コロナ禍のいま「当たり前」に行われている私権制限 −帰国隔離、かく語りき−

文=柳原伸洋

政治・社会 2021.05.03 11:00

GettyImagesより

当初は「おわりに」にするはずだった「はじめに」

 本稿は、世界的に新型コロナウイルス感染症が蔓延し、「変異株」という言葉が氾濫した2021年3月末、筆者が体験した「帰国隔離」についてのレポートである。しかし本題に入る前にまず記しておきたいことがある。

 ネット記事の反応で多いのが、記事をあきらかに読まずに非難めいたコメントだけを残す行為である。おそらく本記事にも「意味不明」、「わがまま」、「ガマンしろ」などのコメントが付くだろう。コロナ・ストレスもあるだろうし、サンドバックも悪くない。ある程度は甘受したいが、最初にお伝えしたいことがある。今回の帰国隔離によってストレスに襲われたこと、そして可能であれば連帯を示してほしいと願っていること、さらに私もあなたが何らかの困難な状況に置かれたときには連帯したいと思っていることである。

 同時に、同情や反感などの次元を超えて、本記事では帰国に際するホテル隔離という私的体験をつうじて「制度・人権・私権」について考えること、これを目的としたい。

 実は、筆者が研究している「空襲・空爆」には、戦災を「受忍すべきもの」として認識する向きが日本にはある。隔離もそうだが、日本のいたるところで「受忍すべし」という風潮が蔓延している。この「蔓延防止」が本記事執筆の動機のひとつである。

 そして注意事項。以下の記事は、2021年3月末から4月初旬の状況を私的観察の範囲内で記したものである。政府基準には変更が加えられ、隔離ホテルの環境もネット上の苦言などによって徐々に改善されている部分がある(改悪された面も)。また、到着した空港や隔離先ホテルによっても待遇差があり、この差自体も大問題なのだが、ここでは深くは立ち入らない。

2021年3月、「4度目」の帰国

 2020年3月から2021年4月のあいだに、私はドイツと日本とを往復して「日本帰国」を4回、体験した。コロナ時代最初の帰国を体験した2020年3月後半には「「要請」なのに罰則? ドイツから帰国した研究者が日本の「水際対策」に感じた違和感」という記事に短いコメントを出した。

 このとき、色々なことが「要請」され、私費でホテル14泊を過ごした。当時は、自分自身のことのみならず、帰国者全体、とくに帰国した日本人学生を「感染源」として目の敵にする雰囲気に憤りを感じていた。正確には、目の敵にされた状況に対し、多くは沈黙する報道や政治についてである。事実、何人かの帰国学生から留学中止後の自費帰国・自費隔離の相談や家族を含めた周りの目についての悩みを聞き、彼ら・彼女らがとてつもないストレス下に置かれていることを知った。

 その後、筆者はドイツのコロナ状況・対策を伝える日独協会のオンラインイベントに出演してコロナ状況下の日独両国を注視してきた。しかし本記事ではドイツとの比較は行わない。理由は、感染症は「分からないこと」が多く、単純に日独を比較し優劣を述べることに意味はないからだ。ここでは、私的な帰国体験を通じて、抱きつづけてきた違和感をもう一歩だけ思考へと進めて、後世の検証用の材料を残しておきたい。

 この1年間で帰国者へのコロナ対応も様々に変化してきた。とくに今次は、新型コロナウイルス変異株流行国・地域にドイツ連邦共和国も入っている(3月17日より。2021年4月28日時点においても)。同地からの帰国者は、事前の質問票(オンライン)への回答、入国前72時間以内の検査証明書の提出、指定アプリのインストール、空港到着時のPCR検査、その後、「検疫所の確保する宿泊施設等」への3日間の完全隔離を経て、さらに宿泊施設を退所する日に三度目のPCR検査を受ける。その後、この3日間を含む14日間は自宅等での待機が要請されている。

 これら複数の手続きの多くは「要請」あるいは「強く要請」などだが、実際には「誓約書」の提出が求められていて、これに関して以下のような文言がある。

●検疫所へ「誓約書」の提出が必要です。14日間の公共交通機関の不使用、自宅等での待機、位置情報の保存・提示、接触確認アプリの導入等について誓約いただくことになります。「誓約書」が提出できない場合、検疫所が確保する宿泊施設等で待機していただきます。誓約に違反した場合は、検疫法に基づく停留措置の対象となり得るほか、(1)日本人については、氏名や、感染拡大防止に資する情報が公開され得ること、(2)在留資格保持者については、氏名、国籍や感染拡大防止に資する情報が公開され得ること、また、在留資格取消手続及び退去強制手続等の対象となり得ることがあります。(下線部は原文ママ) 
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00249.html(最終アクセス:2021年4月18日)

