欧州サッカーESL騒動のような状況が起きると、マルクス・『資本論』は予想していた!?

文=白井聡
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 ヨーロッパのサッカーシーンは、1990年代以降、まさにこの論理の見本のような展開を示してきました。

 重大な転換点は1996₋97シーズンに導入されたボスマンルールでした。この規則はEU内の労働力移動の自由の原則に従って、EU加盟諸国のチームは、EUパスポートを持つ選手に対しては外国人枠が適用されないよう命じるものでした。かつては、外国人選手は、1チームあたり3人程度というのが一般的でしたが、これ以降大幅に増加し、スターティングメンバーが全員外国籍選手という光景すら現れるようになりました。近年日本人サッカー選手の欧州移籍が激増しましたが、これもボスマンルールなしにはあり得なかったでしょう。

 こうした「自由化」とは、言い換えれば、競争を制限する要因の除去です。チーム編成における選手の国籍による制約が大幅に縮小したのですから、強力なチームをつくれるかどうかは資金力にかかってきます。かくして、各国リーグ間の実力格差、またリーグ内でのチーム間の実力格差とその固定化が進んできました。

 カネのある強力なクラブはより一層金持ちで強くなり、弱小なクラブはより一層貧しく弱くなってきました。つまり、ESLを立ち上げようとしたビッグクラブは、マルクスの言う独占資本的な存在へと、近づいてきたのであって、ESL構想はその立場をさらに一層打ち固めようとするものでした。

 ところで、今回ESL勢がわずか2日で敗退せざるを得なかった理由は、UEFAが強硬姿勢を突きつけたことだけでなく、それ以上に、サッカーファンから、さらにはサッカー関係者からも激しい反発を浴びたという事実にあると言えます。

 メンバーを基本的に固定するというESLが成立してしまえば、伝統ある各国のリーグは一種の二軍戦のようなものへと格下げされてしまうということへの憤激が巻き起こりました。

 欧州のサッカーファンは、上述してきたここ25年ほどの欧州サッカーシーンの「カネこそすべて」という傾向を目撃してきたはずですし、戦力の独占が進めば、いわゆる番狂わせが起る可能性は減ってきますから、結局のところ独占は競技の醍醐味を奪うことを痛感させられてきたはずです。

 マルクスの明らかにした資本主義のロジックが純粋に現れてくるのが新自由主義化した資本主義の世界です。ですから、欧州サッカーで進行してきた独占と格差拡大は、まさに新自由主義的プロセスの典型だったと言えます。これに対する民衆の激しい批判と抵抗が展開されたという事実は、一種の希望の光であると言えるかもしれません。

(白井聡)

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欧州サッカーESL騒動のような状況が起きると、マルクス・『資本論』は予想していた!?の画像2 ウェジー 2021.03.28

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