これまでの商品をお客様の元に届けることを行うところも増えました。巣ごもり需要が増えたということです。人々は、このような便利なサービスを一度経験してしまうと、簡単に元に戻ることはできませんから、今後もデリバリー需要は増えていくでしょう。そのような流れに乗るように、Uber Eatsや出前館のようなデリバリープラットホームが増えて、それらに配達を依頼するゴーストキッチン、バーチャルレストランといった形態の店舗も急速に増えてきました。ゴーストキッチン、バーチャルレストランとは客を招き入れるタイプの実店舗を持たない飲食店のことです」(千葉氏)
コロナ禍おいて、デリバリーやテイクアウトといった新しい商売に挑戦したことで可能性は広がったといえるでしょう。
「これまでと同じことをやっていては生き残れません。例えば今までは夕方5時営業開始の居酒屋をやっていたような夜営業スタイルの飲食店は、昼型の生活の人々を取り込めるような業態に転換していくといった施策を打つ必要があります。
ただし、“業態転換”は当然デメリットやリスクも大きいものです。手当たり次第に的外れな路線への“業態転換”をしても結果、投資した資金を無駄にしてしまうことにもなりかねません。
“業態転換”をするには、まさに生活者が必要とするものに合致しているのかどうかを、把握する必要があります。街の人たちの生活行動をよく見極めて、それに即した業種や業態を考える。それだけでなく、他の店が行っていないサービスなど、独自性を考慮するのが大事なポイントとなります」(千葉氏)
家庭で食べる外食、外出して食べる外食の楽しさの追求
“業態転換”をする飲食店は今後もさらに増加していくと予想されるが、コロナ禍が一段落した後、業態をもとに戻すという動きは見られるのだろうか。
「おそらく緊急事態が解除されたあとも、夜型営業のお店が活気を取り戻すためには時間がかかり、飲食業界全体で昼型営業が主流になる傾向は今後も続くでしょう。このように昼型営業の商売がさらに活発化していくと同時に、商売の仕方の多様化が進むと考えています。
多ジャンルに渡って飲食店を経営しているある会社の話ですが、コロナ禍によって居酒屋業態はかなりの大ダメージを受けたものの、喫茶店などは売上の落ち込みがそれほどでもなかったことから、昼型営業の食事業態に力を入れることになったそうです。
そこで新しい試みとして、スリランカのスパイスカレーを使った独自性のあるカレー店
を開店させたところ、好調ということでした。特徴を打ち出すことが難しい普通のカレー店では客を呼び込めなかったかもしれませんが、スリランカカレーという専門性を出したのが功を奏したのだと思います。このように同じ料理ジャンルでも多様化が顕著に進んでいくことでしょう」(千葉氏)
最後に今後の飲食業界の展望について伺った。
「多様性と同時に外食の楽しみ方にメリハリがついてくることでしょう。テイクアウトやデリバリーが進むことによって、家で高級レストラン並みの食事ができるようになります。電子レンジで温めるだけで、一流のレストランの料理が食べられるように変化していくでしょう。ですから、家庭における食事の利便性が高まると同時に、食事のクオリティが一層高まっていくだろうと予想できるわけです。
コロナ禍でテイクアウトやデリバリーが増えたとはいえ、外食は全てこれらに取って代わられるわけでもありません。お祝いごとや景気づけをするための集まりでは、ZOOMなどのオンラインではなく直接集まったほうが楽しく盛り上がります。リアルの存在がより貴重になっていきます。
そこで外食の求め方、場所、楽しみ方、そして業種も業態もコロナ禍以前より増して多様化していくことになるでしょう。」(千葉氏)
しばらくはWithコロナ時代に合わせた生活リズムが強いられるなかで、飲食店もその流れにうまく対応していく必要があるということか。飲食業界の今後の取り組みに注目だ。
(文・取材=海老エリカ/A4studio)