Uber Eats、出前館など大手も加盟 デリバリー業界団体「JaFDA」の設立で何が変わる?

文=A4studio
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Getty Imagesより

 新型コロナウイルス感染症が猛威を振るう昨今、急成長を遂げてきたのが「Uber Eats」や「出前館」に代表される宅配代行型のフードデリバリーサービスだ。

 飲食店で提供される料理を手軽に楽しめることから、感染リスクを回避して店の味を楽しみたい、自炊する手間を省きたいという人々からの支持を集め、今やバッグを背負った配達員が街中を走る光景はありふれたものとなった。その一方で、料理がぐちゃぐちゃの状態で届けられてしまう配達品質や、交通ルールなどのトラブル、配達員の労働環境など、問題が絶えず取り沙汰されている。

 そのような状況のなか、Uber Eats Japanや出前館などの大手を含むフードデリバリーサービス13社によって、「JaFDA(一般社団法人日本フードデリバリーサービス協会)」が設立された。

 現状抱えている問題について業界を横断して対処し、誰もが安心・安全にサービスを利用するための環境を整備することを目的に掲げているが、はたしてJaFDA設立でフードデリバリーサービス業界はどのように変化していくのだろうか。マーケットアナリストの藤本誠之氏に話を伺った。

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藤本 誠之(ふじもと・のぶゆき)/マーケットアナリスト
日興證券など数々の証券会社での勤務経験を経て、現在は財産ネット株式会社の企業調査部長を務める。著書は『株は社長で選べ! コロナ継続・収束問わず確実に勝ち続けるたった一つの株式投資術』(かんき出版)など多数。また、『企業トップが語る!威風堂々』(ラジオNIKKEI)などラジオ番組へのレギュラー出演も多い。  YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCKWACtKH6FESboA5ndrKalA

業界内の問題解決だけでなく新規参入への防御壁という目的も持つJaFDA

 藤本氏は今から3、4年ほど前、宅配寿司『銀のさら』や宅配サービス『ファインダイン』を運営する、ライドオンエクスプレスホールディングスの江見朗代表取締役社長と話をする機会があったのだという。

「当時のフードデリバリーサービス業界は、ライドオンエクスプレスホールディングスの後を出前館が追い、Uber Eatsも日本での展開を始めた前後の時期でした。江見社長は海外でフードデリバリーサービスが大きく伸びていて将来性があるとお話されていて、本業である専門型の宅配事業とは別に宅配代行事業の展開に力を入れていたのです。

 その後は江見社長の読み通り、Uber Eatsや出前館といったデリバリーを専門に行うサービスの運営会社が赤字を出しながらも事業投資を続け、現在の地位を築き上げました」(藤本氏)

 フードデリバリーサービスの配達員の働き方には、企業と雇用契約を結ぶアルバイトと、企業と業務委託契約を結ぶ個人事業主の2種類が存在する。

 出前館ではアルバイトを雇いつつ業務委託も行い、Uber Eatsは業務委託のみと、フードデリバリーサービスの配達員には個人事業主が多いのだが、それこそが今の業界が抱える問題点につながっているようだ。

「アルバイトと違って個人事業主の場合だと、配達のためにしっかりとした教育を施すことができず、配達員や配達自体の品質はバラバラになってしまいます。そのため、交通違反や盗み食いなどの配達員が原因のトラブルが起こりやすいわけですね。

 また、注文した商品の量や内容で男性なのか女性なのか、家族と暮らしているのか一人暮らしなのかが推測できるという、注文者の安全に関する懸念点もあります。今のままでは配達中に得た情報を悪用した犯罪が起こりかねないと思います」(藤本氏)

 そういった問題点・懸念点の解決のためにも業界団体としてJaFDAが設立されたわけだが、設立の目的はそれだけではないと藤本氏は続ける。

「交通ルールや安全性の問題を解決ないし未然に防ぐというだけでなく、政府などとの折衝を行いやすくすること、簡単に新規参入できないようにすることも、業界団体設立の意図だと考えられます。

 政府や関連団体と折衝する際、各社がそれぞれで対応するのは大きな負担となります。業界団体としてまとまって折衝の窓口を一本化することは、結果的に各社にかかる余計な手間を省くことにつながるわけです。

 また、新規の企業が次から次へと参入し、業界全体が今よりも荒れてしまうと、既存の企業まで共倒れになってしまう恐れがあります。ですから、業界団体に加盟しなければ働きづらいような雰囲気をつくる、交通研修を義務化するなど業界団体としての規則を設けることで参入障壁を高くし、既存の企業を守るという意味合いもあるのではないでしょうか」(藤本氏)

Uber Eats売却、高級路線の台頭……業界内で起こり得る今後の変化の可能性

 JaFDA設立は新規参入のハードルが上がるだけでなく、業界の力関係にも変化を及ぼしてくという。

「小さい会社が生き残るにはほかにない特徴を作らなければいけなくなるので、今後は徐々に業界の寡占化が進んでいくでしょうね。そのなかでUber Eatsが日本事業を売却し、運営元がUber Eats Japanから日本の企業へと変わる可能性が考えられます。

 日本人の場合、ほかの国々よりも配達に求める品質の基準が厳しいものになっています。Uber Eatsは配達員のトラブルで槍玉に挙げられやすいというだけでなく、これまで進出してきた他国との違いで少し苦戦しているところもあったと思われます。

 日本で安定してサービスを維持していくことを考えると、買い手が出前館など既存の同業他社になるのか、インターネット注文などに強い企業になるのかはわかりませんが、日本事業を売り払う選択肢は充分にあり得ますね」(藤本氏)

 また、これまでのフードデリバリーサービスとは一線を画したサービスが登場、もしくは顕在化していくと藤本氏は続ける。

「必ずしも全国規模で事業を展開する必要はないので、スーパーやコンビニエンスストアのように、特定の地域に特化したフードデリバリーサービス会社が登場するかもしれません。ただ、配達地域を絞った分大きな利益は出しづらいので、業界内で存在感があるような会社にはならないと思いますが。

 また、『ファインダイン』のように業務委託を行わず、配達品質にこだわったサービスが高級路線として定着していくことも考えられます。これからはお手頃価格な料理を安く運んでほしい人、やや高めな料理を多少値が張ってでも高品質なサービスで運んでほしい人とで、利用者層が二極化されていくのではないでしょうか」(藤本氏)

 バラバラだった業界各社を結びつけるJaFDAの設立によって、日本国内におけるフードデリバリーサービスの黎明期は終わりに向かいつつあると言っても過言ではない。はたしてフードデリバリーサービスが本当に日本の社会インフラとなることができるのか、今後の動向が注目される。

(文=佐久間翔大/A4studio)

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