ドイツの春の味といえば「シュパーゲル」と呼ばれるホワイトアスパラガス! 今年も4月8日から、ベルリン郊外の産地ベーリッツで、2021年のシーズンがスタートした。
今年は4月に寒の戻りがあったからか、まだ多くの収穫は難しいというが、これから6月24日の聖ヨハネの日まで、地元産のホワイトアスパラガスが市場やスーパーマーケットに出回ることになる。
ゲーテが「全ての野菜の王様」と称え「惜しむらくはその統治期間が短いこと」と嘆いたとも言われる、ドイツ人お気に入りの野菜。ここまで多くの人がこの野菜を好きな理由は、長い冬の終わりとともに旬が来る、春を告げる存在だということもあるのだろう。つやつやと輝く露地物の白ホワイトアスパラガスが市場で山積みになっている光景に、ドイツの人は春の訪れを感じるのだ。
しかし、その春の味は、中・東欧からの外国人季節労働者によって支えられている。近年、賃金の低さや労働環境の悪さが問題視されてきたが、昨年からのコロナ禍でそれが大きく表面化した。
野菜輸入大国ドイツが、ホワイトアスパラガスは地元産にこだわる理由
輸出大国として知られるドイツだが、実は野菜や果物は他国からの輸入に頼っている。スーパーマーケットに並ぶ野菜はほとんど輸入もので、自国のものは2割ほどしかない。連邦食料・農業省の2018年の統計によると、主にオランダ(年間105万トン)やスペイン(103万トン)から、トマトや柑橘類などのドイツで育ちにくいものに限らず、にんじんや玉ねぎといったものまで輸入している。
しかしホワイトアスパラガスに関しては頑として国産、近隣の地元産にこだわる人が多い。この時期になるとレストランが「(近郊の)〜産のホワイトアスパラガスあります」と看板を出すほどに、皆その登場を待ちわびているのだ。
その理由は、アスパラガスは鮮度が命の食べ物だからだ。収穫と同時に味がどんどん落ちていくからである。朝に産地直送の採れたてを売る屋台で買い、その日のうちに食べるのがお約束だ。塩と砂糖を少々入れた水で茹でただけのシンプルなものを、溶かしバターや燻製ハムを添えて食べると、優しい甘さが引き立つ。
一人前は500gと大量だが、ホワイトアスパラガスは約93%が水分で、100gあたり20カロリーと低カロリーなので、さらに山盛りの茹でじゃが芋やカツを添えて食べることが多い。2017/18年度の1人当たりのホワイトアスパラガスの消費量は約1,7kg。1人前500gとすると、シーズンに3回以上は食べている計算になる。
野菜の王様の流通を支える、過酷な低賃金労働
2020年のアスパラガスの作付け面積は21900ヘクタールで、ドイツ全国区の露地野菜栽培面積の約5分の1。ドイツ連邦栄養センターによると、最も広く栽培されている野菜となる。
しかし、需要は増え続けている反面、収穫のための農作業ヘルパーの数は年々減るばかりで、人手不足が指摘されている。土をかぶせて、日にあてずに育てることで白さを保つ繊細な野菜の収穫は、ビニールを剥がして周りの土をはらい、専用の器具でアスパラを折り取るという手間がかかるものだ。機械化も難しく、中腰のきつい姿勢を何時間も続けて作業しなければいけない。
これまでドイツでは、こうしたホワイトアスパラガスの収穫を、主にポーランドやルーマニアからなどの東欧からの季節労働者に頼っていた。しかし近年ポーランドは経済状況が改善されてドイツへの季節労働者は減り、ホワイトアスパラガス農家に手伝いに来る場合でも賃金や労働環境の点でメリットの多い、ロジスティックなど物流システムを担当することが多くなったという。畑でのハードな収穫作業は、ルーマニアからの季節労働者が引き継ぐことになった。
そのルーマニアも本国の景気が悪くなく、また建設業界の方が賃金が高いなどの理由から、農作業ヘルパーとしてドイツに来る人は減少傾向にあるという。
肉体的に非常にキツイこの仕事だが、時給はドイツで決められている最低賃金の9,50ユーロ以上になることはほとんどない。
2018年、中東欧諸国の農村部の構造改革を支援するPeco-Institutベルリンの代表、トーマス・ヘンシェルへのインタビューによると、契約上は最低賃金が支払われていることになっていても、専用の道具や洋服のレンタル料も引かれ、ひどい時には宿泊施設が高すぎて稼いだお金がほとんど手元に残らないようなこともあるという。ヘンシェルは「取引先が農作物にお金を払わないから、労働者にもお金が払えない」という農家の言い分を批判する。
ドイツ労働総同盟は、2020年からの新型コロナウイルスによって、もともと決して良いとは言えない労働環境が悪化したと状況の改善を求めて声を上げている。
昨年はホワイトアスパラガス収穫の時期が、第一波のロックダウン中にあたったため、様々な問題が表面化した。
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