微アルコール『アサヒ ビアリー』が売れている背景 飲酒にも多様性の時代が到来

文=A4studio
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『アサヒ ビアリー』公式サイトより

 3月30日、アサヒビールの新商品『アサヒ ビアリー』が首都圏・関信越エリアの1都9県で発売された。これはアルコール度数が0.5%のビールテイスト飲料で、アサヒビールはこの商品をアルコール度数1%未満の飲料を指す新たなカテゴリー“微アルコール”として展開することを発表している。

『アサヒ ビアリー』の特徴は、醸造したビールから低温蒸留技術でアルコール分だけを取り除くという独自の製法によって、度数を抑えつつもビールらしい風味とコクが楽しめること。既に商品を購入した消費者からも、その味わいを評価する声は多い。

 実は低アルコール・ノンアルコール飲料の注目度は近年高まっていると言われており、サントリーが2020年10月6日に発表した「ノンアルコール飲料レポート2020」によれば、ノンアルコール飲料市場は拡大傾向にあるとされている。

 低アルコール・ノンアルコール飲料が注目される理由はどこにあるのか。そして、今後も市場は拡大していくのだろうか。ニッセイ基礎研究所の生活研究部・主任研究員で、消費者行動について研究されている久我尚子氏に話を伺った。

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久我 尚子(くが・なおこ)/ニッセイ基礎研究所 生活研究部 主任研究員
2001年に早稲田大学大学院理工学研究科修了。NTTドコモなどを経て、2010年にニッセイ基礎研究所に入社、2016年7月より現職。専門分野は消費者行動、心理統計、保険・金融マーケティング。著書に『若者は本当にお金がないのか?~統計データが語る意外な真実~』(光文社)があるほか、テレビ番組などにも多数出演。

・ニッセイ基礎研究所プロフィール

ノンアルコール飲料市場拡大のキーワードは“多様化”

 そもそも低アルコール飲料やノンアルコール飲料は、どのようにして今日まで発展してきたのだろうか。

「低アルコール飲料については明確な定義が存在しないので、いつ頃からそういった言葉が使われるような飲料が登場したのか定かではありませんが、ノンアルコール飲料については2000年代初頭ぐらいから見られています。当時は飲酒運転による痛ましい事故が相次ぎ、道路交通法の改正によって飲酒運転の厳罰化が進んでいました。

 そういった社会的背景もあってノンアルコール飲料が登場したのですが、日本ではアルコール度数が1%未満であればノンアルコールの表記が可能で、当初は微量のアルコールを含む商品も多かったです。

 そういった市場の状況のなか、2009年にキリンビールが『キリン フリー』という画期的な商品を発売しました。アルコール度数が0.00%と初めて明記され、味と香りにおいても消費者から高い評価を受けた『キリン フリー』の登場は、ノンアルコール飲料の市場規模拡大の大きな要因となったのです」(久我氏)

 久我氏によれば、ノンアルコール飲料市場の拡大は商品の種類、そして消費者の多様化が関係しているのだという。

「『キリン フリー』が画期的だったということと、サントリーなどがカクテルなどビールテイスト飲料以外のノンアルコール飲料を発売し、商品バリエーションを増やしていったことが、市場拡大の直接的な理由でしょう。

 また、アルコール市場全体としては年々消費者のアルコールに対する趣味・趣向の多様化が進んでいます。国税庁が発表している『酒のしおり』の酒類販売(消費)数量の推移を見ると、90年代半ばはビールが販売数量の7割を占めていたのに対して、現在は3割弱程度になっています。

 その一環として、一時期はアルコール度数の高いストロング系の商品が流行していたように、アルコール度数もお酒の種類と同様に多様化してきているのではないでしょうか」(久我氏)

度数の高さや量を求めない消費者に向けた“微アルコール”

 アルコール市場が多様化するなかで、消費者のなかにもある傾向が表れてきたと久我氏は続ける。

「社会が変化していくに伴って、自分の好きなお酒を好きな量だけ楽しむという価値観が生まれたことも、アルコール市場の多様化の背景にあると思われます。

 厚生労働省の『国民健康・栄養調査報告』にある飲酒の頻度を見ると、自身の健康や精神面、時間の使い方をより充実したものにするため、お酒を飲めるのにあえて飲まない選択をする“ソーバーキュリアス”の人が増加傾向にあります。

 同時に、度数の高い飲料を飲みたいわけでもたくさん飲みたいわけでもなく、好きなときに少しだけ飲酒してお酒気分を楽しみたいという“薄く飲む層”が、若い方や女性を中心に増えているというデータも出ています。『アサヒ ビアリー』はそういった層の需要を見込んで投入したのでしょう」(久我氏)

 アサヒビールは昨年末から“スマートドリンキング(飲み方の多様性)”を提唱し始め、『アサヒ ビアリー』もその流れのなかで登場した。まさしく“薄く飲む層”をターゲティングした商品というわけだ。

 6月29日から全国販売が予定されている『アサヒ ビアリー』だが、今後“微アルコール”に類するような商品は増えていくのだろうか。

「『国民健康・栄養調査報告』のデータでは1日当たりの飲酒量が減少しているので、低アルコールのお酒のほうが好まれやすくなっている状況が伺えます。

 今は消費者の趣味・趣向が多様化してきているので、ひとつの商品が爆発的に売れるということは考えづらいですが、薄く飲む人たちがアルコール気分を味わう飲料として、低アルコール飲料は支持を集めていくのではないでしょうか」(久我氏)

 ノンアルコール飲料の発展や“微アルコール”というカテゴリーが誕生した背景にある消費者の変化を思うと、今後は各酒類メーカーがこれまで以上に多種多様な商品を展開していくことが求められる時代だと言えるだろう。

(文=佐久間翔大/A4studio)

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