「真面目でエリート」という偏見がアジア人差別を助長する理由 モデルマイノリティは褒め言葉じゃない

文=竹田ダニエル
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アジア系アメリカ人に与えるパーソナルな影響

「アジア人はみんな数学が得意」「アジア人はみんな優秀で良い大学に進学する」

 アジア系の外見をしている人は、幼少期からこのような偏見の言葉の対象になった経験のある人が非常に多い。白人がマジョリティの学校で「なぜアジア人なのに数学が不得意なのか」と先生に問い詰められたり、親や家族からも「お前はアジア人なんだからいい大学に進学しないと恥だ」と言われることもミーム化されるくらい「あるある」な話だ。

 このように、社会からも身内からも「アジア人に対する期待」を常に持たれることで、非常に若い内から自分に対する非現実的な期待を内面化してしまうのだ。得意な科目や不得意な科目があることは当然だし、アジア系全員が医者や理系科学者を自発的に目指したいわけでもない。

 それにも関わらず、成績や課外活動などで「完璧でならなければならない」という外的なプレッシャーを常に受けることで、アジア系アメリカ人のメンタルヘルスや幸福度が著しく低いということが最近問題視されている。

 さらに、「アジア人は社会的に恵まれている」というステレオタイプや、あまりメンタルヘルスについて他人と話し合わない「アジア的な」カルチャーを内面化してしまうことで、悩みについて助けを求めたり、メンタルヘルスの問題と向き合うことも歴史的に非常に少なかった。

  ボストン大学のソーシャルワーク学部教授兼社会調査委員長であるHyeouk Chris Hahm氏は、以下のように話している。

「アジア系アメリカ人の多くは、アメリカで生まれたにもかかわらず、助けを求めることにスティグマを感じています。また、実際にメンタルヘルスの治療を受けようとしても、既存の心理療法では必ずしも助けにならないことが多いのです。それは、アメリカで育ちながら、アジアの家族やコミュニティのメンタルヘルスに対する考え方の影響を受けているという “デュアルカルチャー “の経験にそのようなサービスが対応していないからです。」

 また、アジア系アメリカ人の健康に焦点を当てた研究が少ないことにも言及している。Hahm氏によると、過去26年間、国立保健研究機構はアジア人、ハワイ人、アラスカ人のための臨床研究に全体の0.17%しか資金を投入していない。

「私たち(アジア人)が注目に値しないということを意味しています。これはモデル・マイノリティの問題にも通じるもので、私たちアジア人は問題を抱えていないのだから、アジア系アメリカ人の研究をしたり、治療法を探したりしなければならないのか、という考えが生まれてしまうのです。」(「Asian Americans and the Model Minority Dilemma」BU Today)

 「2020年に「モデルマイノリティ」として生きることによるメンタルヘルスへの影響」というタイトルのNBCの記事でも、ヘイトクライムの増加とメンタルヘルスの悪化の関連性、そしてアジア系アメリカ人特有のメンタルヘルスに関する知識の不足について論じられている。

社会構造・差別を助長する問題

 モデルマイノリティ神話はアジア人に対してだけでなく、その他マイノリティや黒人など、社会的に抑圧されている有色人種とアジア人を「対立」させるための道具としても用いられてしまう。一部の人種や属性を抑圧している社会構造から責任を転嫁させるためにも、マイノリティグループ同士を対立させているのだ。

 Z世代とミレニアル世代を中心にした、グローバルな人道的問題に対する最善の解決策を探るコミュニティNovelHandのブログにて、エッセイストであるPragya氏はモデルマイノリティ神話が黒人に対する人種差別を助長する理由について、以下のように説明している

「アジア系アメリカ人の世帯収入の中央値は、全米の世帯収入の中央値を39%も上回っており、アメリカで最も収入の高い人種・民族だ。この繁栄を支えているのは、強い家族観、確固たる労働倫理、そして高等教育であるという単純化された偏見が存在する。白人は、「成功している」アジア系アメリカ人のコミュニティを、黒人たちの(人権を求める)闘いを弱めるための人種的なくさびとして何度も利用してきた。「彼ら(アジア人)にできるのなら、なぜあなたにもできるはずだ」と。

 このような人種的比較は、何世紀にもわたって体系化されてきた黒人排斥の人種差別を無視しただけでなく、アジア系アメリカ人が黒人のマイノリティ体験から距離を置き、白人の地位を重んじる国に同化しようとするきっかけとしても機能した。我々は、自分たちが望ましいマイノリティであることを誇るのではなく、公民権運動のヒーローである黒人たちの肩の上に私たちの成功が築かれていることを忘れてはならない。」

 実際は白人中心・白人優位な社会問題を、黒人(その他マイノリティ)vsアジア人の問題に責任転嫁してしまうことに、アジア人は歴史的に駒のように利用されてきてしまったのだ。自分たちが社会に「受け入れてもらえるため」のサバイバル術として、モデルマイノリティのステレオタイプに自ら当てはまりにいったことで、同時に白人中心社会の価値観に縛られてしまったこともまた問題だ。

 それによってアジア系間での連携も比較的弱く、”assimilation(同化)”のためにカルチャーや民族性などを「ひけらかさない」ように生活することを強いられていたことも、現在ハリウッドなどで問題になっているrepresentationの不足、つまりは「いないもの」とされてしまう実態に繋がってしまう。

コロナによる変化

 UCLA Luskin School of Public Affairsの研究教授であるPaul Ong氏は、このように話している

「成功や失敗などの経験がアイデンティティに直接結びつくという信念をアジア系の多くの人々が共有しているため、助けを求めることは一般的ではない。助けを求めることは、「自分の汚い部分をさらけ出すこと」と解釈され、さらにはその恥が家族にも反映されてしまうのだ。アジア系アメリカ人の失業申請が急増したという事実は、状況が切迫していて、他に選択肢がなかったことを示している。」

 コロナウィルスのパンデミックによって、大きな変化も起きた。ヘイトクライム(前回書いた記事を参照)の急増によって、アジア系に対する人種差別の深刻さが明確になったと同時に、社会的援助を必要としているアジア人の存在や、「助けを求め、アジア系同士で連携することの重要性」も浮き彫りになった。

 若い世代の間では、SNSでメンタルヘルスについての重要な情報や、黒人差別やアジア人差別などの人種差別、そしてより大きな社会的構造の問題と向き合うためのリソースなどを共有しあい、前世代の「分断」を橋渡しすることで連帯しあうようなムーブメントも強く起きているのだ。

 自身が属するコミュニティの歴史や社会的な立ち位置について学ぶだけでなく、複雑に絡み合う差別・抑圧・偏見等の要因についても「インターセクショナル」に考える必要がある。そのような自覚が生まれつつある今、初めて人種や世代を超えた「連帯」が可能になり、真の「エンパワメント」が実現すると、私は期待したい。

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