唐突にウイグル問題を持ち出す「ウイグル話法」。この詭弁の目的と弱点を解き明かす

文=山崎雅弘

政治・社会 2021.05.05 08:00

 論の構造面から読み解くと、「ウイグル話法」は「ホワットアバウティズム(Whataboutism)」と呼ばれる詭弁術の変形であると言えます。

 「ホワットアバウティズム」は、何かを問題として論じている相手を、一見類似性があるように見える別の問題を引き合いに出して「では何々はどうなのだ(What about 〜)」と威圧し、混乱させ、相手の話の腰を折って黙らせようとする詭弁術です。

 これを使われた側は、一見もっともらしい類似性に惑わされて、自分の主張が正しいかどうか自信が持てなくなったり、何を言いたいのかわからなくなったりすることがあります。「ホワットアバウティズム」の目的は、話の腰を折って相手を黙らせることなので、標的となった人が口を閉じてしまえば、その詭弁ゲームは「勝ち」になります。

 「ウイグル話法」もこれと同じで、その目的は、話の腰を折って相手を黙らせることにあります。この種の詭弁術を、私は「黙らせ恫喝」と呼んでいますが、建設的な話をするのが目的ではないので、威圧に惑わされて口を閉じる必要はまったくありません。

 先に紹介した音喜多議員のツイートにある「左派の方々を中心に」という言葉が示すように、「ウイグル話法」はほとんどの場合、話者が「左派・左翼」と見なした相手を標的にする場合にのみ使用されます。「右派」の話者がウイグルと無関係な話をしている時に「ではウイグルはどうなのだ」と威圧する話法を使う人を見たことがありません。

 また、中国の支配下にある香港警察が、香港の市民を無慈悲に弾圧する光景を見て、香港警察を批判する日本人に対して「ではウイグルはどうなんだ」と威圧する話者も見当たりません。

 「ウイグル話法」の使い手は、ほぼ全員が、中国共産党政府を敵視する思想を共有している様子ですが、ウイグルも香港も、共に「中国共産党政府の被害者」という図式なので、詭弁を使って批判者を黙らせる必要性を、話者は感じないのかもしれません。

 音喜多議員は、上のツイートを投稿した翌日の2月12日に「『いかなる人権問題にも可能な限り等しく声をあげるべき』と表現を訂正いたします」と投稿していましたが、この文言も「ウイグル話法」と同様、特定の人権問題を語る者は他の人権問題全てにも等しく言及しなくてはならないかのような、実は根拠のない錯覚を社会に広める謬論です。

 問題Aについて批判的に論じている際、Aと直接関係ないのであれば、ある一面において共通点があろうとも、問題Bや問題Cに言及する必要はありませんし、BやCに言及しなかったからといって「アンフェア」や「ダブルスタンダード」と難癖をつけられるいわれもありません。

 もし誰かから「ウイグル話法」で絡まれたら、毅然とした態度で「今はウイグルの話をしていません」と切り返すことをお勧めします。この詭弁は、話の腰を折って相手を黙らせることが目的だと理解し、過剰に恐れたり怯んだりしないようにしましょう。

(山崎雅弘)

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山崎雅弘

2021.5.5 08:00

1967年、大阪府生まれ。戦史・紛争史研究家。主な著書に『歴史戦と思想戦』『日本会議 戦前回帰への情念』『「天皇機関説」事件』(以上、集英社新書)、『1937年の日本人』『[増補版]戦前回帰』(朝日新聞出版)、『沈黙の子どもたち──軍はなぜ市民を大量虐殺したか』(晶文社)などがある。

twitter:@mas__yamazaki

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