労働に関する法律知識を学んでおくべき理由…知っているか否かは、時に「命」を左右する

文=明石順平
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Getty Imagesより

●「仕事」に殺されないために知っておくべきこと(第1回)

 厚生労働省が今年の4月8日に公表した集計結果によると、新型コロナウイルス感染症による解雇・雇止め(見込み含む)の人数が、累計で10万人を超えたとのことです。

 このような解雇・雇止め問題をはじめ、コロナをきっかけに様々な労働問題が発生しています。ただ、コロナ以前からも、この国の労働状況は極めて劣悪であり、労災認定されているだけでも、この国の過労死件数は200を超えます。これは氷山の一角であり、認定されない過労死も含めれば、凄まじい数の過労死が発生しています。「仕事に殺される可能性がある」という極めて異常な国が日本です。

 これは、労働基準法をはじめとする労働関連の法令が無視されたり、あるいは規制を骨抜きにする法改正が繰り返され、低賃金・長時間労働が促進されてきたことに原因があります。

 労働関係の法的知識は、知っているかどうかで、時に命にかかわることがあります。典型的な例を挙げると、退職です。例えば、期間を定めずに雇用されている方が退職する場合、2週間前の予告期間をおけば、いつでも退職することができる、というのが民法の基本的ルールです(民法627条1項)。有期契約の場合、途中で退職できないのが原則ですが、「やむを得ない事由」がある場合、退職できます(民法628条)。会社が残業代を払わずに長時間労働をさせている場合等はやむを得ない事由があると言って良いでしょう。

 このように、「退職できない」というケースは法律的には存在しない、と言って良いです。しかし、会社から「辞めたら損害賠償請求するぞ」などと脅され、退職できないまま、ずるずると長時間労働を強いられ、結局、過労死・過労うつに至る、というケースもあるのです。なお、退職した後に会社から損害賠償請求されて、それが認容されることはほぼ無いでしょう。労働者が辞めて何か会社に損害が出るのであれば、そのような脆弱な経営体制を敷いた経営者に責任があり、労働者には何ら落ち度はないからです。

 なお、私は、弁護士登録をして1年ほど弁護士として勤務した後、とある会社の法務室で勤務していたことがあります。そしてその会社を辞める際、私は「退職届」を出しました。似たようなものとして「退職願」がありますが、退職願は、法的に厳密に言うと、退職について会社側の合意を求めるものであるため、会社が「嫌だ」と言って合意をしてくれなければ退職できなくなってしまいます。他方、「退職届」は、一方的に退職の意思表示をするものであり、会社側の同意は必要ありません。だから、私は「退職届」を出しました。

 「退職届だと失礼である」という謎マナーを主張する人もいるかもしれませんが、無視してください。余計な気を遣うと、そこに会社側がつけ込んできて、退職妨害をされるからです。辞める際は気持ちを強くもって「退職届」を出しましょう。「●月●日をもって退職します」と書けばOKです。なお、紙ではなくてメールでも大丈夫です。紙で出す場合はコピーを取ってください。後に争いになった場合に、証拠として出せる形で残しておくことが必要です。

 このように、知っているか、知らないかで大きく運命が変わるといっても言い過ぎではないのが、労働に関する法的知識です。そして、コロナ禍により、新たな労働問題がたくさん発生しています。この連載では、労働問題に関する紛争に巻き込まれた時に役立つ知識を書いていきたいと思います。また、単に法的知識を書くだけではなく、統計を交えて、経済的な観点からも労働問題を分析していきたいと考えています。

 なお、私が労働問題についてまとめた書籍として、『人間使い捨て国家』(KADOKAWA)が発行されています。興味のある方は読んでみてください。

(明石順平)

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