先日、熱を出した。朝起きたら38度。熱のほかに症状はない。普段は一人暮らし、通勤もなく人に会わないが、その前の週に限って数名の友人と会っていた。
かかりつけ医に電話をして、診察の予約を取った。診察してもらったが、「PCR検査は希望されるなら手配します」という。
そのクリニックでは検査できず、区が指定している検査場を医師の紹介で予約する必要があるらしい。
「1日だけ熱が出る人もいる」というので、その日は自宅に戻り、様子を見ることにした。
翌朝は37度と熱が引いたが、午後になるとまた38度まで上がった。熱が上がったり下がったりするのはコロナの症状のひとつではなかったか。
焦ってネットであれこれ検索した。コロナに関しては1年前の情報は古くて使えないため、ヒットした情報はまず公開日からチェックする必要がある。
厚労省などのサイトには「発熱等の症状」とあるが、発熱以外、咳も倦怠感もない場合はどのくらいコロナの疑いが強いのかわからない。
クリニックではPL顆粒という風邪の薬を処方されたが、「風邪薬は飲んではいけない」と記載しているサイトもあった(これは現在否定されているらしい)。
結局発熱から2日目にPCR検査を受け、その翌日に陰性の連絡が来た。
しかしPCR検査の精度は100%ではなく、感染している人でも30%くらいの割合で陰性が出ると聞く。検査をしたところで疑いが晴れるわけではなく、今度はいつまで予定をキャンセルすればいいのか悩んだ。
体を壊したらコロナだと思った方がいいのか、PCR検査は必ず受けた方がいいのか、陰性なら無罪放免になるのか──分かっているようで、実は判断に迷うコロナに対する考え方を専門医に聞いた。

谷口俊文
米国内科専門医、米国感染症専門医、総合内科専門医・指導医、感染症専門医・指導医。専門は一般感染症、HIV感染症や移植感染症。2001年千葉大学医学部卒。2013年千葉大学大学院医学研究院にて医学博士取得。現在は千葉大学医学部附属病院感染制御部・感染症内科に所属。こびナビ幹事。

岡田玲緒奈
小児科専門医、医学博士。千葉大学医学部医学科卒。小児科専門医を習得。以後、小児血液・腫瘍分野を中心として診療に携わる。千葉大学大学院にて、マイクロRNAを起点としたがん遺伝子研究に携わり、2021年3月博士(医学)取得。2019年8月、千葉大学医学部附属病院 次世代医療構想センター特任助教として着任、千葉県内の小児科を中心とした医療政策研究に従事する。こびナビ幹事。
ーー新型コロナの症状はいろいろあると思いますが、傾向を教えてください。
谷口:熱、鼻水、喉の痛みといった風邪のような症状の方が大半です。熱だけ、咳だけといった方もいますが、気道の症状が出る方が多い印象です。
岡田:子どもの症状は特に風邪と似ています。なので、症状だけで診断する自信は全くないです。
谷口:軽い風邪のような症状だけで回復する人は多いですが、基礎疾患や肥満などの重症化リスクのある方は、1週間から10日くらい経ってだんだん息苦しくなってきて、咳がどんどんひどくなり、酸素の足りない状態になっていきます。
一概に「この症状はコロナ」と言えないところが難しいですが、嗅覚・味覚障害は一般的に風邪を起こすウイルス感染症の中では新型コロナ特有の症状なので、これが出たら感染を強く疑う目安になります。
ーー症状で判断できないとなると、やはり「体調不良になったらコロナだ」と思った方がよいのでしょうか。
谷口:症状が出る前の行動歴が重要です。多くの方のコロナは飛沫で感染します。患者さんの話をよくよく聞いてみると、ほとんどの方がマスクを取ってほかの方とお食事やカラオケをしているんです。
岡田:子どもの場合は、基本的に大人が感染して家庭にウイルスを持ち込むケースが多いです。ですから診察でも、親の行動歴を詳しく聞きます。勤めている地域、同居家族以外との会食、それも具体的に飲み会やランチに行っていないか、職場で三密になるような狭い場所で休憩したり、食事を取ったりしていないか。
谷口:医師としてはまず、行動歴を聞いて、感染しているかの当たりをつけていますね。その上でPCR検査を受けるかどうかを判断しています。
ーー私の場合は発熱だけ、咳も鼻水も倦怠感もなし。医師からは診察の最後に首の下のリンパを触って腫れがないことを確認して、濃厚接触もないし、PCR検査は任意と言われました。
谷口:行動歴、症状、重症化リスクを鑑みて検査を推奨するか判断しますが、万が一陽性だった場合を考えると「やらなくていい」とは言いづらいのが難しいんです。でもその先生は、新型コロナ感染の可能性は低いと考えていたんじゃないでしょうか。感染を疑っていたら、リンパを触るなどの接触はなるべく避けるかもしれません。
新型コロナではリンパ節が腫れる人は少ないので、溶連菌による咽頭炎といった、他の感染症に対する診察に入ったなという感じがします。
岡田:ここが医療と医学の違うところなんですが、例えば医学的には不要であるとか過剰であるとか思っても、説明を尽くしたうえでそれでも患者さんが強く望めば検査せざるを得ない時があります。判断基準が純粋に医学的に正しいかだけじゃないんですよね。
ーーでは、感染の可能性が低い場合にPCR検査を受ける意味はあるのでしょうか。陰性になっても疑いは晴れないのですよね?
谷口:他の人にうつさないという意味では、検査を受けた方がいいなとは思います。
岡田:会食、飲み会を避けるなど、感染予防行動をしっかりしていたとすると、感染している確率が低くなります。これは「検査前確率が低い」状態になりますから、陰性が出ればある程度信頼してよいとも言えます。むしろ偽陽性のリスクの高まる状況ですから。
逆に、飲み会に行っていたなど、対策が不十分だった人の場合は感染の確率がかなり高くなる、つまり検査前確率が高くなるので、陰性が出ても感染していない証明にはなりません。これがよく耳にする偽陰性の問題ですね。周囲の流行状況、本人の事前の行動歴や、その時の症状によってどれだけコロナの疑いがあるか、つまり検査前確率と呼んでいるものが変わり、検査結果の陰性の意味合いが変わるんです。
ーー何人以上の会食が危ないといった指針はあるのでしょうか。
谷口:少人数であったとしても、その相手がどういう行動をとっているか分からないので、他の人と会食をするのはリスクの高い行動です。
岡田:行政が発信している「人数制限」は、感染する確率を下げようという考えなんですよね。たとえば、飲み会に参加している人数が2人なら、相手は1人ですから、相手が多い時よりはその人が感染している可能性は低くなります。また、こちらが感染していたとしても、感染させる相手が少なくて済む。リスクがなくなるわけではなく、低くなるというだけです。個人だけでなく、社会としてのリスクを最小限にする考え方だとも言える。
その1人の相手が感染者かもしれないし、状況によっては別のグループの人にうつされるかもしれないので、少人数での飲み会でも、感染する可能性は十分あります。
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