
写真:ロイター/アフロ
今年3月に起きた、8人が死亡した米国南部ジョージア州アトランタ近郊の連続銃撃事件をきっかけに、アメリカ社会の中で「アジア系アメリカ人」がどのように差別されているのか、歴史的にどのような扱いを受けてきたのか、そしてこれから当事者たちがどのように生きていけばいいのか、多くの議論が巻き起こった。なかでも再考する必要があるとされているのが、アジア人が「モデルマイノリティ」として捉えられているという問題だ。
増加するアジア人へのヘイトクライム なぜここまで放置され続けてきたのか
米国南部ジョージア州アトランタ近郊で3月16日、3つのスパで連続銃撃事件が発生した。8人が死亡し、1人の容疑者ロバート・ロング(21歳の白人男性)が同…
この話題が取り上げられているのには、大きく分けて2つの理由がある。1つ目は、銃撃事件の犠牲者となったマッサージ店で勤務していた韓国系・中国系の女性たちは、一般的な「優秀でお金持ちのアジア人のイメージ」に当てはまらないような人々であったということだ。
「(彼女たちのような)アジア系アメリカ人の第2の移民層は、ここ数十年の間に米国に到着し始め、第1の移民層とはほとんど切り離された状態にある。アジア系アメリカ人のステレオタイプとは異なり、多くは教育を受けておらず、価値があるような仕事や英語のスキルを持ち合わせておらず、周囲から敬遠される低所得者層に集中している。」(「Atlanta shootings expose outdated Asian American stereotypes — and largest U.S. income gap」Los Angeles Times)
2つ目は、「アジア人は勤勉で、優秀。そしていつも大人しく、政治や社会問題に口出ししない」というイメージが広く持たれているという問題だ。
このようなアジア人に対する「モデルマイノリティ(模範的なマイノリティ)神話」は、第二次世界大戦以降から今に至るまで、アメリカに暮らすアジア人に大きな影響を与え続けている。
モデルマイノリティの由来は
アジア系アメリカ人は社会的地位が高いという認識を生み出すこのステレオタイプは、「アジア人がこのような成功を収めたのは個人の努力の賜物だ」というメッセージも同時に発信する。これは白人中心社会から生まれる人種差別を助長し、アジア系アメリカ人の若者たちの精神的な健康を著しく害し、コミュニティとしての幸福度を下げ続ける要因にもなっている。
モデルマイノリティはもともと日系アメリカ人を形容するために生まれたフレーズだが、現在ではユダヤ人や東アジア人(日本、台湾、中国、韓国系アメリカ人)やインド系アメリカ人と関連付けられている。そもそも「モデルマイノリティ」という概念はどこから由来するのか。
「モデルマイノリティ」というフレーズが使用された最も早い例の一つとして、社会学者のウィリアム・ピーターセンが1966年にニューヨーク・タイムズ紙に掲載した、第二次世界大戦中に抑留されていた日本人コミュニティの静かな成功を伝える「サクセス・ストーリー 日系アメリカ人のスタイル」という記事が挙げられる。
ワシントン大学のニュースサイトでは、モデルマイノリティ神話の問題について以下のように触れられている。
「この神話は、アジア人を他のマイノリティが見習うべきモデルとして仕立て上げ、アジア人は経済的成功により人種差別を克服したのだと主張する。公民権運動において黒人コミュニティが職業や教育に関する構造的な変化を求めたとき、このモデルマイノリティ神話は、人種差別を克服できるはずの個人的な態度や労働倫理を培わなかったことを非難する道具に使われた。」
さらに、第二次世界大戦後に社会復帰を希望した日系アメリカ人がこの「神話」を自らのエンパワメントのために活用したことで広まるきっかけになった、という説もある。
「抑留後、日系人は白人の中流階級に統合されるべきだと主張するために、また、そのような状況下で日本人が経験していた攻撃から日本人を守るために、研究が行われた。その後すぐに、これらの研究結果は、日系人のイメージをできるだけ良く描くように操作されたもので、保守派の政治家が公民権運動に反対するために利用されたのだ。」(「HOW DOES THE MODEL MINORITY MYTH FEED INTO RACISM?」Public Integrity)
アジア系コミュニティの中の格差を無視する問題
「アジア系アメリカ人はみんな優秀で高給取り」というイメージを社会的に持たれることによって、アジア系コミュニティの中での経済的、そして教育的格差も無視されてしまう。その結果としてアジア系全体が、公的・私的な援助の対象外になってしまったり、格差の問題を矮小化してしまうことも発生している。
「東南アジア系アメリカ人の高校中退率は非常に高く、ミャオ族系アメリカ人の約40%、ラオス系アメリカ人の約38%、カンボジア系アメリカ人の約35%が高校を卒業していない。これらに加えてベトナム系アメリカ人たちの収入も、実際には全国平均を下回っている。アジア系アメリカ人が「特権層」で「成功した」マイノリティであるという一般論は、多くのアジア系アメリカ人が日常的に直面している不平等を明らかにするような気の遠くなるほど詳細に示されているデータに取って代わることはできない。」(「“Model Minority” Seems Like a Compliment, but It Does Great Harm」The New York Times)
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