 これはつまり、政府は要請しか出さないがこの誓約を通じて違反ペナルティが科されるということだ。

 ここにはいくつかの問題がある。ひとつは「在留資格保持者(他国籍者)」に特に威圧的だという点。さらに、実際の運用上の問題もある。書面には「『誓約書』が提出できない場合、検疫所が確保する宿泊施設等で待機」とある。私は一人暮らしで、レンタカーで帰ろうにも自動車免許も持たず、スマートフォンも持ち歩かないので「14日間の宿泊施設待機」もやむをえずと覚悟していた。この旨、空港の厚生労働省職員に告げると、担当者からは「14日間待機は前提としていない」とちょっと困った感じの回答が返ってきた。しかし、おそらくは14日間のホテル待機を否定しうる厳密な根拠はなかったのだと思う。なぜなら、実際に「14日間のホテル待機者」の存在を、後日の聞き取りで知ったからだ。ここにも、以下に述べることと共通する「根拠の不明さ」や「共通見解の不在」などが見えてくる。

 帰国の経過について述べておこう。2021年3月後半の羽田空港での事例だということが前提だが、飛行機到着から各種手続きを行い、PCR検査をしてその結果を待ち、隔離先の宿泊ホテル行きのバスに乗り、ホテルに到着という流れだ。このプロセスには6時間を要し、ホテル入所時には日付をまたいでいた。

 これらは「必要なこと」なので、6時間も止むなしと捉える向きもあろう。実は私自身も待ち時間には拘泥していない。ただし、子連れの方々もいて、実際に母一人と子二人の帰国者を見かけた。母子ともに疲労困憊の様子であり、羽田空港での応対職員にはどうか子連れの方々を優先してほしいと伝えておいた。現状、どのような扱いになっているかは不明だ。

 到着空港の業務については、混乱などが数々見られた。しかし、ここで記録し伝えておきたいことは、帰国者対応業務が「アルバイト・派遣」に担われている点である。若者やアジア圏出身者(推定)に任されていた。後に派遣会社名も聞き出し、これが外国語能力を必須としながらも、それにしては低賃金の業務だと分かった。彼らが2021年3月末時点でワクチンを接種したとは思えず、またPCR検査をどの程度で行っているかも不明だった。私の確認したアルバイト募集広告には「スーツ着用」とはあるが検査のことは書かれていなかった。

 また、政府指定のアプリは「タブレット型端末(iPadPro等)」にはインストールできなかった。私はスマートフォンを日本の自宅に置いてきたことから、15,000円でスマートフォン(のようなもの)を借りることとなった。対応した若い方はおそらく中国語圏出身者で、最初、私は「日本出国時点でアプリ・インストールのルールがなかった点」や「タブレットにインストールできないと明記されていない点」を理由に抗議したが、寝不足と疲労、さらに「この対応者」が時給労働者である点など、なんだかいたたまれなくなりレンタルした。このような「下請け」状態は帰国者対応のあらゆる場面で見られた。

 実は、このレンタル・スマートフォンだが、待機期間終了後に返却期限を5日過ぎてしまった。私の瑕疵は認める。すると11,500円の追加請求メールが届いたが、「スマートフォン借用の選択権がなかった点」、そして「貸し出し時に延長料金の口頭説明を受けていない点」を企業側に書き送った。結果、延長料金は取られないこととなった。

空港で有料貸し出しされる「スマートフォン」。電話や特定アプリ以外の機能は使えない。(筆者より提供)

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柳原伸洋

2021.5.3 11:00

京都府相楽郡(現木津川市)出身。在ドイツ日本大使館専門調査員(政務)、東海大学講師を経て、現在は東京女子大学歴史文化専攻准教授。専門はドイツ近現代史(空襲の歴史と記憶、記念碑、東西ドイツの製品史など)。ペンネーム・伸井太一としてドイツ製品文化ライターとしても活動。

twitter:@nob_de

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