新型コロナウイルスは「心身二元論」に風穴を開けるか?

文=みわよしこ
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 2020年後半、自殺者の増加、特に子どもと女性の自殺者の増加がメディアで話題となった。しかし、2020年の自殺者数は、「統計が開始されて以来、最低」に近い水準にとどまっている。実際に起こっていることの周辺に目を凝らしてみると、浮かび上がるのは、本来分けられないものを分割して捉える考え方の行き詰まりだ。

新型コロナは自殺者を本当に増加させたのか

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 まず、1978年以後の自殺者数の推移を、グラフで見ていただきたい。コロナ禍が日本を襲った2020年、自殺者は「増えている」と言えるだろうか? 前年の2019年に比べれば増えているけれど、「激増した」とまで言えるだろうか?

 グラフの横軸が始まる1978年は、第二次オイルショックの影響が一段落した年である。この年の自殺者数は2万人程度であり、1982年まで、毎年、同程度で推移した。ところが1983年、2万5千人へと跳ね上がった。1986年まで、若干の変動はあるものの同程度で推移した。この後、自殺者数は徐々に減少し、「バブル景気」が崩壊した1991年には、2万人をわずかに下回った。

 バブル崩壊とともに、自殺者数は増加に転じた。1997年から1998年にかけては、約2万3500人から約3万1800人へと急激に増加し、以後、2003年の約3万4400人まで年々増加した。この後、自殺者数は若干の増減を伴いながら減少へと転じる。2019年には2万169人まで減少し、グラフに現れる中では最少となっている。しかし「新型コロナの影響で自殺者が増加した」とされる2020年、自殺者は増加し、2万1081人となった。それでもグラフの中では2番目に自殺者が少なかった年である。

 自殺者の変動は、おそらく社会状況や経済状況を反映している。たとえば1998年は、「バブル崩壊による経済状況の悪化が本格化したから」とされている。しかし、なぜ、バブル崩壊から7年も経過した1998年に自殺者数が急増するのだろうか? リーマン・ショックが襲った2008年以後や、東日本大震災が起こった2011年も、直接的な影響をグラフから読み取るのは難しい。ともあれ2011年以後、自殺者数は減少に転じ、2019年に底を打っていた。

 2020年、自殺者数がわずかに増えたのは、新型コロナの影響の現れなのだろうか? 少なくとも、数値とグラフだけで「その通り」と断言するのは難しそうだ。

2020年後半に見られた傾向の謎

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 2020年の自殺者数を月別に見てみると、「もしかすると、新型コロナの影響かも」という変化を読み取ることができる。

 毎年、自殺者数がピークとなるのは3月、ついで5月であることが多い。春は「木の芽時」と呼ばれ、メンタルヘルスが不安定になりやすいと言われている。日本では、年度始めも重なる。メンタルヘルスが不安定になったところに、進学・進級・異動・転勤などのストレスが重なる。これが自殺の原因であるかどうかは不明だが、ともあれ、3月と5月に自殺者が多い傾向は続いてきた。

 2020年は、様相が全く異なっていた。6月までの自殺者数は、近年に例を見ない少数で推移していた。ところが7月に増加へと転じ、10月にピークとなり、年末にかけて減少した。例年と「何かが違う」ということは間違いない。

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