コロナ禍の飲食店は想像以上に厳しい状況 感染リスク低でも“おひとり様”キャンペーンが実施されないワケ

文=A4studio
【この記事のキーワード】
コロナ禍の飲食店は想像以上に厳しい状況 感染リスク低でもおひとり様キャンペーンが実施されないワケの画像1

GettyImagesより

 いまだに収まる気配がない新型コロナウイルス感染症の流行。2回目の緊急事態宣言が解除されたのも束の間、「まん延防止等重点措置」が4月5日から大阪府、兵庫県、宮城県に、12日から東京都、京都府、沖縄県に適用された。知事によって措置区域に指定された地域の飲食店は営業時間を午後8時までに短縮するよう要請されており、これに応じない場合は20万円以下の過料が科せられる。しかしそれでも感染拡大は止まらず、25日からは東京、大阪、京都、兵庫を対象に3回目の緊急事態宣言が出された。飲食業界にとっての長い冬はまだ続きそうだ。

 一方で、にわかに注目されたのが、ひとりで飲食店を訪れて食事を楽しむ“おひとり様”層の存在だ。お笑いコンビ・ダウンタウンの松本人志氏が昨年11月、自身が出演する情報バラエティ番組で“おひとり様優遇”について提案してネット上での支持を獲得。さらに、感染症内科学を研究する関西医科大付属病院の宮下修行教授も、今年1月にひとりでのランチは問題がないと発言した。

 確かに、ひとりでの食事はマスクを外しての会話が激減するため、複数人での食事よりも飛沫感染のリスクは低下するだろう。飲食店で“おひとり様”に合わせたキャンペーンを実施すれば、感染拡大防止と飲食業界の救済を両立できるように思えるが、現状政府からそのような支援がなされる気配はない。

 “おひとり様優遇”のキャンペーンが実施されない背景には、一体何が障壁となっているのだろうか。消費者問題研究所の代表で、食品問題評論家として活躍している垣田達哉氏に話を伺った。

コロナ禍の飲食店は想像以上に厳しい状況 感染リスク低でもおひとり様キャンペーンが実施されないワケの画像2

垣田 達哉(カキタ・たつや)/消費者問題研究所代表
1977年に慶應義塾大学商学部を卒業。1997年から消費者問題研究所の代表を務める。食品問題評論家、食品表示アドバイザーとしても活動しており、食の安全や食育、食品表示問題の第一人者として評論や講演を行う。著書に『面白いほどよくわかる「食品表示」』(商業界)などがある。

飲食業界は“身動きが取れない”状況?

 政府が昨年10月からスタートさせた「Go To Eat」キャンペーンは、オンライン予約によるポイント付与や登録の飲食店で使用可能なプレミアム付食事券の発行によって、外食需要を喚起するという内容だった。

 しかし、11月27日から東京都で食事券の販売などが一時停止。やがてほかの地域にも拡大していき、12月28日 には全国で一斉停止され、いまだに再開の見込みは立っていない。「Go To Eat」の再開が難しい理由はどこにあるのだろうか。

「一番大きな理由は、昨年末の第3波の原因が『Go Toキャンペーン』にあるのではないかと言われていることでしょうね。政府はエビデンスがないと言っていますが、新型コロナウイルス感染症対策分科会などの専門家はこれらの支援策が原因と指摘していますし、国民のなかでもそう考える人は多いでしょう。

 また、これまでも飲食店の時短が解除されたタイミングで感染拡大が顕著になっています。今の第4波がその典型的な事例で、変異株の影響は大きいですが、緊急事態宣言の解除によって感染が拡大したと見て差し支えないでしょう。

 こうした状況下ではいくら強気の菅政権とはいえ、『Go To Eat』の再開は難しいはずです。しかも、今年は総選挙の年に当たるので、『Go Toキャンペーン』の再開で感染が拡大すれば、自民党にとって致命傷になります。少なくとも、高齢者のワクチン接種が終わらない限り再開は無理でしょうね」(垣田氏)

 では、政府からの援助を受けずに独自でキャンペーンを実施している飲食店はあるのだろうか。

「私が知る限りは存在しないですね。そもそも、店側の負担で割引キャンペーンをしても、多少の宣伝効果があるだけで、売上や利益の増加に効果があるとは考えられません。

『Go Toキャンペーン』は国や自治体が割引分を負担するので、飲食店や宿泊施設にとっては一切の負担がなく利用客が増えることが最大の利点でした。これと同じことを店側が身銭を切って実施して利用客が増えたところで、売上・利益ともに大幅な減少となって大赤字になるだけです。

ひとり客を対象にするとなると団体客に比べて売上額も利益額も半減ないし1/4程度になるので、店側にとってのメリットは、より薄いです」(垣田氏)

 なるほど、政府からの支援がない限り、飲食店もほとんど身動きが取れないということなのだろう。しかし、一部の宿泊施設では自主的に値下げを行い、ひとり客を優遇するプランもあるようだが、なぜ宿泊施設では“おひとり様優遇”が実現できるのだろうか。

「宿泊施設の場合は飲食店と違い、宿泊代、飲食代、土産代を合計するとひとり当たりの消費金額がそれなりの数字になるため、利益を出すことができます。ですから、ビジネスホテルのような宿泊のみが目的の施設でなければ、自主的に値下げをしてもメリットがあるのです」(垣田氏)

正しく報道されていない“飲食店の現状”

 つまるところ、現状はほとんどの飲食店が自らキャンペーンを実施できるほどの体力が残っていないということだろう。

「ひとり席を拡大している飲食店もありますが、目的はひとり客の呼び込みというよりも、コロナ禍において特別な対応をしているとアピールすることにあります。

 メディアで取り上げられるのは何とか持ち堪えているような店や経営者ばかりで、生活が立ち行かず休業・倒産した店や経営者についてはほとんど触れられることはありません。ひとり席の拡大は特に複数客をターゲットにした店舗が背に腹は代えられずに実施しているケースが多いので、現在の飲食店の厳しい状況を表していると言えます」(垣田氏)

 第4波の到来で非常に厳しい状況だが、今後現在の状況が覆されて何らかのキャンペーンが実施される可能性はあるのだろうか。

「大手が来客促進のために、利益を削ってキャンペーンに打って出る可能性はありますね。しかし、どこまでの宣伝効果が見込めるかは不明瞭ですし、現在のような感染爆発の危機にある状況で外食を推奨するようなことは賛否が分かれるので、実施するには勇気がいるでしょう。

ひとり客を対象にするキャンペーンの場合だと、行列ができる程度の人気がなければ売上に期待できないですし、かといって行列ができると密になって逆効果になりかねないので、身銭を切って実施する店は出ないと思われます」(垣田氏)

 私たちが想像している以上に、飲食業界は厳しい状況にあるようだ。

(文・取材=福永全体/A4studio)

「コロナ禍の飲食店は想像以上に厳しい状況 感染リスク低でも“おひとり様”キャンペーンが実施されないワケ」のページです。などの最新ニュースは現代を思案するWezzy(ウェジー)で。