20代グラフィックデザイナーが「性教育に特化した無料イラスト素材集サイト」を立ち上げる理由

文=雪代すみれ
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ジェンダーに関するイラストも掲載予定(佐藤ちとさんご提供)

 「性教育をもっとたくさんの人に知ってもらいたい」——そんな思いで一人の若者が立ち上がりました。

 社会人2年目でグラフィックデザイナーとして働く佐藤ちとさんは、自身の得意とする「イラストやデザインの面から性教育を支えていきたい」という思いで、性教育に特化した無料イラストサイト立ち上げのため、クラウドファンディングを行っています。

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性教育イラストサイト立ち上げへの思い(佐藤ちとさんご提供)

佐藤ちと
本業は都内でグラフィックデザイナー兼イラストレーター。 相模女子大学学芸学部デザイン学科在学中、卒業制作で「生理用品は隠すべきものなのか」という問題提起した作品をつくり卒制で金賞、発想賞を受賞。 「おいしい東北パッケージデザイン2018」で奨励賞受賞。 コンドーム試触会の「コンドームテイスティングセット」や、東京都エイズ啓発拠点事業ふぉー・てぃーのコンドームケースをデザイン。 大人のデパート「エムズ」のアンバサダー2期3期。現在、Lenovo YOGAの公式アンバサダー。Twitterでは性にまつわる問題提起の漫画を投稿中。 Twitter:@sato_chito_

——「性教育イベントに参加する中でイラストを探すのに苦労してそうだったと感じた」と、クラウドファンディングページで公開されている漫画に描かれていますが、具体的にどこからそのように感じたのでしょうか。

佐藤ちとさん(以下、佐藤):私は大学2年生の頃から、産婦人科医や性教育に関するアクティビストと一緒にお仕事をしているのですが、コンドームや低用量ピルなど、求められるイラストが似通っていることに気付きました。

 また趣味で性教育イベントに参加する中で、登壇者の方々がスライドで使う画像探しに苦労していました。自分でイラストを描く方もいるのですが、描けない方だとテキストが多くなりがちです。

 そこで無料素材があれば、性教育関連での発信がもっと充実するのではないかと考えました。

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(佐藤ちとさんご提供)

——サイト制作や運営には費用がかかりますが、イラストが「無料」であることにこだわりを持たれている理由はありますか。

佐藤:有料のイラスト素材を購入するとなると、相場は1点2,000円~なのですが、性教育に関するアクティビストは学生や20代など若い人が多く、イラスト素材を購入して活動に使用するのは、現実的ではありません。

 イラストには視覚的にわかりやすく伝える効果があります。私はイラストのそういった効果も伝えたいという思いがありますし、かつ、性教育に関するアクティビストは「利益よりも発信したい」という思いの方が多く、イラストを使うことのハードルを高くしたくないんです。

 特に性教育は“教育”という言葉からハードルの高さを感じる人もいますし、小さなお子さんに伝えるなら「見てわかる」ことが重要です。

 「他にないので、雰囲気が合わないイラストを使用している」という声を聞いたこともあります。だから、私の描くイラストは「あたたかみが感じられること」を大事にしています。また、「性教育」という言葉は「アダルト系」と認識されてしまうこともあるので、イラストを用いてそういった誤解も解いていけたらと考えています。

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コンドームの付け方や低用量ピルなどのイラスト(佐藤ちとさんご提供)

——今回、なぜクラウドファンディングを始めたのでしょうか。

佐藤:以前、Webスクールでコーディングを学んだこともあって、最初は自分で一からサイト制作をしようと思ったのですが、理想のサイトを作るにはハードルが高かったんです。

 そこでプロのWebデザイナーに見積もりを出してもらったのですが、自腹で払うには負担が大きすぎる金額でして……。サイトの立ち上げだけでなく、サーバー代・ドメイン代など、継続的に費用がかかるものもあり、運営費も必要です。

