欧州サッカーESL騒動のような状況が起きると、マルクス・『資本論』は予想していた!?

文=白井聡
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Getty Imagesより

●「セカイ」を『資本論』から読み解く(第2回)

 先月、ヨーロッパのスポーツ界に激震が走りました。サッカーのヨーロッパスーパーリーグ(ESL)構想の事件です。

 4月18日に、計12のビッククラブ(スペインのレアル・マドリード、バルセロナ、アトレティコ・マドリード、イタリアのユベントス、ミラン、インテル、イングランドのマンチェスター・シティ、リバプール、アーセナル、トッテナム、マンチェスター・ユナイテッド、チェルシー)が、正式な合意文書を交わしたものとして、新リーグ立ち上げの構想をぶち上げたのです。

 この構想は突然現れたものではありません。欧州サッカーの最高峰としてUEFAチャンピオンズリーグがありますが、上記12クラブに代表されるビッグクラブは、その収益の分配に対してかねてから不満をいだいており、より多くの分け前を求めてきました。そもそもチャンピオンズリーグ自体が、各国1チームのみが出場できたチャンピオンズカップに対するビッグクラブの不満に押されるかたちで、同カップが拡大されて出来たという経緯があります。

 チャンピオンズリーグ設立以降も、ビッグクラブ連合は、さらなる収益を求めて圧力を掛け続けてきました。要するにそれは、「もっとよこさなければ、新リーグを立ち上げるぞ」というものにほかなりません。

 今回新しかったのは、合意文書にサインがされ、すでに決定された事項として新リーグ設立が宣言されたことでした。その背景には、コロナ禍による各クラブの収支悪化があると考えられます。

 ですが、わずか2日間でこの構想は頓挫しました。UEFAはきわめて決然たる態度を示し、このリーグに参加するクラブと所属選手は、UEFAならびにFIFA(当然ワールドカップも含まれる)が主催するすべての試合から排除されることを宣言しました。

 UEFAの絶対的に非妥協的な姿勢に直面したESL勢は、イングランド勢がいち早く離脱するなどあっという間に結束を乱し、構想撤回のやむなきに至ったのです。

 さて、この騒動がマルクス『資本論』と何の関係があるのでしょうか? 実は大ありなのです。

 マルクスは、資本主義の未来について、おおよそ次のような展望を持っていました。すなわち、資本主義社会の基本は絶えざる競争、弱肉強食の世界です。

 資本=企業は、労働者から搾取するという意味では「奪う側」にいますが、他の資本=企業と競争し、打ち倒されてしまうときには、「奪われる側」にいることになります。競争を制限する要因がなければ、資本間競争は極限まで進み、有力な資本が競争力に劣る資本を打ち負かし、ついにはただ一つの資本=企業だけが生き残る、ということに論理的にはなります。そのようにして唯一の存在となった資本=企業のことを「独占資本」といいます。

 マルクスは、以上のようなロジックから、資本主義が発展するに連れて、自由競争から寡占へ、寡占から独占資本の形成へと向かってゆく、と考えていました。

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