入管施設の被収容者が帰れないのには理由がある。家族と離れるわけにはいかない、国に帰れば迫害される…それぞれの事情

文=織田朝日
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Getty Imagesより

 2021年2月、港区にある東京入管の収容施設内で新型コロナウイルスのクラスターが発生した。最大時には105名中58名が感染するという異常事態となった。

 男性被収容者のいるブロックでのクラスターで、女性被収容者たちの中に感染者はいなかったが、3月3日、横浜入管に移送されることになった。急きょ施設を離れなければいけないような状況にも関わらず、移送される日を前にしてほとんどの女性が仮放免手続きを却下された。通常、手続きの結果が出るのには約2カ月ほどかかるが、2週間で却下された人や、わずか1日で却下された人までいる。

 女性たちは皆、何年も長期収容されていて、それでも母国に戻れない事情のある人ばかりだった。こんな非常時こそ解放されることを期待したが、入管はそれをゆるさなかったのだ。移送には誰もが納得ができなかったが、二人ずつ手錠につながれ、横浜へ連れて行かれた。

 フィリピン人のマリベスさんはもうすぐ収容4年目となる。事情があり仮放免手続きの日に出頭することができず、後日、出頭したその日に収容されてしまった。日本国籍の娘は現在、施設に入れられている。施設に電話すれば娘と話はできるが、収容されてからは一度も会っていない。

 「ママ、いつ会えるの?」と言われるたびに、やるせない思いに駆られながらも、「必ず迎えに行くから」と答えるしかない。施設の職員に「娘を面会に連れてきてほしい」と頼んだが、娘は体に障害を抱えており、コロナの感染を警戒しなければならない現状で連れて来るのは難しいと断られている。

 マリベスさんのお連れ合いは今年に入り亡くなってしまった。このことが彼女に追い打ちをかけ、苦しめている。

「たしかに決められた日に行かなかった。だけど、それだけで4年近くも収容するのは、やりすぎだと思う。自分一人なら帰国できないこともないかもしれない。でも障害のある娘とフィリピンで二人だけで生きていくことはとても難しい」

 マリベスさんは現在、胃の痛みなど体のあちこちの不調を訴えている。しかし、思うように治療をしてもらえることもないため、食欲がなく、ずっと食事をとることができない。頬はやせこけ、顔色も黒くなり見るからに具合が悪そうだ。

 中国人のAさんは収容2年目で情緒不安定になり泣いてばかりいる。彼女は元々ビザがあったが、前の夫との離婚により更新が認められなくなった。

 Aさんには現在、子供が3人いるが、末の子供が赤ちゃんの時にAさんが収容されてしまった。普通の面会はアクリル板越しだが、家族面会の場合は、子供とだけは30分のみ触れ合えるシステムがある。しかし、去年の1月末から感染予防を理由に家族面会は禁止された。それから1年以上も子供と触れ合うことができなくなってしまった。横浜入管に移送されたことで、さらに家が遠くなり子供たちは余計に面会に来るのが難しくなった。

「どうしたらいいの? 子供に会いたい…。旦那(今のお連れ合い)、コロナで仕事ない。お金ない。イライラしている。ちゃんと話がしたい。でも、できない。もう2年になる。子供(日本国籍)のために中国には帰れない。どうしたらいいの?」

 帰国もできず仮放免にもならず、Aさんは八方ふさがりの状態でずっと泣き続けている。

 今年で63歳になったタイ人のヤマザキさんは収容5年以上と女性の中では一番長い。69歳になる日本人の夫は体の調子が悪く、一刻も早くヤマザキさん自身が夫の面倒見なければと焦りをにじませている。地方に家があるため旦那さんは面会に来ることもできず、収容施設から電話をするしかない。

 ヤマザキさんは「いつも旦那さん、ご飯ちゃんと食べたかなーとか考えている」と、長年連れ添った夫のことを気にかけている。そのため、タイに帰る意思は一切ないと彼女は断言する。5年以上もの長い収容に耐え続けている。

 横浜入管は、4月から部屋にある暖房をストップされたため、ヤマザキさんを始め、他の女性たちも朝晩は寒くて困っている。なぜ暖房をつけてもらえないのか、職員に理由は聞いても、答えが返ってくることはない。

 収容されている女性にはさまざまな事情がある。日本国籍の夫や子どもがいるため帰国できない人もいれば、母国に帰れば迫害にあう危険があるため帰れない難民もいる。

 皆、事情があって日本にいるのだ。そうでなければ、いつ解放されるかも分からない長期収容に我慢したりせず、とっくに帰国している。いくら無期限収容で彼女たちを苦しめ、痛めつけても、意味はない。

 4月16日、衆議院で出入国管理法改正案の審議が始まった。この法案は、難民認定申請中は送還が停止される規定の適用が2回目までに制限されるなど、締め付けをさらに厳しくするもの。国連難民高等弁務官事務所が懸念を表明するなど、国際社会からも批判されている。

 今年だけでも東京入管のクラスター、名古屋入管でのスリランカ女性の死亡事故など、入管では立て続けに問題が起きている。被収容者の人権をさらに制限するような方向ではなく、もっと人道的視点から改善するべき点がたくさんあるのではないだろうか。

(織田朝日)

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