新型コロナ後遺症としての「精神症状」が注目されない理由は?

文=みわよしこ
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 2021年4月25日、新型コロナウイルス感染症に関する3回目の「緊急事態宣言」が発効した。変異株による感染が拡大し、図書館や書店への休業要請が議論を呼ぶ中で、なぜか日本では注目されていない新型コロナ後遺症がある。不安・うつ・不眠などの精神症状だ。 新型コロナとメンタルヘルスについては、ちょうど1年前の2020年5月、本連載で取り上げている。1年が経過しても、人間社会の必死の努力は、変異株の発生と勢力拡大の背中を追いかけるのが精一杯だ。とはいえ、新型コロナウイルスの正体と感染症の内実は、日々、明らかにされつつある。そして、決して軽視できないのは、新型コロナウイルスがメンタルヘルスに直接及ぼす影響だ。

新型コロナ患者24万人を対象とした追跡研究の内容とは

 4月1日、精神医学誌『ランセット・サイカイアトリー』に、オックスフォード大学の研究者らによる「COVID-19感染6ヶ月後の精神神経症状について」という論文が発表された。

 研究対象となったのは、米国の62医療機関から提供された匿名化電子カルテ、約81万人分である。そこには、年齢・性別・人種とともに、心身の既往症や肥満度などの基礎データが記録されている。

 2020年1月20日以後に新型コロナと診断され、かつ検討開始時の2020年12月13日に生存していた10歳以上の患者は、このうち約24万人であった。この24万人は、さらに「入院しなかった(約19万人)」「入院した(約4万6000人)」「集中治療を受けた(約9000人)」「脳症を起こした(約6000人)」に分類され、それぞれについて後遺症の分析が行われた。各分類の合計が総数と合致しないのは、重複があるからだ。また分析にあたっては、インフルエンザやその他の呼吸器感染症の後遺症との比較も行われた。

20%以上に残る後遺症は「メンタルヘルス症状」

 何らかの後遺症がある患者は33.62%に及んでいる。これだけで充分にショッキングだ。

 新型コロナ後遺症としての神経疾患には「脳出血」「脳卒中」「パーキンソン病」「ギラン・バレー症候群」「仙骨神経根損傷」「脳炎」といった病名が並ぶ。「怖い」「辛そう」「痛そう」というイメージの病名ではあるが、出現率は0.08%(ギラン・バレー症候群)~2.85%(仙骨神経根損傷)となっており、高くはない。

 精神症状の出現率は、1桁大きくなる。気分障害・不安障害・その他の精神症状では、23.98 %だ。過去に既往のなかった人に限定しても、8.63%である。薬物乱用(6.58 %)や不眠症(5.42%)も目立つ。

 新型コロナ後遺症が長く残る可能性は、患者の増加が報道されはじめた2020年3月ごろから懸念されていた。後遺症は、呼吸困難・倦怠感・嗅覚障害・味覚障害・脱毛など幅広い。そして、いつ、どのように治るのかは明らかになっていない。

 今回の論文で示された後遺症の可能性は、病名を見るだけでフリーズしそうな神経疾患であったり、命には関わらないかもしれないがQOLを著しく下げるメンタルヘルス症状であったりする。とはいえ、日本で「新型コロナ後遺症といえば神経とメンタルヘルス」という認識が広まるまでには、まだまだ時間がかかりそうだ。

 新型コロナ後遺症としてメンタルヘルス症状を抱えることになった患者は、精神科や心療内科に行けばよいのだろうか? まだ、厚労省は特に指針は示していないが、筆者は「たぶん、違う」と考えている。

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