 その資金をまかなうため、クラウドファンディングを始めました。みなさんのおかげで、第一目標であった38万円は開始初日で達成して、第二目標である150万円もあと少しで達成できそうです。

——一からサイトを立ち上げるにあたり、どんなことに苦労されていますか。

佐藤:まず収益化についてです。サイト収益化のメジャーな方法の一つとして、Google AdSenseでの広告収入を得る方法があります。しかし、Google AdSenseは言葉の規制が厳しく、性教育関連の言葉は「アダルト系」として認識され、NGになってしまう可能性が高いんです。他の方法としては、まだ漠然としていますが、アフィリエイトで収入を得られないか等は考えています。

 私にとってイラストも性教育も興味があることで、好きだからやっていることではありますが、運営費が自腹になってしまうのは、金銭的にも精神的にも辛くなってしまうと思うので、少なくとも赤字にならないようにはしたいと考えています。

 二つ目は、今後運営していくにあたっての不安です。長期的に続けていきたいと思っていますが、「何年も続けられるかな?」と。ただ、無料イラストサイトなので、作ってしまえばあとは運営していくだけで、最初の数年の大変さが10年、20年も続くとは思ってはいないです。

 また、サイト制作やクラウドファンディングでは、見えない部分で色々な人に助けてもらっています。

 三つ目は、監修についてです。医療系や社会学系の専門的なイラストを扱うので、エビデンスがきちんとしたものを発信したいと思っています。これはTwitterで募集したところ、助産師さんや泌尿器科の先生が声をかけてくださりました。

 運営や監修の面で感じたのですが、性教育に関わる方々は積極的に関わってくださる方が多くて、Twitterで「○○ができなくて困っている」とヘルプを出すと、誰かしら声をかけてくれる人がいて、とても助けられています。

——本業もあるので非常にお忙しいと思いますが、その中でも性教育イラストサイトを制作する熱意の原動力はなんですか?

佐藤:先ほどもお話しましたが、私にとって、イラストも性教育も趣味であり好きなことなんです。好きと好きが掛け合わさっていることなので、続けられると感じています。

 私は専門家ではないので性教育を教えることはできないのですが、自分の得意なイラストやデザインで性教育を支えられたら……という思いでいます。

 ただ、仕事とは違い趣味でやっていることなので、無理しないことや私生活に支障をきたさないことはルールにしています。長く続けていくためにも、自分の描きたい順番・ペースで描くような、仕事とは違う心の棲み分けを大事にしています。

——最後に、なぜ佐藤さんは、「性教育は大切」と思われるのでしょうか。

佐藤:性教育とは、「心と体を大切にするための教育」で、誰でも知っておいてほしいことだと思います。ですが、まだまだ認知度は低いですよね。

 性教育は「こうしなさい」と伝えるものではなく、複数の選択肢を知ったうえで、自分はどうしたいのか、選択できる力を育むものだと思っています。知らなければ一つの道しかありませんが、知ったことによっていくつか選択肢ができます。なので、まずは道は一つではないということを知ってほしいと思っています。

 例えば、生理用品について紙ナプキンしか知らなければ、選択肢は一つだけになりますが、タンポンや月経カップ、吸水ショーツなどさまざまな手段を知ったことで、いくつか選択肢ができ、自分に合ったものを選べます。

 また性教育にはジェンダーの話も含まれます。自分の表現する性は生まれ持った性に限定されず多種多様であり、別に異性を好きにならないといけないわけでもありません。選択肢を知ったうえで、どう表現するかは自分で選ぶ。結果的に最初と同じ選択をしたとしても、知識があるのとないのとでは意味が変わってきます。

 今はまだ本当に表現したいことが言いづらい社会かもしれませんが、安心して表現できる、表現したいことを表現して受け入れてもらえるような社会を作りたいと思っていて、そのために性教育が必要だと考えています。

●「【性教育イラスト】性教育に特化した無料イラスト素材集サイトをつくりたい!」のクラウドファンディングは4月16日まで。詳細はこちら

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