唐突にウイグル問題を持ち出す「ウイグル話法」。この詭弁の目的と弱点を解き明かす

文=山崎雅弘
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Getty Imagesより

●山崎雅弘の「詭弁ハンター」(第6回)

 ネットのSNSなどで、数年前から「ウイグル話法」という言葉を、しばしば見かけるようになりました。

 話法と言っても、特に立派な構造があるわけではなく、何かの意見を表明した人間にいきなり絡んで「ではウイグルはどうなんだ」「何々を批判するなら、なぜ中国がウイグルでしていることを批判しないのだ」と言いがかりをつける、嫌がらせに近い行為です。

 私も、この「ウイグル話法」の使い手に、何度か遭遇したことがあります。例えば、2021年2月20日にツイッターで、米国のバイデン大統領が第二次大戦中の米国内での日系人迫害について「米国の歴史の最も恥ずべき時代の一つ」と述べたことを報じる時事通信の記事を紹介したところ、匿名アカウントから次のような反応が寄せられました。

「そんなことよりも、大事なのはウイグルでしょ!」

 指摘するまでもなく、この匿名アカウントは私が書いている内容を皆目理解せず、ただ嫌がらせのように、不毛なリプライ(返信)を私に送りつけています。

 第二次大戦中の米国内での日系人迫害を、現職の米大統領が反省的に振り返る行為は、それ自体が大きな歴史的・政治的意味を持つものですが、中華人民共和国の新疆ウイグル自治区で起きている人権侵害や拷問、虐殺などの非人道的行為とは特に関係がない話です。

 しかし、なぜか日本人の一部には、他人を黙らせる目的で、ウイグル問題について語っているわけでもない相手に対して、いきなり「ウイグル問題」を持ち出す人がいます。その多くは、自分の正体を隠した匿名覆面の人ですが、中には実名でこれを行う人もおり、驚くべきことに現職の国会議員にも、この「話法」の使い手が存在しています。

川淵三郎氏の擁護で唐突に「ウイグル」に言及した音喜多議員

 2021年2月11日、日本維新の会に所属する音喜多駿参議院議員は、次のような内容をツイッターに投稿しました。

「早速、左派の方々を中心に、過去の発言を掘り起こして川淵氏の会長就任に反対するハッシュタグ祭りが始まっている…。大事なのは現在と未来だし、人権を強調されるのであれば、ウイグル等でジェノサイドを現在進行系【ママ】で行う中国・北京の冬季五輪開催に何か言うことはないのかとさすがに申し上げたい」

 この投稿がなされたのは、森喜朗氏が女性蔑視発言により東京五輪組織委会長を辞任し、後継者として川淵三郎氏の名が取り沙汰されていた頃でした。

 そして、川淵氏が「月刊Hanadaが愛読書」と公言していたこと(同誌の2019年3月号の特集は「韓国に止めを!」、同年10月号の特集は「韓国という病」)、フランスのルモンド紙が川淵氏について「極右に近い立場を取ることで知られている」と解説したこと(毎日新聞、2021年2月11日)などから、川淵氏は東京五輪組織委会長という公平・公正な国際感覚が求められる役職にはふさわしくないのではないか、という批判の声が上がっていました。

 こうした背景を踏まえて、音喜多議員のツイートを見れば、彼が唐突に「ウイグル」に言及しているのは、単なる論点逸らしでしかないことがわかります。川淵氏が東京五輪組織委会長に相応しいか否かという問題に、ウイグル問題は全く関係ないからです。

 この音喜多議員のように、「人権問題をどうこう言う者がウイグルの人権問題に言及しないのはダブルスタンダード(二重基準)だ」という、一見もっともらしい言葉で他人を威圧する「ウイグル話法」の使い手は、ネット上に散見されますが、実際には単純な詭弁でしかありません。

 なぜなら、日本人が日本国内の人権侵害問題を語る時、海外の事例に言及しなくてはならない義務など、どこにもないからです。何かを問題として論じる際、論点が拡散すればするほど、本質がぼやけて、メッセージとしての訴求力は薄れます。それゆえ、問題の核心と共通する部分があるなら、海外の同種の事例に言及する場合もありますが、多くの場合は論点を絞り込んで、本当に伝えたいメッセージに受け手の関心を集中させます。

 そもそも、ある人がウイグル問題に言及しないことは、ウイグルで中国政府が行っている非人道的行為をその人が是認していることを意味しません。「ウイグル話法」の使い手は、標的とする人間がそれを是認しているかのように勝手に話を歪めて威圧しますが、日本国内の身近で起きている人権侵害を批判する際に、いちいち無関係な外国(ウイグル)の話を持ち出す方がおかしいと、冷静に考えれば誰でも気づくはずです。

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